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古代の竜と二角獣

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古代の竜と二角獣

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バイコーンの願い

「バイコーン……二角獣か。確か、元は一つで時が断つに連れて純潔のユニコーンと、不浄のバイコーンへと分かれたって、説があったな」
 佐野 和輝(さの・かずき)はゴブリンたちの集落に向かいながら考える。
「既に面倒事を抱えている村に、何しに来たのやら……」
「この森の問題である以上、ゴブリンキングが何かを知っているのは間違いでしょう」
 スフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)は和輝の問にそう返す。
「それにしてもルナを呼んでいて正解でしたね。ゴブリンキングに話を聴きやすくなるのもですが……」
 スフィアの言う先にはルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)の姿とアニス・パラス(あにす・ぱらす)の姿がある。
「そうだな……正直今のアニスを俺達だけでケアするのは難しい」
「あのペンダントのおかげもあるのでしょうが、現在はひとまず精神状態は安定しています。しかし……」
「ああ。あくまでそれは表面上のことだ」
「和輝はともかく私はまだそういったことが苦手です」
「……俺もそうスフィアと変わらないさ」
 そういったことが得意なタイプの人間ではないことは和輝自身分かってる。
「いいえ、和輝。少なくともアニスの事に関するのであれば、和輝は私以上に『そういったこと』が得意なはずですよ」
「……そうだといいな」
 それは和輝の始まりのお話だ。それをもう一度出来るのか……。
「今はとにかく、ゴブリンキングの元へ急ぐか。悩むのは事件を解決した後にもできる」
「了解です」
(頼まれた以上は、村−−−娘は守るさ。対価の先払いをされてしまってるからな)
 そう思う和輝の視線の先にはアニスが前村長から渡されたペンダントがあった。


(和輝さんが常に一緒にいるので表面化してませんが……ちょっと、傷が深いですねぇ……悔しいですが、私では完治させることはできませんですぅ)
 アニスのそばに居てその様子を観察しながら癒せないかと接しているルナだが、この傷を自分の手で治すことは難しいとルナは思う。
「へぇ……バイコーンが集団でこの森に来ることもあるんだ。……でも、ならどうして今まで噂になってなかったのかな?」
 アニスはいつものように『皆』と話をしている。バイコーンについて聞いているようだが、そう重要な情報は手にはいっていないようだ。
「ふーん。今まではゴブリンやコボルトが怖くて人は森に近づいてなかったんだ。でも今は誤解が解けてるから……」
 なるほどと頷くアニス。
「ペンダント?……んとね、いつの間にか持ってたの……『皆』、何か知ってるの?」
(それにしても……アニスのしてるペンダント、ちょっと気になりますねぇ?)
 『皆』と話している間たびたびアニスはペンダントを握っていた。
「むぅ……知ってるけど答えてくれないんだ」
(たんなるペンダントじゃなくて何か力を持っているペンダントなのは確かですけどねぇ)
 それが具体的にどんな力を持っているかはわからない。
「……今はゴブリンキングさんに話を聞きましょうかねぇ」
 結局和輝と同じ結論に達するルナ。ペンダントは気になるが、今考えても答えは出ないだろう。

