薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

古代の竜と二角獣

リアクション公開中!

古代の竜と二角獣

リアクション


美味しい料理と古代竜

「じゃんじゃん行くわよ、何しろ相手は5000年間も欠食児童だったんだから」
 遺跡都市アルディリス。その奥、名も忘れられた古代竜の住処の前で、即席の(けれど巨大な)料理施設で綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はそう言う。
 その言葉と一緒に作り上げられたのは巨大な鍋で作られたパエリア。大型の鍋に野菜類、肉、魚介類、スパイスなどをいれこみ、、特に肉を多めにいれてガッツリ系になっている。古代竜の顔と同じくらい大きな鍋いっぱいに作られていた。
「それでは、運んでもらっていいですの?」
「了解っす」
 そのパエリアの入った大きな鍋を運ぶようにアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はニルミナス防衛団に頼む。
 防衛団は20人がかりでその大きな鍋を古代竜の元へと持っていく。
 そうしている間にもさゆみは次の料理に取り掛かる。
「アディ、手伝ってくれる?」
「最初からそのつもりですわ」
 さゆみの言葉にそう答えるアデリーヌ。
 スキルなども使って大きな皿いっぱいになるように巨大ハンバーガーの具を作るさゆみ。それをはさみ盛りつけてハンバーガーとして完成させるアデリーヌ。
 さゆみが調理をし、アデリーヌが盛り付ける。
 分担して二人は料理をしていき、パエリア、ハンバーガーの他にもポテトフライやサラダなどを作っていく。
「さゆみ、そろそろデザート作りましょうか?」
 そうしてそろそろ古代竜も満足しただろうと思ったところでアデリーヌはさゆみにそう言う。
「そうね、これだけ作れば流石に……」
『ふむ……旨い料理だ。一割ほどだが腹も膨れた』
 頭のなかに響く古代竜の言葉。
「「………………」」
 それを受けて二人は……。
「まだまだデザートを作るには早いようですわ」
「正直腕とかパンパンなんだけど……作りがいはあるわね」
 疲労の中でもやる気を失わず、より一層料理を作るのに励むのだった。


「ふふふ……思ったよりは大きな鍋を使えるのですわ」
 古代竜の顔ほどもある鍋を前にしてそんなことを言うのはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。ユーリカとしては遺跡都市の奥まで100キログラム程度の鍋しか持ち込めないと思っていただけに、もっと大きな鍋を持ち込めた(本当にギリギリだったが)のは嬉しい誤算だった。
「料理は一度に沢山作った方が、美味しくなるのですわ。……つまりこれだけ一気に作ればとても美味しくなるのですわ」
 持論を嬉しそうに言いながら料理を進めるユーリカ。
「アルティアちゃん。そっちの鍋は大丈夫ですの?」
「問題ないのでございます」
 ユーリカに料理の火の番を頼まれたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)はそう答える。
「それにしても皆さん美味しそうな料理を沢山作っているのでございます」
 ユーリカたちの他にもさゆみたちを始めとして契約者たちが古代竜のために料理を作っている。そのどれもが美味しそうな料理ばかりだ。
「たくさん作っているのですから美味しくなるのは当然ですわ」
「……そういう話ではないのでございます」
 ただ、実際にユーリカの料理はたくさん作れば作るほど美味しくなるため、アルティアとしても否定はできない。ただし食べきれないくらい作るユーリカに困っているのは変わらないが。
「アルティアちゃん。そろそろ材料が切れそうですわ。イグナちゃんにもらいにいってくださいですの」
「わかったのでございます」
 ユーリカの指示を受けて食材の運送を担当しているイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)のもとへアルティアは行く。
「イグナさん。ユーリカさんに食材をもらってくるよう頼まれたのでございます」
「うむ。分かっている。持って行くといいのだよ」
 アルティアが指示する食材を大きな荷車に載せていくイグナ。
「ありがとうございます」
「しかし、この調子でいくと持ってきた食材が足りなそうなのだよ」
 ニルミナス防衛団と協力しながら多くの食材を持ってきたが、半分ほど消費した今も古代竜の胃袋の底は見えない。
「村に食材が未だあるのでございましょうか?」
「うむ。不安であるな。ないのであれば街へと買いに行かないといけないのであるよ」
 村に食材があるのであれば今から取りに行けば滞り無く料理ができるだろう。だが、街に行くとなると一時的に料理ができなくなるかもしれない。
「最初運んできた食材と同じ程度の量ですが、村にはまだ食材がありますよ」
 イグナ達の元へやってきてそういうのは穂波。
「そうであるなら、行ってくるのであるよ」
「一応、こうなることを予想して村の人達に運送を頼んでいます。そちらの指揮をとってもられれば」
「了解であるよ」
 そうして食材をとりに村へと戻るイグナ。アルティアもユーリカの元へ食材を運ぶ。

