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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 5年後、2029年。とある街の外れ、午前。

「今日も無事に終わったな。ご苦労だ、リイム」
 5年経っても変わらずバウンティハンターとして活動する十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)
「リーダーもお疲れでふ」
 相棒のリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は5年の月日で少し大きくなっていた。ちなみにそれ以外は昔と変わらずである。
「さて、街に戻るか。報酬を貰って明日の早朝ここを出る。いいな?」
「分かったまふ」
 宵一とリイムは宿泊している街の宿に戻った。

 宿泊する街の宿の一室。

 報酬を貰いのんびりと寛いでいる最中
「リーダー、グィネヴィアさんとお付き合いして、もう5年でふ。そろそろプロポーズしないんでふか?」
 リイムが何の前触れもなくとんでもない事を口走った。
「プロポーズか……しかし、それはまだ早くないか?」
 いきなりの事で何の準備も覚悟もしていない宵一は慌てて言い返した。
「……そんな事ないでふよ。リーダー、グィネヴィアさんの事好きでふよね?」
 リイムは怖じ気づく宵一の言葉を真に受ける事はせず、これまでと同じように宵一のためにと言葉を継ぐ。
 真剣なリイムの目から逃れる事も答えを誤魔化す事も出来ず
「そりゃ当然だ。好きだからこそ……こうして……」
 宵一は真面目に答えた。好きだからこそこうして恋人しているのだと。
「だったら、プロポーズでふ。きっとグィネヴィアさん、待ってるでふよ」
 リイムはさらに言葉を重ねて力強くプロポーズをするように勧める。何としてでも宵一にプロポーズに動いて貰おうと。
「…………(待っている、か。そう言えば最近、グィネヴィアの様子がおかしかったな。何やらそわそわしているような……)」
 リイムの言葉を受けしばし考え込む宵一。同時にここ最近グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)の様子が心無しかおかしい事にも気付くが、何と関わりがあるのかまでは辿り着いていない模様。
「リーダー?」
 リイムがもう一度宵一の気持ちを訊ねる。
 宵一はわずかに苦笑を浮かべてから
「……そうだな。いつまでも問題を先延ばしにするのもあれだし……ここは男をみせないとな」
 決断した。先に進む事を。
「それでこそ、リーダーまふ。やる気になった今日、行くでふよ」
 さらにリイムはとんでもない事を口走る。決意を今日するだけでなくプロポーズも今日の内にやれと。
「……そうだな」
 覚悟をした宵一は準備を整えて今日プロポーズに行く事に決めた。

 それから何やかんやと宵一は準備を整えるも
「……グィネヴィアにプレゼントする肝心の指輪はこれでいいのだろうか? 俺が用意できる高価な指輪はこれぐらいしかない(いくらグィネヴィアが物にこだわらないと言っても)」
 宵一は肝心の指輪、神の指輪に目を落としながら不安を洩らす。何せ相手はお姫様。下手な物では格好がつかないと。いくら物よりも真心を取るグィネヴィアが相手とはいえ。
「大丈夫でふよ。それよりももっと大事な事があるまふ」
 リイムは指輪よりも肝心な事があると言うと
「分かってる。しかし、何と言ってプロポーズすればいいんだか」
 分かっている宵一はますます悩みの顔に。何せプロポーズ決行が突然のため何も考えていないのだ。
「……」
 少し黙して考えていたかと思いきや
「……行って来る」
 宵一は部屋を出て行った。
「いってらっしゃいまふ」
 リイムはプロポーズの成功を祈り見送った。
 このまま静かにここで待っている事はせず
「……心配だから行くでふよ」
 宵一を心配するあまりリイムは迷彩バンダナで姿を隠してこっそり尾行を始めた。

 リイムに尾行されている事を知らぬ宵一は
「……グィネヴィアには用事があると連絡した。もう逃げられない」
 部屋を出てからグィネヴィアに用事があると伝えてからスレイプニルに跨り彼女が住まうティル・ナ・ノーグに向かって空を駆けた。
 その道々
「……あれはないよな。あまりにも格好つけすぎな台詞で」
 宿で思いついたプロポーズの台詞に苦笑を洩らし没にするも
「あぁ、本当どうしたらいいんだ」
 他の台詞案が思わず溜息が洩れるばかりであった。
 そうこうしている内にティル・ナ・ノーグに到着してしまった。時間すでに昼になっていた。

