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ヴァイシャリーへ



「今ごろ、翠たちは大丈夫かしら……」
 ヴァイシャリーの街をスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)と一緒に散策しながら、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)がつぶやきました。
「ふぇ〜、サリアちゃんもいるから多分大丈夫ですよぉ〜。気にしたところで帰ってくるわけでもありませんしぃ〜」
 心配してもしょうがないと、スノゥ・ホワイトノートが言いました。
 変態を取り締まるためにヴァイシャリーのパトロールにでかけると言って飛び出していった及川 翠(おいかわ・みどり)ですが、いつものことなのでどうしようもありません。幸いにして、今日はサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)が一緒なので、とりあえずは大丈夫でしょう。大丈夫だといいなあ。
「もふもふ♪ もふもふ♪ 今日は、もふもふがありませんねえ」
 キョロキョロと周囲を見回しながら、スノゥ・ホワイトノートが言いました。
 いつもだったら、はばたき広場あたりで、しっぽ美容室などがもふもふしているはずなのですが、今日はそれもないようです。
「そんなに、無理してもふもふを探さなくてもいいですよ」
 さすがに、ミリア・アンドレッティが言いました。今日の目的はスノゥ・ホワイトノートとのデートなのですから。でも、ちょっと残念そうです。
「とりあえず、お昼にしましょう」
 そう言うと、スノゥ・ホワイトノートが、はばたき広場のベンチにミリア・アンドレッティと一緒に座りました。
「今日は面白いお菓子を持ってきたんですよお」
 そう言って、スノゥ・ホワイトノートが取り出したのは、なんだか不揃いな白いお菓子です。巨大な白くて厚いポテトチップスと言うか……。手に取ってみると、柔らかく、なんだかもふもふしています。
「もふもふのお菓子です♪」
 ミリア・アンドレッティが喜んでそのお菓子を口にしました。塩味のおせんべいのようですが、もふもふした食感です。
「はい、スノゥさんも」
 もふもふを堪能しつつ、ミリア・アンドレッティが、唇の先でつまんだお菓子を、ん〜っと突き出しました。
「んっ♪」
 口移しにお菓子をもらったスノゥ・ホワイトノートが、もふもふと食べていきます。反対側からミリア・アンドレッティももふもふと食べていき、いつしか、二人の唇がもふもふを越えて重なりました。

    ★    ★    ★

「変態さんはどこだあ! 変態さんを探索なの! 撲滅なの!」
 元気よく腕を振り上げながら、及川翠がヴァイシャリー市内をパトロールしていきました。隣には、サリア・アンドレッティもいます。
 その時です。
「さあ、お前もパンツーハットを被るんだあ!」
「変態さん発見なの!」
 P級四天王の登場です。及川翠が歓喜の声をあげました。
 頭にパンツを被ったP級四天王の兄ちゃんが通行人の頭にパンツを……、あれ? 男のはずですが、たっゆんがあります。
「わーい、完全変態なの!」
 及川翠が歓喜の声をあげました。変態中の変態の発見です。
「そんなことよりも、その欠片をこちらに渡しなさい」
 P級四天王に迫られていたテンク・ウラニアが言い返しました。巫女服を着た、ボーイッシュな女の子です。
「んなこた、知らねえなあ」
 すかさず、P級四天王がパンツーハットをテンク・ウラニアに被せます。
「きゃあ!」
 視界を奪われて、さすがにテンク・ウラニアが怯みました。
「今助けるよー!」
 すかさず、サリア・アンドレッティが、対変態ギフトスナイパーライフルでP級四天王のモヒカンごと、パンツーハットを撃ち抜きました。
「ああっ! 俺様のパンツーハットが!」
 へなへなと力が抜けて、P級四天王が膝をつきました。けれども、すかさずテンク・ウラニアに被せたパンツーハットを奪い返して復活を計ります。
「そうはさせるものですか!」
「飛んでけなの!」
 我に返ったテンク・ウラニアが、P級四天王が首から提げていたお守り袋を奪い取りました。直後に、及川翠のキックが炸裂します。
「おぼえてろー」
 キラン。
 捨て台詞を残して、すっ飛んでいったP級四天王がお星様になります。
「大丈夫なの?」
 サリア・アンドレッティがテンク・ウラニアに声をかけました。
「ええ。助かりました。おかげで、これを回収できました」
「それはなんなの?」
 テンク・ウラニアがP級四天王から奪い返したお守りを、及川翠がのぞき込みました。
阿魔之宝珠の欠片です。以前砕かれた後、百合園女学院の温室に撒かれたと聞いたので確認に来たのですが。一歩違いで、変なこそ泥に一部が拾われていたようですね」
 テンク・ウラニアが説明しました。
 どうやら、パンツーハットを布教しようと、P級四天王は百合園女学院に忍び込んだようです。まあ、当然のように、あっけなく見つかって逃げ回ることになるわけですが。その時、温室に逃げ込んだ際に、阿魔之宝珠の欠片を拾ってお守りにしていたようです。もともとは、ゴミ捨て場に捨てられていた欠片を、タネ子さんが拾い集めていたらしいです。
「こんな不良品をいつまでも放っておけませんから。回収です」
 及川翠たちにお礼を言うと、テンク・ウラニアは阿魔之宝珠の欠片を回収していきました。
 元はといえば、阿魔之宝珠は、大昔に作られた鷽や客寄せパンダ様と同系統の試作品でした。原料は、鷽の巣にあった銀砂です。これは、寄生型イレイザー・スポーンの残骸である黒い砂がナラカで変化して銀砂となった物でした。人の意志に反応して結合組成を変える特殊な物質です。
 開発チームの一人であった魔法使いが、変な思考で開発に携わったために、男性身体を一時的に女性へと変化させる呪いのアイテムと化してしまったのでした。
 その後破棄されたと思われていましたが、実際にはパラミタ内海に遺棄され、後にヴァイシャリーで事件を起こした後に、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)によって砕かれています。
 開発の総指揮をしていた一人であるカン・ゼは、最近そのことを知り、さすがに破片の完全回収を命じたのでした。
「さあ、変態さんは滅びたの。でも、次の変態さんを探すの。おー!」
「おー!」
 変態を倒した勝ち鬨をあげると、及川翠とサリア・アンドレッティは、次なる変態を探してパトロールを続けていきました。