校長室
賑やかな秋の祭り
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■夜・祭りを楽しむ者達 夜、オレンジ色の光が満ちる中。 「……」 「……」 董 蓮華(ただす・れんげ)と蓮華に誘われた金 鋭峰(じん・るいふぉん)は信頼からか話しをする必要はないとでも言うように静かに通りを歩いていた。鋭峰の立場的な事も考えて形式は視察だが実質は遊びで蓮華は護衛も担当していた。 「……(大きな御仕事を終えられ国の危機を一段落させた団長に今日がひとときの安らぎになればいいんだけど)」 蓮華は隣を歩く鋭峰の横顔を盗み見た。鋭峰を一途に慕う蓮華は今日という時間もまた鋭峰のために使おうとしていた。それが蓮華にとっての幸せだから。 「……団長、よろしかったらあそこで食事をしませんか」 蓮華は静かそうな店を発見し誘った。 「そうだな。少し落ち着くか」 鋭峰はいつもと変わらぬ調子でうなずいた。 そのため二人は店に入り、先に食事をする事にした。 店内。 外は賑やかだというのに店内には客は少なく心地良い静けさが場を支配し、店外とは別世界にさえ見える程。 来店した蓮華達は適当な席に腰を下ろした。 席に着いた後。 「……(外と違ってとても静か。でも団長と過ごすにはその方がいいかな)」 蓮華は店内を見回し、祭り性は無いが、鋭峰の立場を考えると悪くない場所だろうと自分の見立ては悪くなかったと。 「……賑やかなのも悪くないが、ここは落ち着くな」 鋭峰は蓮華の予想通りの返答をした。 この後、二人は適当に料理を注文した。 料理を注文した後。 「……団長、お疲れ様でした」 蓮華は唐突に鋭峰を労う言葉を発した。決戦にて共に創造主を相手にした事を思い出しながら。 「いや、その言葉はそのまま君にも贈ろう。あの時皆や君がいなければ今こうして目の前にある風景は変わっていた事だろう」 鋭峰は蓮華の働きを認め、窓の外に広がる景色を見やりしみじみとこの世界が今平和となった事を実感していた。 「……勿体ないです。私はただ何にでも一途で一生懸命で……あの時も……団長と共に創造主への道を切り開いて創造主を説得をする事ができたのも、だからなのかなって思っていて……一途で一生懸命には自信ががありますから」 蓮華は恐れ多いとぷるりと首を振り、鋭峰の感謝に抵抗するも自分の思いをにこりとしながら話した。 「……」 鋭峰は静かに蓮華の話に耳を傾けている。 「でも、間違い無く団長が居てくださったから私はあそこまで堂々と振舞え、団長が見ていてくださったから……」 溢れる鋭峰への愛が蓮華を強くしたのだろう。 その時、 「……美味しそうですね」 「そうだな」 料理が運ばれた。 二人は美味しく料理を食べ、少しゆっくりしてから店を出た。 店を出た二人を迎えたのは 「……団長、花火ですよ」 「夏とはまた違った趣があるな」 いつの間にか始まった花火であった。鋭峰は夏最後に見た花火を思い出していたり。 ここで 「はい。あのよろしかったら一曲踊りませんか」 祭りの賑やかさに酔わされたのか蓮華はさらりととんでもない事に誘う。 その事に気付くと 「……いえ、あの、何でもありません……あそこの屋台を覗いてみませんか」 失態をしたとばかりに蓮華は可愛らしく頬を染めて先の発言を無かった事にしようと前方の屋台を指し示した。 しかし、発した言葉は無かった事にはならない。 「……この曲は悪くないな。踊るには」 流れるしっとりとした曲を耳にした鋭峰は平時と変わらぬ調子で蓮華にとっては想定外の事を口走った。 「えっ!?」 蓮華の口から頓狂な声が上がった。 「……こうして私ばかり貰ってばかりでは悪いからな。先も言ったようにあの時を乗り切ったのは私だけの力ではない」 蓮華の驚きように口元の端に軽い笑みが浮かぶ。 「……でも、過ぎた報奨ですよ。それに私、上流階級出身ではないから、団長ほど上手くステップが踏めないかもですよ……一生懸命に頑張りますけど、でも……」 蓮華は激しく鋭峰からのご褒美に激しく動揺と申し訳なさから断ろうとするが、 「……ここは気取った宴ではない。気楽に楽しむ祭りの場だ」 鋭峰はそんな小さな事なんぞ気にするような人物ではない。 「……そうですね。では、よろしくお願いします」 蓮華は意を決して鋭峰と共に踊る事に決め、激しく頭を下げた。 「……あぁ」 鋭峰はそう言うなり蓮華の手を取り、彼女へのご褒美と踊った。 踊り中。 「…………(今、私、団長と踊ってるんだ。ハロウィンの時とは違って踊らされてるわけじゃなくて本当に私と団長で踊ってる。凄く緊張する。手が……今、団長と……それに胸が……頭までぼんやりして……あぁ、夢のよう)」 蓮華は一生懸命にステップを間違えないように神経を使うも自分の手を取る慕う人の手の感触、じっと自分を見るこんな時でも鋭さは変わらない漆黒の瞳。音楽や花火の音は蓮華の耳から遠ざかり、入って来るのは鋭峰の軽やかなステップの音ばかり。今この瞬間だけ鋭峰は蓮華の物。 それを感じるなり 「……(私の思いを知った上で側に置いてくれていて嬉しいけれど……本当は……でも届かなくとも私が思うのは団長だけ)」 蓮華は思う。自分の鋭峰への恋心が実ればと。しかしこれまでのように届かなくともいいと思っていた。慕う団長の側にいられれば。 その真摯な思いが伝えようとした思いが 「……団長、私嬉しいです。軍人としても人としても、あの時、団長と一緒に頑張れた事が、とてもとても……(決戦で団長と一緒に頑張れた事は私の誇り。その誇りを汚さないようにこれからも団長のために頑張らないと)」 蓮華の口からこぼれた。この夢の様な時間に酔ってか頬は上気していた。 「……だから本当に有り難う御座います……そしてこれからもお傍においてください。私、一生懸命頑張りますから……」 裏表もなく唯々鋭峰を慕う一途な蓮華。 「……期待している」 鋭峰はいつものように淡々としながらも信頼を滲ませる言葉を蓮華にかけた。 そして、蓮華と鋭峰は今流れるしっとりとした曲が終わりを迎えるまで踊り続けたという。