「いよいよでふ」
 尾行するリイムは心無しか声に力がこもっていた。自分がプロポーズするわけではないが大事なリーダーの一世一代の舞台が迫るとなると同じくくらい力が入るらしい。

 ティル・ナ・ノーグ、城の中庭、昼。

「……(来てしまったな)」
 宵一はゆっくりと手入れが行き届いた中庭を歩き、グィネヴィアの元へと向かう。彼女と付き合い始めてから5年、すっかり彼女の身内や城の者達と顔見知りになり顔パスで城に出入り出来るようになっていた。
「……(ここにいると言っていたな)」
 歩き進める宵一。歩く度に鼓動が高鳴りじっとりと手に汗を感じ緊張が走る。

 緊張気味の宵一の後ろ姿を尾行するリイムは
「……(リーダー、頑張るまふ。リーダーなら大丈夫まふ)」
 尾行しながら静かに見守っていた。

 そしてとうとう
「……グィネヴィア」
 目的の人物の元に到着してしまった。傍には二人分のテーブルと椅子が用意されてあった。
「お久しぶりです。宵一様」
 まさか宵一がプロポーズをするために来たとは知らぬグィネヴィアは花が咲いたような素敵な笑顔で迎えた。
「……元気そうだな」
 まずは世間話をして自分の緊張をほぐそうとする宵一。
「はい。宵一様もお元気そうで……ここ最近会えなくて寂しかったですわ。留学していた頃は今よりももっと会う事が出来ましたから余計に……」
 グィネヴィアはほんの少し寂しそうな顔をした。実は自国の危機が救われた後もパラミタに留まり百合園女子学院を卒業してから国に戻り王女としての役目を務めていた。そのため二人は、互いの仕事の忙しさから頻繁に会う事が出来ないでいた。
「……そうだな。俺も同じ気持ちだ。しかし、君の仕事は立派だと思う。ティル・ナ・ノーグとシャンバラの友好のために尽力しているというのだから」
 宵一も同じくうなずくと共に頑張るグィネヴィアを労った。
「……宵一様もですわ。バウンティハンターとして危険な場所でも恐れずに活動されて立派ですわ。少しだけ心配ですけど。でも宵一様が頑張っていると思うとわたくしも頑張らなければと励ましになります」
 グィネヴィアは昔同様宵一の仕事への理解を示すものの危険である部分は変わらず心配の顔を浮かべるがすぐに笑顔になる。
「……(心配していると言ってもいつも止めたりしない)」
 宵一はグィネヴィアの笑顔を見ながら思う。心配を口にしながらも自分がバウンティハンターという仕事を大切に思っている事を知っているためかやめろとは言わないのだ。
「……宵一様、お茶でもいかがですか? お菓子もありますわ」
 グィネヴィアは思い出したように宵一をもてなすために用意したお茶やお菓子を勧めた。
「……ありがとう」
 宵一は礼を言うだけで席に着いて茶を楽しむ気配はない。そもそも目的はそれではない。
「宵一様?」
 いつもと違う恋人の様子に疑問符を顔に浮かべるグィネヴィア。
「……今日、大事な用があって来たんだが」
 とりあえずと宵一は本題の前置きを口走ると
「はい。またどこか危険な場所に行くのですか?」
 グィネヴィアは思い出したように訊ねた。どうやら彼女の発想はプロポーズではなく宵一が危険な場所に行く、のようであった。
「いや、そういう事でなく……」
 宵一は急いで否定して
「……そうですか」
 グィネヴィアを安堵させた。
 再び
「……」
 沈黙する宵一。
 その胸中では
「…………(参ったな……本人目の前にするとどうにも……緊張して何にも言えない……)」
 今までになく緊張し焦っていた。グィネヴィアの前とあって宿の時よりも一層ひどい。
「…………(どうする。覚悟したからには果たさなければ……何と言えばいいんだ……考えていたあれ以外で……何か……)」
 何とかして没にしたもの以上のプロポーズを発しようとするも何も出て来ず焦るばかり。

