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空を観ようよ

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空を観ようよ
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リアクション


家族団欒

 2025年元旦。お昼前。
 タシガン本島から少し離れた小島に、リア・レオニス(りあ・れおにす)ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)は降り立った。
 レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)の家は、この小島にあるという。
「のどかなところだな」
「のんびり過ごせそうだ」
 静かな森と、田畑が広がっていて、家はぽつぽつと点在している程度だった。
「ようこそ」
 レムテネルは2人を出迎えに出ていた。
 彼に案内されて、舗装のされていない小道を歩き、あぜ道を歩いて、3人は森の側のレムテネルの家へと到着した。
「ここか……なかなか良いところじゃないか。初めてだな、レムの自宅に来たのは」
「そうでしたか」
 ふふっと、レムテネルは微笑む。
「そうだよ!」
 リアは思わず、レムテネルの肩を掴んだ。
 振り向いた彼の頭には角が生えていた。
 レムテネルは獣人だ。……でも、これまでずっと、獣人としての姿を隠してきた。パートナーのリアにさえ。
「……ええっと、ちょっと恥ずかしいです。そんなに見ないでください」
「立派な角だな。隠しておくのはもったいない」
「カッコイイじゃないか」
 立派に巻いた大きな角だった。
「……う……っ」
 レムテネルは照れて、ばしばしと二人を叩く。
「悪魔のボスみたいだ」
「……悪魔じゃないです。羊ですよ」
 ズボンの背も、尻尾で膨れている。もこもこの白くて長いしっぽが入っているのだ。
 そうレムテネルは、羊の獣人だった。
「そうか、羊かぁ」
「だから、そんなに見ないでください。さ、どうぞ」
 照れながらドアを開けて、レムテネルは2人を家に招き入れる。
「部屋はいくつかありますので、1人1部屋ずつ……」
 レムテネルは別の客間にリアとザインを案内しようとしたが。
「折角だから3人で1つの部屋にしないか? キャンプみたいにさ」
「お、それいいな!」
 リアの言葉にザインが賛成する。
「そうですね……それも楽しそうです。私の部屋にしますか?」
「うん、そうしよう」
 3人は、客間から移動して、レムテネルの部屋に荷物を運び込んだ。
 夜もここに布団を敷いて、皆で眠ろうと約束をする。
 リアとパートナーのザインとレムテネルは、普段空京のそれぞれ別の住居で暮らしていた。
 近い場所にアパートや家を借りているのだが、ザインはあちらこちら旅行していてあまり在宅しておらず、彼のアパートは物が少なくて殺風景だ。
 レムテネルの空京のアパートは一階で、この家と同じように小さな庭がある。
 リアは職場近くの5階建ての3階の部屋で普段は暮らしている。
「よしそれじゃ、オセチのかわりに食事を作ろう。正月だから昼間から豪華でもいいよな」
「そうですね。食器や器具は準備できています」
「材料は十分持ってきたぜ。キッチンはどこだ」
 リアが腕まくりをし、レムテネルは2人をキッチンへ案内し、ザインが食材を運んでいく。

 お昼を少し過ぎた頃。
 料理が完成して、テーブルに並べられた。
 メインシェフはリアだった。
 男のザックリ料理だから期待しないでくれ〜などと言っていたが、てきぱきと指示を出し、手際よくシチューとハンバーグ、そしてサラダを作り上げた。
 テーブルにはデザートのかわりにと、レムテネルが用意した林檎と柿、葡萄といったフルーツも置かれている。
「それじゃ、乾杯」
「乾杯」
「かんぱーい」
 3人はグラスをカチンと鳴らして、新年を祝う。
「しかしさ、タシガンに住んでる獣人ってちょっと珍しいよな」
 食べ始めながら、リアがレムテネルに尋ねた。
「そうですね。私も故郷はジャタの森です」
「帰らないのか?」
 ハンバーグを頬張りながら、ザインが聞く。
「帰らないと思います。私の将来の夢は、ここで著述活動をしながらゆっくりと農作業で汗を流すことです。
 契約者として稼いだお金は、その資金でして、土地を買うつもりなのです」
「随分としっかりした夢を持ってるんだな。らしいというか。けど、家族は?」
「血のつながった家族でしたら、他界しました。それを切っ掛けに集落を出る決意をしたんです」
「家や土地、遺品なんかは集落に残ってないのか?」
 リアが尋ねるとレムテネルは少し寂しげに微笑んだ。
「遺品はここにあります。その他、物は集落に何も残っていませんが、家族の墓は集落にあります。
 お墓参りに、年に一度だけ行っています」
 血のつながった家族のことも、勿論大切に思っているが……。レムテネルは、リアたちのことも自分の家族になったと思っていた。
 だからこうして、ここに招き、長い間秘密にしてきた自分の獣人としての姿も見せたのだ。
「リアは地球だったよな? 故郷や家族はどうしてる?」
「俺んちは、ギリシャの一般家庭で、特に珍しい話なんてないよ」
 ザインの問いに、リアはサラダを食べながら答えた。
「ま、一年に一度、ニューイヤーカードで近況は聞いてるけどさ」
「え?」
「俺達の家にも、毎年届いてるんだよ。な?」
 ザインの言葉に、レムテネルもこくりと頷いた。
 リアの実家から、2人の元に毎年ニューイヤーカードが届いているのだ。
「なんか恥ずかしいな……」
 リアは照れ隠しのように、目を逸らしてサラダをぱくぱくと食べる。
「何がだ。……正直、羨ましいぞ」
 ザインには両親はいない。
「そういう種族なんだが、家族ってどんなかなってのは思うんだよ」
 彼は剣の花嫁として作られた存在だからだ。
「……私たち、家族ですよね」
「ああ、俺達は家族だ」
 レムテネル、リアの言葉に、ザインはフォークを口に入れたまま手を止めて。
 それからくすっと笑った。
「ああそうだな、お前ら2人がオレの家族だな」
「当たり前の事だろ。さ、もっと飲め」
 リアがザインのグラスに酒を注ぎ、ザインはぐいっと酒を飲み、料理を楽しんでいく。
「リアの料理はホント美味い! お前、いいお婿さんになるぞ」
「ええ、とっても美味しいです、この手作りハンバーグなんて、プロ級ですよ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
 3人は声を上げて陽気に笑った。その時。
「あ、お客さんですね」
 ノックの音に、レムテネルが立ち上がる。
 配達員が手紙を届けてくれたのだ。
「年賀状か、結構来てるな」
 戻ったレムテネルの手には年賀状の束があった。
「リアの家からも来ていますし、宮殿の方からも来ていますね」
「うちにも来てるかな……」
 年賀状の束を見ながらリアは思う。

 多分、届いているだろう。
 親族と、友と、仲間と。
 大切な人、愛する人たちから――。