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リアクション
(今年は、色んなことがあったな……)
出番を待ちながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が今年一年を振り返る。
(エリュシオンやカナン、それにポータラカにも行ったしな。
どこもかしこもまだまだ情勢が不安定みてぇだが、それでもこのパラミタがいつか平和になると信じて、そして砕音を守る為にも、この拳を振るう!)
今はシャンバラ刑務所に拘禁中の砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)を想い、ラルクがぐっ、と拳を握りしめる。
(ただ、ひとりの力なんてたかが知れてるしな。皆と力を合わせて困難を打ち破る!
そんな気持ちを篭めた歌を熱血して歌うぜ!!)
おそらく、砕音を真に解放するためには、ラルク一人だけの力では足りない。そのことをラルク自身は感じつつも、しかし絶望することなく、その日が来るのを待つ……ではなく、皆と力を合わせて手繰り寄せてみせる、そんな決意の感じられる想いであった。
「次の歌い手は、ラルク・クローディス、曲は『唸れ拳、その思いを貫く為に』です。それでは、どうぞ!」
クロセルの紹介を受けて、ラルクが颯爽とステージに上がり、力強くマイクを握る。
「それじゃあ、聞いてくれ!! 俺の歌!!」
秘めたる思いを その拳にのせて
鋭い眼差しで捉えるは混沌の闇 伸びてゆく魔の手
暗雲が空にたちこめても俺らは諦めない!
繰り出せ勝利の一手 その意思を貫く為!
今こそ目覚めよコントラクター 絆の力で
魂と魂を繋ぎ合わせてどんな闇をも打ち払う!
たとえ困難が立ちふさがろうとも もう逃げたくはない
愛する人を 愛する世界を守る為にも俺は闘う
この命が尽きたとしても……その思いを貫く為に!
ブン、と振るった拳が、大気を押し出し衝撃波を生む。
その風にのって、ラルクの想いが会場を飛んでいく。
たとえ 愛する人を失ったとしても
その意思は消えはしない 愛する人の思いに答える為にも
泣いてなんかいられない 落ち込んではいられない
今こそ戦え 己が力を放つ時!
あらゆる手を使い 勝利を導け!
ひとりになったとしても諦めるな
その瞳の光は消えはしない! 吼えろ今こそ全ての力をここに
会場からの拍手を受けて、ラルクが行き同様颯爽とステージを去っていく。
涼司:8
鋭峰:7
コリマ:8
アーデルハイト:8
ハイナ:9
静香:7
合計:47
●シャンバラ刑務所
シャンバラ教導団の管理下に置かれている、シャンバラ刑務所。
真偽は定かではないが、五千年前から服役している者がいる、地下に迷宮があるという伝承もある、拘置所と留置場の役割も兼ねた施設は今、ちょっとした賑わいを見せていた。
「おい誰だよこれメッチャ可愛いだろ」
「あーオレこの子好みだわー、ヤらせてくれねぇかな」
「ばっかやろ、こういう子に限ってマグロなんだぜ、オレはこいつを狙うね」
食堂に置かれた一台の小さなテレビに、大勢の受刑者がたむろし、時折下品な言葉を交わし合いながら紅白歌合戦の中継に見入っていた。
『王国再興した最初のイベントを見せろ』という囚人の抗議の高まりに、教導団側もガス抜きを図る意味で視聴を許可したのである。
(紅白歌合戦か……これはおそらく、高根沢の案だな。
おかげで、こんな所にいても、少しは一年最後の日って気分を味わえる)
そして砕音はというと、あてがわれた個室で寝っ転がり、テレビを付けっぱなしにして、紅白歌合戦を見るとはなしに見ていた。
『それじゃあ、聞いてくれ!! 俺の歌!!』
「な、何!?」
しかし、その声が聞こえると、砕音は飛び上がり、テレビに齧り付かん勢いで画面を凝視する。
そこには確かに、ラルクの姿が映し出されていた。
「ラルク……ああ、聞かせてくれ。俺は一言たりとも聞き漏らさない」
そして、そのまま歌が終わるまで、砕音は布団の上に正座して、ラルクの歌を聴いていたのであった。
「あのゲイは紅白参加してねぇんだってな?
