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七夕祭りinパラミタ内海

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七夕祭りinパラミタ内海

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「あの双子にしては珍しくいいことするじゃない」
「それだけならいいけど」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は賑やかな祭りの様子に珍しく感心を見せていたが、双子を知る二人は嫌な予感も忘れない。
「まぁ、しょーもないことしたらしたでその時シメればいいわよ。それよりも……」
 双子の騒ぎに慣れているセレンフィリティの優先するべきは祭りを楽しむ事。
「食べ歩きね」
 先回りしてセレアナは屋台に顔を向けてながら言った。食欲魔人のセレンフィリティの事だからと。
「それもするけど、七夕と言ったらあれでしょ。ほら、行くわよ、セレン」
 セレンフィリティはセレアナの意見は指摘せず、笹の方を指さすなりさっさと行ってしまった。
「はいはい」
 セレアナはいつものように後に続いた。

 数枚定番な事を書いた後、
「……二人の前途に幸あれ、と(この願いは欠かせないわね)」
 セレアナは最も欠かせない願い事を綺麗な字でさらりと書き、彦星と織姫に見立てた自分とセレンフィリティを上手に描いた。最近セレンフィリティと結婚したセレアナにとってはどんな願い事よりも大事な事。
「笹飾りもいくつか必要ね」
 短冊が出来上がると笹飾りを丁寧に作製始めた。
 その横では
「……(願いと言えば、これでしょ。セレアナと一生幸せに暮らせますように……ついでに絵も描いておこうかしら)」
 セレンフィリティが想いを込めて悪筆な字で短冊に願い事を書き、彦星と織姫の絵を描くが残念な完成度である。
 当然
「……セレン、何て書いたの? しかもこの何かは……」
 気付いたセレアナがツッコミを入れる。何かを書いている事だけは分かるが。
「見て分かるでしょ、この絵は彦星と織姫よ。願い事は……セレンと一緒よ。次は笹飾りを作るわよ」
 セレンフィリティは絵について力説し、願い事についてはちらりと見えたセレアナの短冊を見て少しの照れを含みつつ大雑把に答えるなり笹飾り作製に入った。こちらはそれなりに上手に作っていた。
 そして
「出来たわ。さぁ、腹ごしらえしに行くわよ」
 セレンフィリティは七夕定番のイベントをこなすやいなやあちこちの屋台で駆けて行った。
「食べ過ぎないのよ」
 届かないと分かっていてもセレアナは注意を忘れない。
 あちこち食べ歩きしてセレンフィリティは食欲魔人ぶりを発揮させてからキャンプファイヤーではしゃぎ頃合いを見計らい皆と離れて波打ち際の散歩へ。

 静かな浜辺。

 空に輝く星々は海にも映り込み、空と海の境界が消えていた。
「……綺麗ね」
 セレアナは歩きながら美しい光景に心奪われていた。
「……」
 隣を歩くセレンフィリティは海に映る星空と最愛の横顔を比較していた。
「何、セレン?」
 セレンフィリティのあまりにも熱い視線にセレアナが気付き、訝しげに訊ねた。
「見惚れてたのよ。海に映る星空も綺麗だけど……やっぱり、セレアナの方が綺麗だなって」
 セレンフィリティは心底幸せそうに笑顔で答えた。
「セレン……」
 セレアナが何事かを言う前に
「そうだ、セレアナ、星を捕まえに行こう」
 セレンフィリティはばっと着ていたTシャツとホットパンツを脱ぎ捨てセレアナに手を差し出した。
「ちょっ、セレン」
 すっかり先程の言おうとしていた言葉を失ったセレアナは急かされるまま服を脱いで水着姿になり、差し出された手を握った。
「ほら、行くよ」
「……全く」
 手を繋いだままセレンフィリティとセレアナは海へ。

 星明かりをちりばめた海。

 二人はゆるりと少し沖まで出て星空を映した水面に浮いて手を繋ぎながら夜空を見上げ、
「地球とパラミタとは星空は違うけど、どこが彦星と織姫なのかしら」
「そうね……たぶんあれじゃないかしら」
 彦星と織姫を探すセレンフィリティに『博識』を有するセレアナが握っていない方の手で空を指し示しながら教えたり。
 次第に言葉は少なくなり
「……」
 ただ静かに星と月が照らす中漂う二人は互いに視線を交わし、笑みをこぼす。心が通じ合う二人にとって言葉を交わす必要はない。
 そのまましばらく幸せな気持ちのまま漂っていたが、最後は海から上がり、笹流しに参加し、美しいその光景を寄り添い眺めていた。