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リアクション
■狂気の悪魔
「おや、こんにちわ」
空京ミスドの一席で、ドーナツを弄るルナティックの前にグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が立っていた。
「貴方がルナティックか?」
「はい、そのルナティックです。 何か御用ですか悪魔との契約はすでに結んでいるとお見受けしますが?」
どこか挑発的な彼の言葉に、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はピクリと反応する。
「『狂気の悪魔』よ、あなたの事は知っている。単刀直入に聞こう、何故この事件の解決を望む?」
「おやおや、理由が必要ですか?」
「悪魔は身近に居るのですよ。彼らは何の理由も無しに動くことはない、必ず見返りを求めるのでしょう?」
ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の突っ込みに、悪魔はやれやれとポーズを取る。
「『記録の魔道書』様はしっかりと物事を覚えてらっしゃる」
「はぐらかさないでください、理由はあるのでしょう?」
ふふ、と笑いながらルナティックは言葉を続ける。
「ええ、私はヒトが大好き。悩み、苦悩し、決断する。そんな狂った感情で動く彼らが」
ドーナツを弄るのをやめ、ルナティックは熱っぽく語り続ける。
「しかし、未来を知ってしまったらどうでしょう。ヒトは何も考えず、迷わず、何も感じないツマラナイ存在となる」
わかりますか? と問いかけてくるルナティックには誰も答えず、それを気に留めず言葉を紡ぐ。
「私はそんなツマラナイ未来など求めていないのですよ」
言い切ると、悪魔はくくっと低い笑いを浮かべる。
「成程、狂気の悪魔というのはそういうことか」
「ええ、貴方に執着する彼ほどらしくはありませんがね」
ルナティックはグラキエスの座る席に冷たい飲み物を用意し、涼しい風を送るエルデネストを見やりながら笑う。
「それはいい、ならばある程度の情報は得ているのだろう?」
「おや、先ほど言ったではないですか。私は悩みという狂った感情を持つ貴方方を見ていたいのですよ」
飄々とするルナティックからは単純に情報を聞き出すことは難しい。
そう思ったロアは携帯端末を取り出すと捜査を始め、ある程度したところでルナティックに画面を見せつける。
「なんと、登録してしまうとは!ああ、何ということだ!」
その画面には、死神動画への登録完了を示す文字が表示されていた。
「何か、この動画サイトを作ったものに心当たりは?」
「残念ながら、ありませんねぇ。ですが、死を伝える者と死へ誘う者は異なるという事だけならば」
「やけにあっさり答えますね。何か取引でもするつもりですか?」
悪魔を疑うロアの言葉に「これはこれは」と仮面を押える。
「私、自称『悪魔ルナティック』ですので、取引などいりませんよ?」
悪魔のいう自称というのはよくわからないが、多少なりに信用はできるようだ。
だとすれば、サイトを作ったものと事件を引き起こしているものは違うというのだろうか。
「ドーナツを出しやがれですのー!」
「甘いのを要求するうさー!」
グラキエス達が考えをまとめていると、ミスドの中に一際騒がしい声が響く。
「おやおや、鉄心様。このような場所に何用で?」
「……まさか、こんなところで出くわすとはな。ただドーナツを買いに来ただけだよ」
悪魔の視線の先に居たのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。
鉄心の向こう側ではカウンターでドーナツを買いあさるティー・ティー(てぃー・てぃー)とイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。
そしてイコナの頭の上でダルそうにしているスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)の姿があった。
「鉄心、そろそろ」
「ああ、死体の調査か、気は進まないな」
ティー達がドーナツを買い終えた様子を確認して、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が声をかける。
「陽一様もご一緒ですか」
ルナティックの姿を確認した陽一は怪訝な顔をするが、特に争う様子はないようだ。
「前のことを忘れたわけじゃない、だが俺は……」
「ふふっ、貴方の愛は素晴らしい。だからこそのあの結果なのです」
何かを言い返そうとする陽一だが、鉄心に宥められると彼らはミスドを出ていく。
「彼らはしたい調査に向かうようですね」
「最後に聞く。今後、事件解決のために俺達と行動するつもりはあるのか?」
エルネデストが鉄心達の行動を予測すると、グラキエスはルナティックに問いかけた。
「ふむ、私としては同行は大いに歓迎です。早速彼らを追いましょう」
そういうとルナティックは指をパチンと鳴らし、どこからか取り出したお金で会計を済ませる。
ほんとにそれは正しい金なのかと思いつつもグラキエスは席を立つ。
「ぐっ……」
その瞬間、体を蝕む魔力が狂いグラキエスの体がぐらつく。
だが、そんな彼を悪魔が触ると不思議と魔力の狂いが落ち着いていた。
「狂う魔力は狂気と同じ。では行きましょうか」
そう言ってルナティックは鉄心や陽一の後を追い、店を出た。
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