こりゃいいチャンスだ、あいつになりきって酷い歌を披露してやるぜ! そうすりゃあいつの評判はがた落ちさ。ククク……」
だいたい無言なロイ・グラード(ろい・ぐらーど)に代わり、饒舌にしゃべる常闇の 外套(とこやみの・がいとう)が、何やら悪巧み(彼にとっては至極真っ当であるが)を思いつく。
「つぅーわけでよ、アクリトの服装とカツラを用意して、紅白に出場するぜ。
おまえは……あそっか、アクリト審査員じゃねぇよな。じゃ、俺様の用意が終わったら観客席で適当に見とけよ」
やはり無言でロイが頷き、二人は控え室へと向かっていく――。
「ミナサンコニチハー。ワタシアクリトイイマース。ヨロシクネ。
……こんな感じか? うん、まあ大丈夫だろ。ウヒャハハ!」
着替えを済ませた外套が、アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)のモノマネをしてみせる。
……まあ、この状態でステージに出ればきっと点数は、
涼司:0
鋭峰:0
コリマ:0
アーデルハイト:0
ハイナ:0
静香:1(個人の性格によるもの、本当は0をつけたい)
合計:1
だろう。
「さてと、準備は念入りにしねぇとな。おい、ちっと山葉呼んでこいよ」
すっかりパシリに使う外套に頷いて、ロイが涼司の下へ向かう。
「なんだよ、俺は忙しいんだ――って、おまえ、何してんだ?」
ロイに呼び出されて来た涼司が、アクリトには似ても似つかない何かに向かって言う。
「ヤマハサン二協力オ願イシタイデース。協力シナイト、アナタノエロフォルダヲシャンバラ中二公開シマース」
「なんでおまえがそれ知ってんだよ! あぁメンドくせぇ、ここでちっとくたばってろ!」
相手をするのが面倒になったらしい、涼司が自らの拳で外套を黙らせる。
「ったく、なんなんだよ一体……っと、こうしてる場合じゃねぇな」
進行に穴を開けるわけにはいかないと、涼司が慌てて審査員席へと戻る。
結局、外套の歌は披露されることはなかった。
「……俺は無関係だ」
そしてロイは、カレーを食いながら一人、紅白歌合戦を観賞していた。
エレンの紹介を受けて、芦原 郁乃(あはら・いくの)と秋月 桃花(あきづき・とうか)を中心に、その両脇に荀 灌(じゅん・かん)と蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)という配置で、ステージに四人が立ち、歌声を響かせる。
小さな星くず まき散らしたような
浮き沈みする 想い出が 心に沁みてくる
(……いろんな出会いや別れがあって、傷ついて、涙したこともあったけど、そんな思いもきっと昇華してくれるはず。
喜びも悲しみもみんなで分かち合って、これからもみんなで乗り越えていこう!)
祈りにも似たそんな気持ちを、郁乃が胸に抱く。
刻まれる季節 重ねていく出会い
この胸にある 宝箱に そっと詰め込んでゆく
(仲間、友人、愛する人への愛しい想い。
郁乃様からそんな、とても大事な想いが伝わってくるようです)
隣に立つ桃花が、普段の様子とは違ってしっとりと歌う郁乃に微笑み、歌声を重ねる。
わたしの周りの 大事なみんなと
分かち合えるの 涙も笑顔も
まばゆく光る 大事な宝物 忘れないでいて
(来年もたくさん、お姉ちゃんとの大事な、大切な思い出が増えるといいです)
未だ抜けない緊張した面持ちを、頑張って微笑みに変えて、灌が続く。
儚くても けなげな祈りを
抱きとめてあげる わたしの胸に
だからいつまでも 輝いていて
光失わず
(……あの方は、今の主と重ねる時間をどう見ているのでしょう。
あの方はあたしが力を行使しなくても、一緒にいられる主に出会えることを望んでいましたから、きっと喜んでくださると思うのですが……)
歌い終え、観客からの温かな拍手と歓声を浴びながら、マビノギオンが前の主のこと、そして今の主である郁乃のことを思う。
――前の主も、今の主も信じるに足る、付き従うに足る主であること。
それはきっと、とても幸せなこと――
マビノギオンの頬を、一筋の雫が流れ落ちる――。
涼司:8
鋭峰:7
コリマ:8
アーデルハイト:8
ハイナ:8
静香:9
合計:48
エレンの紹介を受けて、まるで賛美歌のような雰囲気を醸し出しながら、火村 加夜(ひむら・かや)の歌声がステージから会場全体へと羽ばたいていく。
どれだけの哀しみが生まれただろう
どれだけの命の火が消えただろう
誰もが迷い苦しみを抱きしめて立ち止まる
大きな荷物を背負い前に進めなくても
気付くはず
近くにある温かさを
背を押す風となり
全てを包んでくれてる
自分らしく大切な人たちを守れるよう
あなたを支えれるよう
私は歩き続ける
(東西に分かれて仲間と戦うことがこれほど辛いなんて、初めて知りました。何度戦いたくないと思ったことか分かりません。
それでもあの時は、戦うことが正しいと自分に言い聞かせて、仲間に銃を向けてました)
生徒の多くは、どうして国が東西に分かれたのかの理由に行き当たらないまま、どうして同じ仲間同士で戦わなくちゃいけないのかという思いに駆られたかもしれない。
その日々がどれほど辛かったかは、当人以外に想像は難しい。
(でも今は一つになって、仲間と向き合うんじゃなくて隣で同じ方向を向いて歩けることが、凄く嬉しいんです。
辛さだけじゃなく大切さも教えられた日々でした)
辛かった日々を、様々な思い出を昇華させ、自身をいい方向へと導くことが出来るのは、最終的には当人のみ。
そして加夜も、このステージで自分が新たな一歩を踏み出せるよう、想いを込めて歌を紡ぐ。
――そっと、好きな人への想いも歌詞に込めて。
どれだけあの人が私の心の支えになっていたか、少しでも伝えられたら――
たくさんの祈りが闇を貫いて
たくさんの想いが届いたのだろう
誰もが自分の弱さと向き合って乗り越えたこと
気付いてる
全てが一つに繋がって
変わり始めてるよ
この蒼空のフロンティア
分かるでしょう 背負うもの 翼になり ほら飛び立とう
あなたの望む未来を
私も見てみたいから
(変わらない、優しさをありがとうございます。
少しでも役に立ててたら嬉しいですけど……)
深々とお辞儀をする加夜へ、観客からの温かな拍手が届けられる。
涼司:10
鋭峰:7
コリマ:8
アーデルハイト:8
ハイナ:8
静香:8
合計:49
「私には随分と贔屓目を感じるのじゃが、気のせいかの?」
「老人は勘繰り深くて困るぜ。……それに、少しはそういう所があってもいいじゃねぇか」
アーデルハイトの試すような発言に答えて、涼司がステージを去っていく加夜を見送る――。