「最初に持ってきた食材の時点で思っていたのですが……、更に倍となると完全に村の人口に対して貯蓄しているにしても多すぎますね」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は穂波にそう聞く。村で用意された食材。それは小さな村が用意できる食材の量を大きく超えている。
「どうやって用意したんですか?」
「近隣の町から買い集めただけですよ」
 だから時間がかかったと近遠の質問に穂波は答える。
「買い集めるにしても資金が必要なはずですが……」
 現在のニルミナスにそこまでの財力があるようには思えない。あるいは祭の収益を当てればどうにかなるだろうが、それは音楽学校の校舎作りで残っていないだろう。
「……おじいちゃんが残してくれたお金がありましたから」
 それも今回でほとんどなくなったと穂波は言う。
「……個人で、あれだけの量の食材を用意する資金があるとは」
 近遠は思う。時々、ニルミナスの財源に疑問に思っていたことがあった。ニルミナスという村の規模に対してニルミナスの事業の規模は大きい。
(……それを可能にしていたのが前村長の資金ですか)
 それの源は何だったのか。死した後にも前村長は謎の多い人物だった。


「古代竜さん餌付けしてくるの〜!」
 そう言って出来た料理を及川 翠(おいかわ・みどり)は古代竜の元へと運んでいく。
「いいんですか? ミリアさん。翠さん出来上がる前の料理持って行きましたけど」
 翠を止められず見送りながらミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)にそう聞くのは椿 更紗(つばき・さらさ)だ。
「いいんじゃない? どうせあの子がいてもじゃm……大して役にはたたないし」
 こほんと言い直しながらミリアはそう言う。言い直してるのに酷い言いようだが、同時に愛も感じるから不思議なものだ。
「まぁ、翠は古代竜さんに遊んでもらうとして私達はスノゥの手伝いをするわよ」
「ふぇ〜……まだまだ必要なんですね〜」
 そうゆっくりな口調で言いながらも料理を手早く作っていくのはスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)だ。普段のゆっくりとした印象とは違い料理を作っていく手順に無駄はない。
「更紗も頑張るのです!」
 スノゥに負けないように更紗も隣で付け合せの料理を作っていく。
「そっちの野菜を洗ってから切ってもらえますか〜?」
「それくらいなら任せて」
 スノゥや更紗に比べたら料理が得意という程でもないミリアはスノゥのアシスタントとしてできることを着実にやっていく。
 料理が得意な二人をミリアがアシスタントする形で三人の料理は順調に進んでいく。
「……本当に順調よね」
 もしもここに翠がいたらどうなるかをミリアは考える。考えた結果、考えないほうが心の安寧が保つのにいいのが分かった。
「そろそろ〜追加の食材もなくなりますね〜」
 つまり、古代竜が満足しようがしまいが、ひとまず料理は終了だ。
「満足してもらえればいいのですが……」
 更紗は不安に思う。古代竜の大きさや食べていなかった5000年という時間。それを考えるとどれだけ食べてもらっても足りないようにも思える。
「まぁ、5000年食べなくても生きてるってことは、それほど食べなくても平気ってことだから。なんとかなるんじゃないかしら。……多分」
 単なる願望だが、そうじゃないと困るとミリア。
「ところで〜、翠ちゃんが帰ってこないのですが〜」
「そういえば遅いのです」
「間違えられて食べられてるのかしら」
 ミリアの言葉に有り得そうと思う3人。
「……ま、翠だし平気でしょ」
 食べられててもと。ミリアはそう言うのだった。


「うぅ……あんまり美味しくないの」
 運んでいた料理をつまみ食いした翠はそう言う。……火を通す料理がまだ火を通してないのだから当然である。
『人間の娘よ。その料理を置いて少し下がるが良い」
「? 分かったの」
 その様子を見ていた古代竜は翠にそう言って下がらせる。そして翠が下がった後に火を吹き皿ごと料理を熱した。
『食べるが良い』
「美味しいの!」
 当初の目的も忘れて古代竜の前で料理を食べる翠。
『料理とは種族の叡智の結晶であり、食べられる者たちへの最大限の感謝の形だ』
「? どういう意味なの?」
『美味しく食べろということだ』
「うん。美味しいの。……古代竜さんも美味しく食べてるの?」
『無論だ。人の歴史の重みとともに楽しませてもらっている』
「それじゃ、一つ目の課題クリアなの?」
 ここにミリアたちがいたら驚いていたかもしれない。翠が課題のことを覚えているなど誰が予想しただろうか。
『ふむ……今作っている料理をすべて食べても7割と言ったところだが……』
 古代竜は続ける。
『料理の美味しさと、もてなしの心。我の言葉を素直に受け取ったことに免じて大目に見よう』


 こうして古代竜の課題その一はなんとかクリアできたのだった。