校長室
賑やかな秋の祭り
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夜。 「あとは御姉様だけですわね」 泉 小夜子(いずみ・さよこ)は泉 美緒(いずみ・みお)と共に来たにも関わらず見るばかりで賑やかな祭りに参加する気配はない。 隣の美緒に至っては 「……やはり、その衣装少し……大胆じゃありませんか」 小夜子が纏う色っぽいチャイナドレス崑崙旗袍に目がいって離れず、頬を染めている。 「いつも通りの衣装ですのよ。急にどうしたのです? もしナンパされたとしても相手にしないから安心して……でも美緒の困った顔は可愛いから乗ってもいいかもしれませんわね」 小夜子は悪戯っ子な笑みを口元に浮かべて意地悪な事を言ってちらりと美緒の反応を窺う。 「……そんな事言わないで下さいませ……」 美緒は可愛らしく口を尖らせ、顔を背けるのだった。 「……美緒、冗談ですわ」 小夜子は愛しい人の可愛い表情を見て満足するなり機嫌を直そうとする。 その時 「小夜子、美緒、お待たせ」 弾んだ声と共に二人の隙間に崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が登場。 「三人で遊ぶのは意外と久しぶりだから楽しくやりましょうね」 亜璃珠は艶やかな笑みを二人に向けるのだった。 しかし 「……御姉様、それはいいですが手を離してくれませんか。美緒が戸惑っているでしょう」 小夜子はちょっぴり怖い顔で亜璃珠に申し立てた。 なぜなら二人の隙間に入り込んだ時に両の手をそれぞれ二人の胸をおさわりしていたから。 「……あの……」 美緒は顔を赤くして言葉が出ず小さくなっていた。 「あらあら、ごめんなさいねぇ。お誘いを受けて浮かれてしまいましたわ」 たっぷりと美緒の反応を楽しむなりぱっと亜璃珠は二人から手を離した。 そこで 「さて食べ物や飲み物を買ってゆっくりと楽しみましょう……酒もですわね」 小夜子は本日の予定を言い、ちらりと亜璃珠を見ると 「えぇ、当然ですわ」 亜璃珠は当然とばかりに笑んだ。 三人は仲良く屋台で饅頭と酒を購入してから見晴らしの良い場所にシートで陣取り花火と祭りを楽しむ事に。 見晴らしの良い場所。 「花火や陽気な音楽が良いですわね。ほら、灯りで町が綺麗ですわよ。美緒はどう?」 小夜子は饅頭を食べながら隣の美緒に寄り添った。 「……楽しいですわ。何より三人でこうして一緒に参加してる事がとても……」 美緒はほわぁと笑顔で自分両脇に座る小夜子と亜璃珠の顔を見た。素敵な祭りもこうして誰かと参加するからこそ楽しいものだ。 「それは私も同じですわ。色々あって先に前線から遠ざかってた身としては……こういう風に三人でお酒を飲めるようになるというのは嬉しい事ですもの」 御姉様は酒を飲みつつしんみりと僅かに飲むピッチが上がったり。 「それは良いですけど、お姉様、飲むのは程々にして下さいね」 見かねた小夜子がやんわりと心配から注意するが 「はいはい、分かっていますわ。自分の適量くらい」 亜璃珠は適当に流すだけで酒のペースはゆるめなかった。 とにもかくにも三人はのんびり祭りを楽しむ事に。 次々と花火が打ち上がる中。 「こうしていると何だか、以前あった夜桜を思い出しますわね」 小夜子は茶を飲みつつ妖怪の山で開催された夜に輝く桜の見学を今いる三人でした事を思い出していた。 「あの桜は不思議でしたわね。桜なのに輝いて……さすが妖怪の山でしたわ。でもあの時はまだ小夜子とは……」 小夜子に触発され昨日の事のように鮮やかに思い出した美緒は楽しそうな顔に。 まだ美緒と小夜子は 「……確か、一緒になる前でしたわね(あの時とは違い今は同じ苗字となりこうして……)」 恋人だった時だ。あの時は思いも寄らなかっただろう。共に花見を楽しんだ彼女と結ばれこうして祭りを楽しんでいるとは。思わずしんみりとなってしまう。 しかし、思い出すのはそれだけでなく 「他にもありましたわね。あの時、美緒は……」 美緒が一番可愛らしかった場面を思い出し、悪戯な笑みを浮かべて美緒の方に振り向いた瞬間小夜子の顔色が変わった。 