薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション公開中!

シャンバラ独立記念紅白歌合戦
シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション

 
「さあ、次もとても可愛らしい歌い手の登場です。クロ・ト・シロ(くろと・しろ)、曲は『家猫』、どうぞ!」
「可愛いとか言うなwwwおまえらオレの歌を聴けwwwwwwうぇwww」

 司会の紹介に、クロがいつもの調子で返し、マイクを握る。
「おや、クロの出番ですか。クロ、頑張ってくださいね」
 クロが「三丁目のミケっちが普段言ってる事を、そのまま歌詞にしただけだwwwwww」と言う詞に曲をつけ、今は観客席に座るラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が見守る中、クロのステージが幕を開ける。
 
 お前は私の召使い
 私に寝床を 食事を 時間を寄越せ
 寝ている私に手を出すな
 一食たりとも手を抜くな
 私のために手を尽くせ
 召使いなら 出来るだろう?
 
 私は神に違いない
 私は神に違いない
 望めば全て手に入る
 寝床 食事 そして愛
 お前が与える 私のもの
 
 私はお前の唯一神
 お前に役目を 仕事を 義務をやろう
 私の言葉に耳を貸せ
 私の行動に口を出すな
 私の不祥事には目を瞑れ
 仕事ならば 得意だろう?
 
 私は神になったのだ
 私は神になったのだ
 寒空の下拾われた
 地面 残飯 そして自由
 お前が奪った 私のもの
 
 私は神に違いない
 私は神に違いない
 望めば全て手に入る
 時間 愛情 そして想い
 最期に奪う お前のもの

 
 普段のおちゃらけた態度を封印し、最後まで歌い終えたクロに、観客から拍手と歓声がもたらされる。一部の観客は膝に手を打ち鳴らして悶えているが、それはきっと彼らが猫好きだからだろう。
 それほどまでに、クロの歌う歌は猫そのものを表していた。
「おやおや。なんともまあ、可愛いではありませんか」
 そしてラムズも、称賛の拍手を送る。
 ……もちろん、歌の中の『召使い』であるラムズには、クロの歌が『三丁目のミケっちが普段言ってる事』ばかりではないだろうと薄々感付いていた。そもそも三丁目のミケさんなる人物を知らない以上、それはクロの創作上の人物である可能性が高い。
 しかし、あえてそれを問い正すつもりはなかった。聴いたところでクロがまともな答えを返すとは思えない。引っかかれるのがオチである。
(今日のご飯は奮発してあげましょう)
 そんなことを思うラムズであった。
 
 涼司:7
 鋭峰:6
 コリマ:6
 アーデルハイト:8
 ハイナ:7
 静香:8
 
 合計:42
 
 
「この歌合戦がシャンバラ統一記念だと言うなら、歌う歌も皆が一つとなれる様な曲がピッタリなのだ!
 皆と一つとなれる歌と言ったら、熱血に決まってるのだ!
 熱いシャウト! 心を揺さぶるストレートで解り易い歌詞! 会場全体が熱くなれば、皆の心が一つになること請け合いなのだ!」
 
 木之本 瑠璃(きのもと・るり)の筋が通っているようないないような言葉に押され、紅白歌合戦への出場を決めた相田 なぶら(あいだ・なぶら)であったが――。
(俺はカンペだ、俺はカンペ、俺はカンペ…………俺はカンペ!!)
 ステージに立つ瑠璃からは見え、観客やカメラからは見えない位置に控え、歌詞を書いた紙を掲げるなぶら。
 彼は紅白歌合戦への出場申し込み、瑠璃が書いた歌詞の添削、及び作曲(瑠璃の鼻歌を録音し、楽譜に起こす高等技をやってのけた)、そして今はカンペと、完全にサポートに徹していた。
 パートナーであるということを差し引いても、いささか割りに合わない行動を取るなぶらだが、彼がそこまでするのには、瑠璃がこれから観客に向けて送る言葉の存在が大きかった。
 
 建国を巡る戦いの中で、納得いかないこともあったかもしれないのだ。
 敵だった者、味方だった者、お互いに言いたい事があるかもしれないのだ。
 でも今この瞬間だけは、そんなの忘れて一緒に歌って楽しむのだ!
 一緒に歌って熱くなって一つになれば、お互い解り合う第一歩にもなると思うのだ。
 だから皆、一緒に熱くなるのだ!!

