校長室
賑やかな秋の祭り
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朝。 「……さすが祭りだよなぁ」 婚約者に誘われ訪れたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は賑やかな祭り模様を楽しんでいた。 その隣では 「……そうですね(……はぁ、邪魔されないように警戒して準備した廃教会での結婚式も失敗するなんて……やっぱり私はキロスさんと結婚式をあげる事は不可能なのでしょうか……何か呪いでも……)」 祭りどころではないアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)がこれまでに失敗したキロスとの結婚式を振り返っていた。夏最後に華やかな挙式を妥協して廃教会を選んだのにそれも失敗したので。 「……大丈夫か?」 落ち込み中のアルテミスに気付くなり優しく声をかけるキロス。 「あ、はい、大丈夫です」 キロスに心配を掛けていると気付いたアルテミスはぱっと顔を上げて慌てて答えた。 「それなら適当に買い食いでもしようぜ。祭りに来て何もしねぇのはつまんねぇし……何よりお前の気晴らしにもなるだろ?」 キロスはやけに明るい調子で励ました。アルテミスが廃教会での挙式失敗に落ち込んでいると思っているようだ。 「……キロスさん……そうですね」 アルテミスは僅かに表情を明るくした。大好きな人が自分を思い励ましてくれていると感じたから。 「そうと決まれば、行くぞ」 「……はい」 キロスとアルテミスは祭りを楽しむべく早速買い食いをしたりお喋りをしながら秋降る道を歩いていた。災難が降りかかったのはお昼時だった。 お昼時。 「こんにちは! 折角のお祭りだからお菓子をあげるよ!」 右手首に銀腕輪をしたロングヘアーの少女が現れ笑顔で二人にお菓子を差し出した。 「……お菓子か」 「……?(どこかで見た事のある顔ですが……)」 キロスは迷わず手を伸ばすもアルテミスはどこか見覚えのある顔に首を捻るも挙式で頭がいっぱいだったためすぐには考えに及ばなかった。 アルテミス達の背後から 「そぉれ!」 弾んだ少女の声と共にアルテミスの右手とキロスの左手に向かって霧状の液体が吹き付けられ 「!?」 声に振り向いた二人の先にいたのは前にいた少女と同じ顔をしたつまり双子の左手首に銀腕輪をした少女が悪戯な笑顔で立っていた。手には霧吹きがあった。 「おい、何だこれは……」 「……えっ、あれ、手が勝手に動きます」 キロスの左手とアルテミスの右手が勝手に動きがっちりと手を繋いでしまった。 その上、 「離れないぞ」 「離れないです」 全く離れない。 その時 「あっ、そうです……夢で……」 アルテミスは双子の少女の顔に見覚えがある事を思い出したのだ。よく知っている。夢の中でぶち壊された結婚式で出会った時に見た顔。 続いて 「そう慌てるなよ、夢の中で結婚式をしていたくらいなんだから、そんくらいいいんじゃね? 祭りが終わる頃には離れるし」 「ヒスナ、キスナ、先に分けた菓子を分けてくれねぇか。配りきったんだ」 ヒスミはアルテミスをからかい、キスミは双子少女に声をかけた。 「いいよ」 左手首に銀腕輪をした少女キスナがお菓子を分けていると 「おい、三人共、ここを離れるぞ、あいつらがいる」 ヒスミが通りの向こうに危険人物を発見したのか気色ばんでいた。 「マジかよ。折角ロズをまいたのに……二手に分かれて逃げた方がいいかも」 お菓子を分けて貰ったキスミは人物を確認し、これまた青い顔になり逃げ始めた。 「待って」 「わぁ、何でここに!?」 双子少女も大慌てで逃亡に。 四人が去った後。 「行っちまったな……とりあえず、祭りが終わったら離れるという事だから、とりあえず何か食べるか」 「はい。とんでもない事に(……でも……相手がキロスさんで……良かったかも……キロスさんの手大きくてあたたかい……)」 キロスとアルテミスはどうしようもないので祭りを楽しむ事に。何気にアルテミスはこの状況を喜んでいたり。 ひとまずお昼時もあってか何か食べるために近くの店に入る事にした。 アルテミス達が選んだのは出張猫カフェだった。 出張猫カフェ。 「いらっしゃい、カップルさんに素敵な席を案内するよ」 来店したアルテミス達を迎えたエースはカップル用にあつらえた花が置かれている席へと導いた。事情から向かい合うのではなく隣り合う形で腰を下ろした。 エースが去った後。 「さて、何を食べるかだよな。出来れば片手で簡単に食べられる物が……」 「……飲み物も注文したいのですが」 手を繋いだままキロスとアルテミスは簡単に食べられる物を選び始めた。 そこにすかさず 「それでしたらカップル限定のモンブランケーキはいかがですか?」 近くの席の食器を回収したリアが柔和な笑みで介入。 「あぁ、それを頼む。で、いいだろ、アルテミス?」 これが食べたいがないキロスはあっさりと決め、アルテミスに訊ねた。 「あ、はい、大丈夫です。それで飲み物にハーブティーもお願いします。キロスさんはどうしますか?」 アルテミスは照れながらも注文は変えずに飲み物を選び、訊ねた。 「お前と同じでいい」 キロスは考えるのが面倒なのか同じものをチョイス。 「それでは……」 リアは注文を復唱してからエオリアが料理をする場へ加わり、料理の手伝いに加わった。 しばらくして、注文した料理が全て届いた。 「……美味しいが……何か、視線が……」 キロスはケーキを食べながら周りの視線が気になって仕方が無い。 「……痛いくらいに向けられて……ます……(素敵な花も飾られて……通常なら……嬉しいですが)」 アルテミスも喉を潤し、花達に混じるハート型の葉のアイビーに目を向けるも周囲の視線が堪らない。何せ飲食する間も手を繋いだままなのだから。事情を知らぬ客達が見ればただのバカップルである。 とにもかくにも飲食を終えたアルテミスとキロスは店を出てからも仲良く手を繋いで祭りを楽しんだ。ちなみに祭りが終わると同時に手は無事に離れたという。