「そう言えば前もこうして三人で……って、誰も聞いていないみたいですわね」 亜璃珠は小夜子達の会話に加わろうするが二人が回顧中でぼやっとして自分の話を一切聞いていない事に気付き、少しがっかり。 しかし、表情はすぐに変わる。 「……(折角だからセンチメンタルしてる隙に唇の一つや二つぐらいいただいておこうかしら)」 ニヤリと綺麗で悪い笑顔に。 考えたら即実行で 「……美緒」 隣の美緒に身体を寄せ、素速く相手のあごを引きながら、 「こんな事もありましたわね?」 妖艶な笑みを浮かべた。 その瞬間 「!!」 全てを思い出した美緒はあっという間に耳まで赤くし、僅かなる抵抗と言わんばかりに視線を逸らす。 「何も心配ありませんわ。あの時よりはもっと丁寧に実践してさしあげますわ(本当に恥じらう美緒は可愛らしいわぁ)」 そぉっといつかの時のように耳元で囁き、吐息をほぅと吹きかける。 かかる吐息にびくっと体を震わせつつも 「……あの……あの時の事は……」 言葉を絞りだそうとするが涙目になるばかりで 「……途中で終わってしまいましたわね……(一時は遠慮してた事もあったけど、ああでも、このやわこいボディが小夜子のものになってるのねぇ)」 名残を惜しむ亜璃珠の手が腹部から胸元にかけて優しく撫で上げる感触に羞恥と記憶のフラッシュバックで言葉が上手く出ず、亜璃珠の手が先に進もうとする。 しかし、 「御姉様、あまり美緒をからかってはいけませんわ(本当に思い出に耽って気付いたら案の定というか前に見た光景ですわね)」 気付いた小夜子が間に入り、美緒を強く抱き締めて亜璃珠から引き離した。胸中で見覚えを感じながら。 「美緒、大丈夫?」 腕の中の美緒に優しく声をかけた。 「……」 美緒は顔を赤くしたまま小さくなっているばかりで返答がない。よほどらしい。 「もう大丈夫ですわ(本当に美緒はあの頃と変わらず初々しくて可愛いですわねぇ)」 小夜子は美緒を落ち着かせようと撫で撫でしながら変わらない寧ろ増した美緒の可愛さに胸が鷲掴みにされていた。 その横では 「……何よせっかくいいとこだったのに」 亜璃珠は邪魔された不満を紛らわせるために酒を食らう。 「パラミタに来たての美緒に色々教えてあげたのも、小夜子に公共の場ではあんまり言えないあれやそれやを教えたのも私なのに……」 ぐちぐちと亜璃珠は酒を飲んでは愚痴をこぼしすっかり酔っ払い化していた。 「……お、御姉様。それは事実ですけどあまり言わないで下さい……」 小夜子は抱き締めている美緒に聞かれまいとごにょごにょと反論するが 「はいはい。いつの間にかあなたたちばっかり仲良くなって……恋人になって……結婚して……何なの……本当に……この場で私だけハブられてるじゃない……ああ、分かりました。私はセクハラ上司みたいな扱いですか、ああ、世の中世知辛いわあ……」 亜璃珠はちらりとジト目で小夜子達を見るなり酒をさらに煽りダメなお姉ちゃんな愚痴を吐き出し続ける。 「……御姉様、もう飲むのはよした方がよろしいですわ」 小夜子は呆れながら体を気遣い注意をするが 「……はあ。これだけ口うるさけりゃあ、それもそうよね。もう歳なのかしら。やっぱりパラミタで生活すると年齢上に老け込むものなの?」 酔っ払いの亜璃珠の耳には入ってはおらず 「ていうか小夜子ぉ、何か最近私の扱いひどくない……?」 小夜子に寄りかかり酒臭い息を吐き出した。 「何を言ってるのですか。御姉様、扱いについては気のせいですわ」 酒臭さに一瞬顔を歪めつつ亜璃珠の相手をするが、それも美緒の相手をしながらである。 「気のせいねぇ……いいですわよ。そんな慰めは……どうぞ二人で仲良しこよしして下さいませ……私は一人で飲んでますわ……お酒が今日のお供ですから」 亜璃珠は小夜子達からふらりと離れ、独り酒を飲む。心無しか背中に寂しさを感じたり。 あまりにも切ない背中に 「……御姉様、お酒もいいですけど、お饅頭はどうです? 美味しいですわ」 「……花火も、綺麗ですわ……一緒に見ましょう」 小夜子と復活した美緒が優しく声をかけた。 「……優しいわねぇ」 酔っ払い亜璃珠はゆっくりと二人に顔を向けた。 この後、三人は仲良く祭りを楽しんだという。