校長室
賑やかな秋の祭り
リアクション公開中!
■昼・祭りを楽しむ者達 昼。 「……凄いな。こんなに多く……見事な光景だ」 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は愉快な音楽と降り注ぐ秋の葉に好奇心に目を輝かせ 「桜と違って紅葉した葉や銀杏が何種類も舞い落ちる様などなかなか見られないからな」 はしゃぎ出した。涼しくなった今、暑さに弱く夏の間動けなかった鬱憤が爆発しているのだ。 そしていつも心配するのは付き添う仲間達。 「グラキエス様、そのようにはしゃいではお体に障ります」 「主よ、私もこればかりはお控え頂きたい。ここは戦場ではない故、主がご無理をなさる必要などありません。しばらくどこでお休みになって下さい」 グラキエスの後ろを歩くエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)とアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)がはしゃがず、大人しくどこかに腰を下ろしてのんびりしてくれと訴える。はしゃいでぐったりがグラキエスの毎年の秋口のパターンだと知っているから。 「……自分でも気を付けるから大丈夫だ」 グラキエスは自身の事なのでまだ体力が回復していない事は何となく分かっているし二人がそれを見抜いて自分を気に掛けてくれている事も知っているが爆発した鬱憤はなかなか鎮まらず二人の訴えを退ける。 「……そうはおっしゃられても倒れられては元も子もありません」 「……」 アウレウスは言葉を継いで止めようとするがエルデネストは黙していた。何事かを考えているかのように。 「分かってる」 グラキエスはまたさらりと二人の心配を流して 「……それより魔法を使っていると分かっていても……本物と勘違いしてしまいそうな程精巧だ」 動き回り、手の平に銀杏を載せ、まじまじと見て再現度の素晴らしさを確認してから地面に落とした。 そんな時 「……エルデネスト、アウレウス、空から花が」 頭上から秋の花が降って来てグラキエスの好奇心にさらに薪をくべる。 「……降るのは紅葉や銀杏だけではないんだな」 グラキエスは爛々と秋の葉に混じり降り注ぐ花々に目を注ぎ、空から地面に落下する花の行方を負う。 「……妙ですね。話では降るのは紅葉や銀杏だけど聞きましたが」 「主よ、警戒をなされた方が」 エルデネストとアウレウスは聞いた話と違う状況に眉をひそめ、警戒する。主至上主義のアウレウスはグラキエスを守るためと動こうとする。 しかし 「……当日のサプライズだろ。アウレウス、大丈夫だ。危険は無い」 そう言うなり一層グラキエスは楽しそうにし 「あともう少し向こうまで……」 グラキエスは視線を向こうに向け歩き出そうとした時、 「グラキエス様」 エルデネストの鋭い声が飛び交い 「……エルデネスト?」 好奇心にはやるグラキエスを止めた。 「……毎年同じ事をなさっていますね。これ以上、警告を無視されるようでしたらベッドに縛り付けてしまいますよ」 エルデネストは言葉最後に口元に艶やかな笑みを浮かべ発した言葉は冗談ではないと暗に訴えた。 いつもの慇懃無礼な注意はしっかりとグラキエスに届いたが 「……一応自分で気を付けているつもりだが(……何かいつも怒られている気がするな)」 夏の間のつもりに積もった鬱憤をまだ晴らし切っていないためか歯切れが悪い。いつもの秋口恒例のパターンだと知っていながら。 「……では」 言葉での説教を終えたエルデネストはつかつかとグラキエスの側に来るなり 「命に関わる事であればグラキエス様の意に反しても契約上問題ありませんね」 そう言うやいなや実力行使とばかりに抱きしめ強制的に大人しくさせると言う行動に移行した。 途端 「!!」 アウレウスはエルデネストの行動に表情をひどく厳しいものに変え 「……(何やら悪魔がはりついていますが、いかがいたしますか)」 目で問いかけた。何せこの先の展開はよく知っている。なぜなら魔鎧と言う性質上グラキエスがエルデネストの手助けへの見返りを支払う時や見返り以外のセクハラを受ける時に身に纏われていたり同じ場所にいたりするからだ。 「……(好きにさせておいてくれ)」 グラキエスは目の端でアウレウスに控えるように指示をし、大人しくした。 グラキエスに抵抗する様子が無いと見るや 「……お分かり頂けたようで大変結構です」 エルデネストは薄く口元を歪めるやグラキエスを抱き締めたままあまり人目につかない、ただし紅葉は充分見られる場所に場所に連れ込み座り込んだ。 人目の付かない場所。 「……(しかし、どうしたんだ、エルデネストの奴……)」 グラキエスは驚きながらもされるがままでいた。エルデネストが自分にする所業は慣れているので気にしないが、今回のエルデネストの行動はどこか違っていてグラキエスを驚かせたのだ。 「……(……まあいいか。秋はロマンチックな気分になるという。多分それだろ)」 どこかで聞いたよくある文句を思い出して抵抗せずエルデネストの好きなようにさせ続けた。 「……(秋だな)」 のんびりと目の端に横切る紅葉を楽しみながら伝わるエルデネストの感触を感じていた。 一方。 「……(魂だけでなく全てを……)」 エルデネストは大人しくさせ一切抵抗する様子を見せないグラキエスに触れて感じる。契約した最初の頃とは違い、今は魂だけでは足らずグラキエスの傍で様々な愉悦を味わい、魂だけでなくグラキエスを構成する全てを独占したいと。それがグラキエス達を驚かせた事だろう。 「……グラキエス様(……あぁ、こんなにも)」 触れても衰弱し今や生命力をグラキエスからほとんど感じない事にエルデネスト何とも言えない気持ちになるも 「……(しかし、まだ……)」 エルデネストは降り注ぐ紅葉を見るグラキエスの僅かながら確かにある命と表情を感じながらゆっくり過ごした。 もう一方。 グラキエス達の後ろから付いて来たアウレウスは 「主は悪魔の好きにさせるおつもりのようだ」 ちらりとグラキエス達に目線を向けた後、 「ガディよ、我等は主が好奇の視線にさらされぬようにしておこう」 聖邪龍のガディと共に周囲の視線から隠すために衝立代わりとなった。 「……(しかし、今回のあの悪魔めの行動はどういう事だ)」 アウレウスは先程からの一連のエルデネストの行動を振り返り、どこか違う様子に改めて驚いていた。他の仲間が知らないグラキエスと二人きりの時のエルデネスト知るだけに尚更。 「……主のために」 何はともあれアウレウスは主であるグラキエスのために事が終わるまでしっかりと役目を果たした。 いつの間にか降り注ぐ秋の花は消え遠くからしっとりとした曲が流れて来た。