 宵一が大事な場面で危機に陥っている最中。
「……(リーダー、僕が何とかするでふよ!)」
 成り行きを見守っていたリイムは放って置けないと行動を起こした。
「……(行くまふ。二人を助けるでふよ)」
 リイムは男女の深い契りの象徴である比翼の鳥と人生の導きの象徴とさせる導きの小鳥を恋人達の頭上に飛ばした。二人の人生がこの先素晴らしい方向に向かっていくのだと意図させるために。
 そして
「……(頑張るまふ、リーダー)」
 出来る限りの手助けをしたリイムは必死に応援し見守りを続ける。

 再び恋人達。
「宵一様、鳥ですわ。とても仲良しですわね」
 グィネヴィアは雌雄一体となって頭上を飛ぶ鳥を興味津々の目で追いかける。
「……あぁ」
 宵一は視線を比翼の鳥から導きの小鳥に向けた。
 眺めている内に
「……(……グィネヴィア、俺は……)」
 宵一の緊張が僅かに和らいだ。
 そして
「グィネヴィア」
 宵一はいつになく真剣な表情でグィネヴィアの名を呼ぶ。
「はい」
 つられてグィネヴィアも真剣な表情に。
「……」
 宵一はじっと愛しい人の顔をひとしきり見つめた末、
「この神狩りの剣に誓い、君を一生守る。そして、この指輪を受け取ってもらいたい」
 持参した指輪を出してプロポーズを口にする。自然と出て来たのは道々で格好つけ過ぎと没にした台詞。
「……」
 グィネヴィアは予想外の事に驚いた顔で指輪を見つめていたが
「はい」
 これまで見た事のない幸せそうな笑顔で力強くうなずくなり指輪を受け取った。

 一方。
「…………(良かったでふね、リーダー)」
 リイムはプロポーズ成功に拍手を送ってからこっそりこの場を後にした。

 プロポーズを終えて数日。
「……そう言えばそわそわとしてた時があったが、何かあったのか?」
 宵一は今更ながらずっと前に気になっていた事をグィネヴィアに訊ねた。
 すると
「……それは……その…………です」
 グィネヴィアは顔を赤くし口ごもりながら言った。
「?」
 あまりにも口ごもっていて聞こえなかった宵一は表情に疑問符を浮かべた。
 宵一の様子から聞こえてないと分かるなり
「……城や街の皆様に言われて……宵一様とお付き合いして5年にもなるのだから……そろそろと……」
 グィネヴィアは薬指にはめている宵一に貰った指輪を見つめながら少しだけはっきりと言葉にした。
「……あぁ、それで……(……まさかグィネヴィアも……俺と同じだったとは)」
 聞いた宵一は納得しながらも少々の気恥ずかしさを感じていた。まさかグィネヴィアも自分のように結婚を勧められていたとは。ちなみに王女様のお相手だけあって宵一の存在はパラミタでの事も合わせて知られているため割と好感を持たれていたり。
 改めて
「……ありがとう、グィネヴィア」
 宵一は何もかもを含んだ礼を言った。身分違いでありながら恋人になってくれた事、プロポーズを受けてくれた事、出会ってくれた事と言葉に出来ない程の沢山の思いを込めて。
「……お礼を言うのはわたくしの方ですわ」
 グィネヴィアは宵一と共に過ごした日々を振り返り笑った。
 そして
「……宵一様、愛していますわ」
 ほのかに頬を染めつつ笑顔で胸一杯に広がる想いを伝えた。
「……俺もだ。愛してるよ、グィネヴィア」
 宵一も答えるように気持ちを伝えた。

 共に歩むと決めた宵一とグィネヴィアの人生はこの先、普通の人よりも困難が待ち受けているかもしれないが、きっと誰よりも幸せな人生が待っているだろう。