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七夕祭りinパラミタ内海

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七夕祭りinパラミタ内海

リアクション

「♪♪」
 神崎 紫苑(かんざき・しおん)は父親の神崎 優(かんざき・ゆう)に抱っこされながら立ち並ぶ賑やかな屋台や行き交う人達の笑い声を楽しそうに聞いたり見たりしていた。
「紫苑、あんまり身を乗り出すなよ」
 今にも自分の腕をすり抜けそうな程身を乗り出している紫苑を優は必死に抱き抱えていた。
「紫苑ったら、七夕祭りに興味津々ね」
 神崎 零(かんざき・れい)は好奇心を発揮し楽しそうな娘の様子に微笑ましげに笑った。
「……海に行ったら紫苑はもっと目を輝かせるな」
 優は星広がる空と海に目を輝かせるだろう娘の姿を想像し、口元が綻んだ。家族三人浴衣を着てほっこりと家族団らんを楽しむ神崎家は笹があちこちに設置されている浜辺の方へ向かった。。ちなみに紫苑は両親に交代で抱っこされていた。

 笹溢れる浜辺。

「ほら、紫苑、これが笹だよ」
 紫苑を抱っこをした零がそっと笹に近付けると
「♪♪」
 紫苑はするりと零の腕から飛び出してヴァルキリーの翼で飛び回り、笹や吹き流しや網飾りなどの飾りを触ったりじぃと見たり楽しんでいた。
「紫苑、これは笹って言ってね、お願い事を書いた短冊や色んな飾りを付けるんだよ。七夕というのはね……」
 零が楽しんでいる娘にニコニコと七夕との説明した。その横で優は何やら秘密の作業をしていた。
「紫苑、次はお星様を見に行こうか」
 零はふわりと笹の周りを飛び回る紫苑に声を掛けた。あまり放っておくと興味のままにどこかに行ってしまいそうなので。
「♪♪」
 紫苑は母親の声に気付くなりにこぉと笑んで、母親の胸に飛び込むと思いきや
「星が沢山の海を見に行くか」
 選んだのは父親の優だった。
「♪♪」
 抱っこされ甘える紫苑の頭を愛おしそうに優しく撫でる優。
 それを
「……(呼んだのは私なのに……本当に紫苑はパパっ子ね)」
 複雑そうに見ている母親の零。何せ紫苑は母親の自分よりも父親の優がお気に入りなのだ。
 ともかく、三人は静かに星々が見える場所に移動する事に。
 途中、花火やキャンプファイヤーが始まり紫苑の興味を大いに刺激した。
「ほら、紫苑、花火だ」
「綺麗ねぇ」
 優と零は空に花火が咲き誇る度に指さして紫苑に話しかけた。
「♪♪」
 紫苑は嬉しそうにカラフルな光の花をニコニコと見ていた。

 花火はほとんど危険が無いため紫苑への心配もそれほど無かったのだが、キャンプファイヤーは違った。
「♪♪」
 紫苑は煌々と天まで届くかと思われるほど燃え盛る炎に興味津々となり、キャンプファイヤーに向かって手を伸ばしたり飛んで行きたそうにいごいごと身体を動かし始める。
「紫苑、火は危ないから大人しくしてくれ」
 優は炎に向かって伸ばした小さな手を握り締め、飛んで行かないようにしっかりと紫苑を抱き抱える。炎を触って火傷でもしたらいけないから。
「ほら、歌が始まったよ」
 零は燃え盛る炎から開演したアイドル達の未発表曲に紫苑の興味を持っていこうとアイドル達の方を指し示した。
「……」
 紫苑は零が指し示した方向に視線を向け、
「♪♪」
 楽しそうに歌に合わせて手を叩き始めた。
 しばらく楽しんでから今度こそ静かに星空が見られる場所に移動した。

 静かな浜辺。

「♪♪」
 満天の星空に紫苑は目を輝かせ小さな手を精一杯伸ばして星を掴もうとする。
 そんな可愛らしい娘に
「あの星は取れないよ」
 優しく言いながら『博識』を有する優は天の川や星座などを教える。
「……」
 紫苑は大好きなパパの話を興味深そうに聞いていたかと思うとじぃと星空を見上げ続ける。
「……紫苑、」
 優はそっと零が笹飾りを見せている間に紙で作った星を取り出し、紫苑に差し出した。娘を喜ばせるためにこっそりと作った物だ。
「♪♪」
 紫苑は受け取り大事に握り締め、にこぉと嬉しそうに笑った。
「良かったね、紫苑」
 零はすっかりパパに貰った星に満足した娘の頭を撫で撫で。
 しばらくして夜も遅くなり疲れた紫苑は優の浴衣にしがみついて幸せそうに眠ってしまった。

 訪れた夫婦の時間。
「紫苑、眠ったね」
 零は紫苑が寝付いたのを確認するなり優に身体を寄せ腕に抱き付いて甘える。
「どうしたんだ?」
 急に甘えだした零に聞く優。
「だって紫苑が起きてると優に甘えられないし、不機嫌になるんだもん」
 零は優に微笑みながら少し頬を膨らませ、眠る我が子のぷにぷにの頬をつつく。
「大好きなお母さんを独り占めされると思うからじゃないのか」
 優が妻と娘を見比べながら答えた。
「違うよ。紫苑はパパっ子だもん。今日だって名前を呼んだ私の方じゃなくて優の方に飛び込むし、私より優に甘える事が多いし、今だって優の浴衣を掴んではなそうとしてないもん。母親として複雑だよ」
 優の見当違いの答えにむぅとしながらした零の指摘にきょとんとしながら優は自分の浴衣を掴んで幸せそうに眠っている娘を見つめ
「参ったな」
 と言いつつも微笑んだ。
「だから今からい〜ぱい甘えるの♪」
 上目遣いに訊ねるなり優の返事を待たずにそっと口づけをした。
 そして、夜明けまで夫婦水入らずの時間を過ごした。