 そうしてルナを中心にゴブリンキングからバイコーンの話を聞くことに成功する。



「不純の象徴のバイコーン? ユニコーンと全く逆なんだね」
 例のゴブリンを探しながら雲入 弥狐(くもいり・みこ)は話の中で奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)にそう聞く。
「ユニコーンと対を成すとは言われてるわね。……ユニコーンがいるからやってきた? そんな安直な答えなわけないわよね」
 そもそもユニコーンがいるのは村のほうだ。ユニコーンがいるからやってきたとしたのなら村ではなく森の現れた理由に説明がつかない。
「でも理由もなくふらりと訪れるわけないだろうし。このまま居られても困る……と。とりあえず理由がわかるといいね」
 森の住むゴブリンならきっと知っているだろうと沙夢と弥狐は例のゴブリンに話を聞こうと探しているのだった。
「バイコーンの目的が何かはわからないけど……私達で解決できるものだといいわね」
 解決できないのなら……自分たちがどうするかはともかく実力行使になってしまうだろうから。
「あ、あのゴブリンだよね」
 自分たちが探すゴブリンを見つけて弥狐は声を上げる。このゴブリンとの付き合いも長いためか、他のゴブリンとの見分けも簡単になっていた。
「例のペンダントもしてるみたいだし間違いないわね」
 沙夢もそう言う。そんな二人に気づいたのかゴブリンの方から近づいてきた。このゴブリンにとって、二人はもう特別な存在だ。
『少し聞きたいことがあるんだけど』
 ジェスチャーでそう伝える沙夢。ゴブリンは頷いて続きを促す。
『そのペンダントは誰からもらったの?』
「沙夢?」
 バイコーンのことではなくペンダントのことを聞く沙夢に首を傾げる弥狐。
「聞けるうちに聞いておこうと思ってね。……『み』『な』『ほ』。……村長からもらったのね」
 ゴブリンのジェスチャーを読み取る沙夢。
『ありがとう』
 そしてここからが本題だと沙夢はジェスチャーを続けバイコーンのことについて聞く。そしてゴブリンから伝えられた情報は……
「もし、今回のバイコーンもそのために来てるなら……悲しいね」
 ゴブリンからの情報を受けて弥狐はそう言う。
「多分今頃他の契約者達も私達と同じ情報を手に入れているはずだわ。……この情報から村長はどうするのかしら」

 もうすぐミナホのもとにバイコーンの目的が伝えられようとしていた。


「うぅ……またはぐれました」
 瑛菜たちに引き続きまたしてもセレンたちからはぐれ、迷子になった瑛菜。契約者に気をつけてもらっている状態ではぐれるとか、わざとやってるんじゃないかというレベルだ。
「おや、村長だネ。村長もバイコーンに会いに来たのかナ?」
 そんなミナホのもとにロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が前からやってくる。
「一応そうなるんでしょうか?……ロレンツォさんはその様子ですとバイコーンに会いに来たということで間違いないみたいですね」
 ミナホの言葉にロレンツォは頷く。
「だって、清浄の象徴ユニコーンと対を成し、不浄の象徴たるバイコーンだヨ。会ってできれば話を聞いてみたいと思うの当然ネ」
「いえ……何が当然なのか全然わからないんですが」
 ミナホにとってバイコーンははっきりいって恐怖の対象だ。襲われたら自分で対処はできないし……襲われた時の辛さも想像できないのが怖い。
「不浄の象徴……そんな『存在理由』、ワタシだったらとても受け入れることが出来ないヨ。あえてそのような立場を受け入れるバイコーン自身にも、自分自身のこととか聞いてみたいと思うのは当然だと思うヨ」
 ロレンツォは続ける。
「『不浄の象徴』たることをその身に引きうけて生きていくって、根性据わってると思うネ」
「そういう……ものなんでしょうか?」
 そういう存在だからそうあるだけじゃないのだろうか? ミナホはそう思う。だってそうじゃなきゃ……
「ミナホ、ロレンツォの話は核心をついてるよ。……まぁ方向性は逆なんだけど」
「瑛菜さん。バイコーンの目的がわかったんですか?」
 やってきた瑛菜にミナホはそう聞く。
「ああ、コボルトロードに話を聞いてね。ゴブリンたちから聞いた話も同じみたいだしたぶん、間違いないよ」
 それにしてもと瑛菜は続ける。
「ロレンツォ、さっきの話本当に自分だけで思ってたことなのか?」
「ふつうのことネ」
「いや……そういう考え方できるのは貴重だと思うよ」
 感心する様子の瑛菜。
「それで瑛菜さん、バイコーンの目的というのは……」
「話の主題はさっきロレンツォが言ったとおりだよ。ただ、実際は――」
 瑛菜はバイコーンがこの森に来た目的をミナホに話していく。
「それで? ミナホ。バイコーンの目的はわかったわけだけど……あんたはどうする?」
 話を終えて、瑛菜はミナホにそう質問する。
「決まっていますよ。バイコーンさんの目的を助けましょう」

 バイコーンを救うためにミナホたちは動き始めた。