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死神動画 前編

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死神動画 前編

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■魔王と蒼空戦士と機械神

「ぬふふ、魔王はこっち側出身ですぅ。こんなセキュリティへでもねえですぅ!」
「そういう割には、先ほどからトラップに引っ掛かりすぎだ」
 電子世界へと睡眠装置を用いてやってきたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、死神動画の入り口へたどり着くまでセキュリティを起動しまくった魔王に呆れていた。
「そうだな、私達にとっては何の障害でもない!」
 対を成すように、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)ははっはと笑う。
 それに釣られて魔王も笑い、ダリルは1人頭を抱えていた。
「マオちゃん、無事に入り口までついたのね!」
「おう、マオを舐めるんじゃねえですぅ!」
 現実世界から響くノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の声に、魔王は元気よく返す。
 しかし、セキュリティに引っ掛かりっぱなしだった魔王の行動を思い出し、ノーンも「あはは」と乾いた笑いしか出ていない。
「うん、周囲のサーバーには異常無しね」
 ダリルやハーティオンから送られてくるデータを解析しながら、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は周辺のサーバーに異常がない事を確認する。
 だとすれば、残るは死神動画のサイトそのもの。
「しかし、このロックは簡単に解除できそうもないな」
 電子世界で入り口を塞ぐセキュリティを解除し、内部へ侵入する為にはサイトの登録者である証明が必要。
 すなわち、動画へ登録してパスワードを手に入れる必要がある。
「けど、動画に登録すると危険なんだよね?うーん……」
 どうすればサイト内へ侵入できるのか、ノーンは必死に考えるが中々答えは見つからない。
「ダリル、ロックの解析は出来る?」
「やってるが、随分強固だ。下手な軍事機密より硬いな」
 モニターに表示されるダリルは直ぐには解除できない、とお手上げのポーズを取る。 
「誰かが登録してればいいんだけどなぁ」
 うーん、と唸るノーンだが、誰かに登録を無理強いするわけにはいかない。
 ここは、どうにかして突破する方法を考えねばと、籠手型デバイスで魔王達の様子を確かめながら、キーボードを叩いて動画サイトの入り口を表示する。 
「こんな趣味悪い動画サイトに誰が登録するのよ。居たとしたら相当な物好き、馬鹿ね」」
 ノーンの横で死神動画のページを見ていたラブ・リトル(らぶ・りとる)は悪趣味なサイトを見てそんな感想を口にしていた。
「こんなこともあろうかと……」
「んあ、何言ってやがるですぅ?」
 ババ様の真似かと聞こうとするが、魔王の言葉を聞くよりも早くハーティオンはセキュリティの前に立ち、手をかざす。
 辺りに数々の文字が羅列され、照合完了の表示と共に、入り口のロックは解除され、アクセスが可能となる。
「……はぁっ!?」
 目の前のモニターに表示される出来事に驚いたラブは素っ頓狂な声を上げる。
「あ、あんた何やってんのよー!?」
「何、これも人々の為だ。蒼空戦士として当然のことだろう?」
「自己犠牲精神もそこまで行くと馬鹿だわ……」
 素敵な笑みを浮かべるハーティオンの姿に頭を抱えるラブ。
「聞こえる? ハーティオンが死神動画のセキュリティを解除している間にデータベースを直接調べちゃって。退路は彼に確保してもらうから」
「そうだ、ここは私に任せて「言わせないわよ!」 
 ハーティオンが何かを言おうとするよりも早くラブが遮る。
「お、おう。とりあえずは任せるですぅ」
「マオちゃん、ダリルさん。セキュリティはこっちに任せて解析を優先しちゃって!」
「任された。行くぞマオ」
 ノーンの激励とサポート受け、ハーティオンにその場を任せると、魔王とダリルは死神動画のデータベースへとアクセスを開始した。
「アンタには感謝してですぅ。友達、いいもんですぅ……」
 思えば、ノーンには随分と世話になっている気がする。
 そう思い、1人呟いた魔王はこれまで皆に世話になった過去を思い出す。
「マオちゃん?」
「な、なんでもねぇですぅ!足引っ張るんじゃねぇですよノーン!」
 結局は素直になれず、はっきりとは言えないのだが、これはこれでいいと思う。
 機会があればノーンの契約相手である御神楽 陽太(みかぐら・ようた)とその子供にあってみたいものだと思いつつも、作業に集中する事にした。

【コア・ハーティオンの死に様】
人知れず、ひっそりとした場所に存在する村。
幼子が誤って解いた封印から現れた魔獣。
それから村を護る為、ハーティオンは仲間の静止を振り切って立ち向かい。
誰も知らぬ戦場で、魔獣を討ち、自分もその場で機能を停止していった。

「……認められないわ、こんなの」
 ハーティオンが登録したのであれば、きっと彼の死に様も公開されているはず。
 ラブは彼が使いそうなパスワードを入力し、1人動画を見ていた。
 結果として、気持ちのいいものではないが、彼を1人で終わらせるつもりなどない。
 ラブはこの事を誰にも伝えず、彼を1人で終わらせるものかと決意していた。