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一会→十会 —魂の在処—

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一会→十会 —魂の在処—

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【4】


「餅は餅屋! ハルカ、ちょっと下がってて!」
 ごちゃまぜでぐるぐるの世界の中で、見憶えのある、しかし決して再会したくなかった異世界人の姿を見つける。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、その姿をなるべくハルカに見せまいと、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と共に前に出た。
 いや、本当なら自分だって前に出たくはない、恐るべき相手。かつて美羽とコハクは、仲間と共に飛ばされた異世界で彼等と対峙し散々な目にあったのだ。
「わ、あわわ」
 マントを翻し、ザムザムと肩で風を切って堂々と歩む鋼の如き屈強なる肉体を持つ集団に、ハルカはぐるぐると左右を見る。まるでスローモーションのような光景を前に、視線を定める場所がわからない。
「えーと、……困ったのです」
「目を塞いでいなさいな!」
 そう言ったエリシアは、ハルカがアドヴァイスに従うよりも先に、自らの両手でハルカの目を塞ぐ。

「どうしたことだ、ここは異世界かっ!?」
「ふん、此処が何処であろうと、我らロミスカの戦士は何をも恐れぬ!」
「そうとも、これが我々に課せられた運命と書いてさだめとするならば、我々がこの世界で行うことはひとつ!」

 大股で闊歩していたのは、全裸にマント、そして頭にぱんつを被った戦士達。何故全裸なのか、それでは何も守れないのではと常人なら思うのだろうが、この戦士達は『ロミスカ』という異世界の人間である。そこに此方の世界のルールは通じない。
 そう、ロミスカではぱんつこそが法であり、唯一の理。更にぱんつを頭上に戴く事によって、ロミスカの戦士は契約者よりも強大な力を持つ事が出来るのだ。
 肉体と同じ様にまた鋼の如き心を持った戦士達は、ハルカ達の姿を見つけて、ザシャアッ、と立ち止まり、立ちはだかった。
「そこの女子! ぱんつ置いてけえ!」
「阿呆かあっ!!!」
 直後、バーストダッシュからの、絶妙の鉄壁飛連脚がその顔面に決まり、美羽の連続飛び蹴りを喰らったぱんつ戦士は、鼻血をぶちまけながら、のけぞって倒れる。
「馬鹿な……っ! ぱんつが見えない……だと……!?」
 先頭のぱんつ戦士は地に沈み、その背後のぱんつ戦士達からどよめきが漏れる。
 ストンと跳び退いて着地した美羽は、ぽんとミニスカを払って笑った。彼女は此処暫く『プラヴダ』の一等軍曹魔法少女から、“華やかな衣装を着ても不容易にパンチラをしない為の妙技”を教わっていたのである。
「マジカル一等軍曹☆キアラちゃんの指導で磨きがかかった私の蹴り、あんた達になんか見極められないんだから!」

 そこへ上手く気配を殺して死角から攻めてくる『和の国』の忍者の短刀を、コハクは神の目を以って見破り、疾風の如き突きで返り討ちにして、槍の柄を急所に叩きつける。
 殺す必要はなかった。気絶させる等戦闘不能状態にすれば、体がふわりとぼやけて消え失せ、その魂は元の世界に戻るらしいと知ったからだ。
「全力で行きます! アッシュさん、フォローお願いします!」
 一ヶ所に留まっていると、飛び交っている大荒野の遺跡で出会った『アッシュホテップの』スカラベが集まって、無限に増えて行く。
 脅威とまでは言えなくても、大量になると厄介な相手だ。前衛は頼りになる美羽やコハク達に任せ、後方から支援するベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、フィッツと共に、蝿のように飛び交うスカラベをまとめて片付けようと、ファイアストームを放つ。
「わかった!」
 しかし如何に激しい火の粉が舞い上がろうと、凄まじい熱量であろうと、此処には『炎を操る者』が居る。アッシュが居る限り、空京大学のキャンパスには一切の被害が及ばないのだ。

「この変態達、こっちの世界じゃあっち程強くないみたい! ぱんつ被ってなくても勝てるよ!」
 美羽が後衛に叫ぶ。
 彼女とコハクはかつてロミスカのコロッセオでゴールデンパンティを巡る聖戦に参加したものの、ぱんつを頭に被るという恐怖と羞恥に負けてしまった。だが先程も言った様にロミスカではぱんつこそが理。ぱんつを被らぬ契約者など取るに足らない赤子の用な存在であり、あの時既にパラミタでも有数の契約者であった美羽とコハクだというのに、戦士達には手も足も出なかった苦い記憶がある。
 しかし、今この地へ飛ばされたロミスカ戦士達はあの時とは違う。蹴りが届き、刃をぶつけ合えるのだ。
「行ける!」
 ぱんつ戦士を蹴散らしながらのルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、「それは何よりだ」と心底安堵した。
 ハルカの教育上良くないと思い、ダリルは光条兵器の対象選択機能を利用して、ぱんつ指定で攻撃して行く。
 舞花も同様、ダリルの更に後ろから、トランスガンブレードでぱんつを慎重に狙い撃った。
「くっ……代わりに貴様のぱんつをっ……」
「渡すわけないでしょ!」
 多大なダメージを受けつつも尚諦めず、瀕死の状態で手を伸ばすぱんつ戦士に、ルカルカが止めを刺す。漢として常に戦いを求めるロミスカの人間は兎も角、此処には暗殺を命じる主や、敵を倒せと操る神官が居ないというのに、忍者やスカラベまでも契約者を攻撃してくるのは何故なのだろうか。
「もう、どうして大人しく倒されてくれないかな! そうすれば彼等も自分の世界に帰れるのに!」
「……仮説に過ぎないが、瘴気が此方の人間だけに影響しているとは限らない。だから彼等には我々に対する敵意しか無いのだろう」
 状況を把握し、解析して判断したダリルが、そう意見を述べる。
「サヴァスが現れた時の、研究員達みたいな?」
「恐らく」
 ルカルカの言葉に頷いた。

 ダリルの光条エネルギーの結界でハルカの身が淡い光に護られているとしても、攻撃からは極力護るのが当然だった。それにエリシアと舞花は、それをアッシュと約束したのだ。緊張を持っていた彼女がそれにいち早く気付いたのは、言わずもがなだ。
「ハルカ、危ないっ!」
 ぐい、とエリシアが引き寄せたハルカの目の前を、忍者の反りの無い長脇差が掠める。逆手に振り抜いた忍者の肩を、エリシアが押し返していたその時――
「あっ」
 ハルカの手元が揺らぎ、その手に持っていた物が零れる。それがリノリウムへ向かって落ちて行く一瞬の間に、契約者全て目が集中したのを、敵は見逃さなかった。
 それは、何か重要な物である、と。
 盾の横から投げ放ったクナイが、レーダーを貫き、向こうの壁に突き刺さる。舞花が一拍遅れてポイントシフトで飛び込み、ガンブレードで忍者を薙ぎ払う。倒れながら、忍者はそのまま消えた。