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リアクション
午前。
「……賑やかですね」
陰陽の書 セツ那(いんようのしょ・せつな)は賑やかな祭りの光景にほぅと声を上げていた。
「♪♪♪♪」
母親に抱かれている神崎 紫苑(かんざき・しおん)は賑やかな音楽に乗せて舞い踊る人々に目を輝かせ体をうごうごさせヴァルキリーの翼で飛んで行こうとする。
「この子ったらすっかりお祭りの虜になっちゃってる」
神崎 零(かんざき・れい)は紫苑の好奇心旺盛さにクスリと洩らしながらもしっかりと抱っこしていた。
「無理もない。あちこちに興味を引くものばかりだからな」
神崎 優(かんざき・ゆう)もまた娘の様子に和む。
その間も
「♪♪♪♪」
紫苑は爛々と輝かせた目をきょろきょろさせ、降って来る紅葉や銀杏を掴もうとしたり降って来る先を見上げたり好奇心溢れる仕草をしていた。変わらずうごうごと母親の腕を振り切ろうとしていた。
「紫苑、少しだけ大人しくしてちょうだい(人混みだからここではぐれたら大変だし怪我でもしたら)」
零はぎゅっと娘を強く抱き締めた。何せ人通りが多くはぐれたり人にぶつかったりで怪我の恐れがあるから。いくら飛べるとは言え紫苑はまだ赤ちゃんなのだから。
「どこか開けた場所でゆっくりしましょう」
陰陽の書は紫苑の可愛らしさに微笑ましい気持ちになり満たされ表情は柔らかいものだった。
「そうだな。折角の祭り、自由に楽しませてやりたいしな」
優は娘の頭を撫でながら陰陽の書にうなずきつつ良さそうな場所を探して目を泳がせた。
そして、四人は仲良く人がまばらなちょっとした広場を見付ける事に成功し落ち着く事が出来た。
人がまばらなちょっとした広場。
「紫苑、ここなら自由に飛び回っても大丈夫よ。でもあんまり遠くに行ったら駄目だからね」
零はしっかりと言い聞かせてから紫苑を抱っこから自由にした。
「……」
紫苑はにこぉと分かってると笑顔で答えるなり背中の翼を羽ばたかせ飛んで行き、
「♪♪♪♪」
紅葉や銀杏が降り注ぐ中を楽しく飛び回った。
一方、保護者三人はのんびりとベンチに座って紫苑を見守っていた。
「……あんなに喜んで……来て良かったね」
「えぇ、本当に」
零と陰陽の書はあたたかな眼差しで紫苑を見守っていた。
その時、
「……」
同じように紫苑を見守っていた優が突然ベンチから立ち上がり、二人の前に立ち塞がった。
「優?」
「どうしました?」
零と陰陽の書は座ったまま優を見上げ、様子を窺った。
すると
「俺達も踊ろうか」
手を差し出し、二人に向かってダンスのお誘い。
「えっ!?」
「あの……」
想定外のお誘いに驚く零と陰陽の書。
「今日は祭りだ。少し羽目を外しても許される」
という優の言葉に
「そうね」
「確かに」
零と陰陽の書は差し出された手を取った。
そのまま三人は秋の葉が舞い降る中に飛び込んだ。
「♪♪♪♪」
紫苑は両親と陰陽の書の乱入にぱぁと顔を輝かせ快く迎え三人に飛び寄った。
「……」
優は近寄って来た娘に僅かに笑むなり舞を舞うように踊り始めた。丁度しっとりとした曲で優の舞を一層より良く演出した。
「……」
紫苑はじぃとお父さんの舞を見ていたかと思いきやおぼつかないなりにもお父さんの真似とばかりににこにこと笑顔で舞い始めた。ただまだまだ小さいため真似にしては不完全だが。
「……紫苑」
優は自分の真似をする娘にほっこりしながら優しい眼差しを向けると
「♪♪♪」
紫苑はにこぉと父親に笑みを返した。
父と娘は仲良く一緒に踊った。
「ふふふ、紫苑には負けられないわね」
「ですね」
零と陰陽の書は紫苑の可愛らしさにクスリと笑いをこぼしてからそれぞれ優の舞に合わせて舞った。
しばらくして音楽は賑やかなものに変わり
「一緒に踊りましょう」
「♪♪♪♪」
陰陽の書は紫苑の小さな手を取ってご機嫌な紫苑と一緒に軽やかなステップで踊り
「今度は賑やかに踊ろう」
「あぁ」
零は優の手を取り賑やかに踊った。
時には零が紫苑の手を取り、陰陽の書が優と共に踊ったりとダンスの相手を次々と変えて秋の葉が降る素敵なダンスホールで楽しく過ごした。
優にとって思わぬ事が起きたのはダンスを終えた後だった。楽しいはずの今日がまさかな事に。
ダンスを終えた後。
「……今日の思い出に」
そう言って優は密かに拾っていた紅葉を紫苑、零、陰陽の書のそれぞれの頭に髪飾りとしてさした。
途端
「♪♪♪♪」
大好きなお父さんのプレゼントに嬉しくなって紫苑が思わず飛びつき嬉しい気持ちを伝えるために優の頬にキスをした。
「……紫苑、ありがとう」
娘の可愛いお礼に口元をゆるめ、そのまま寄って来た娘を抱っこした。本当に優しいお父さんと可愛い娘だ。
そんな二人のやり取りを見て
「やっぱり二人の娘ですね。二人の事をよく観てますね」
「……もう」
紫苑の行動に思わず微笑む陰陽の書は零に言ってから何を思ったのか紫苑に習って優に近付き、
「それじゃあ、私も」
そう言って感謝の気持ちを込めて優の頬にキスをした。
「……どうして……」
さすがの優も娘の時とは様子を変えた。娘はともかく陰陽の書にまでされるとは思っていなかったらしい。
「……お礼です」
陰陽の書は悪戯っぽい微笑みを浮かべるばかり。
問題はこの後だった。
「もぅ、二人共、何で優に……」
零が紫苑や陰陽の書の行動に嫉妬して両腕を組み、ぷぅと頬を膨らませていたのだ。
「……零(皆で祭りを楽しく過ごすはずが……何でこうなった……こんなつもりでは……)」
優は恐る恐る妻の名を呼んだ。胸中ではよかれと思い、取った行動が想定外の結果になってしまいたじろいでいた。
「?」
優に抱っこされている紫苑はきょとんとした顔でたじろぐ父を見上げていた。幼い故にまさか自分が火付けになったとは思いもしない。
「……」
優が言葉無く妻を見ていたその時
「…………」
頬を膨らませたままの零が優の腕を取って引き寄せながら感謝のキスをした。
「……零」
妻のキスに様子を変える優はただ名前を口にするだけだった。
「♪♪♪♪」
紫苑はお父さんが幸せだと察したのかにこにこと笑っていた。
「……もぅ、優は……でも、ありがとう」
膨らんでいた零の頬は少しずつ空気が抜け、詰まっていた嫉妬はどこかに行った。
そして
「……(見ている方も幸せになりますね)」
幸せそうな三人の様子に陰陽の書は微笑み、ほっこりしていた。
この後、四人は仲良く祭りを楽しんだという。
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