 
(あいつ馬鹿で、歌詞も覚えられないくらいだけど……言ってることはその通りだと思う)
 バックバンドの演奏が始まる中、なぶらがそんなことを思う。
(……いけね、カンペ忘れそうになった)
 既に瑠璃の歌、『御主の正義を貫いて』は始まっていた。
 見やすいように大きく印刷された紙を、なぶらが捲っていき、それに合わせて瑠璃の歌声が響く。
 
 何が正義か 解らないなら
 何をすべきか 解らないなら
 信じれば良い 御主の心を
 
 熱く溢れる 御主の正義を 信じ貫け
 御主のハートが 燃え尽きるまで
 
 失敗しても 諦めないで
 間違ってたら 謝れば良い
 一番やっちゃいけない事は
 自分自身に 嘘をつく事

 
 間近で聴いていたこともあって、瑠璃のシャウトになぶらは弾き飛ばされるような感覚を覚える。
 逆に言えば、それだけ瑠璃の想う心が強いことの表れでもあった。
 
 時にはぶつかる事もある
 分かり合えない時もある
 それでも信じよ 御主の正義
 高く掲げろ 拳に込めて

 
 瑠璃の天を突くかの如く掲げられた拳が、光を纏う。
 契約者なら思い当たるであろう演出だが、そうだと分からない観客から、驚きと感動の声が上がる。
 
 正義を思う 心があれば
 最後はきっと 分かり合えるさ
 
 だから進め 自らの 熱い正義を 信じて
 
 うぉ〜お〜お〜お〜

 
 瑠璃に煽られた観客の、轟くような声が会場を揺らす。
 審査員も、特に涼司はこの手の歌が好みなのか、一緒になって拳を振り上げている。
「ありがとうなのだ!」
 歌い終え、観客の声援に答える瑠璃が、曲が無事に終わったことにほっ、と息を吐くなぶらの下へ向かう。
「御主も出てくるのだ! 皆の声を、御主も感じるのだ!」
「え、ちょ、待っ――」
 有無を言わさず瑠璃に引っ張られ、なぶらも観客の前に晒される。
 轟く歓声に、果たしてなぶらは何を感じたか――。
 
 涼司:10
 鋭峰:6
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:9
 静香:7
 
 合計:48
 
 
(もうすっかり『歌いたい人が歌う場』になっちゃってるよね、これ。申し込みしたらアッサリ通っちゃったし。
 校長には『優勝するつもりで歌ってこいですぅ〜』って言われちゃったけど、それはいいや)
 ステージの盛り上がりを脇で見ながら、エレキギターを携えた須藤 雷華(すとう・らいか)が思い至る。
 
 シャンバラの統一と独立を記念して、という建前は、イベントを開催するためには必要だったかもしれないが、いざ始まってしまえば、そこは生徒主導の場所。歌で自らの想いを表現したい、伝えたいというのが強ければ、自然と場はそのようになっていく。
 それがいつでも良いわけではないだろうが、今日この場に集まった観客の盛り上がりを見れば、少なくとも悪いことではないはずであった。
 
「あっ、そうだ。ねえメトゥス、結局ユニット名は何にしたの?」
 雷華が、ベースを携え隣に立つメトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)に尋ねる。申し込みの時にはその部分だけ空白にしておいたのだが――。
「あれ、雷華さんが決めたんじゃなかったんですか? 私が進行表を見させていただいた時には、既に名前が入っていましたよ。
 確か――」
 メトゥスの言葉に雷華がえっ、と呟いたところで、司会であるエレンの紹介が始まる。
 
「それでは次のユニット、『マジカル・フラベリー』に登場していただきましょう!」
 
「あっ、これです。魔法少女な私と、雷華さんの名前をもじったような組み合わせになっていたので、てっきり雷華さんが決めたんだと思ってました」
「ううん、決めてないわよ。……ユニット名募集中、と書いたのが反映されたのかしら?
 首をかしげつつ、ともかく呼ばれた以上は行かねばと、二人がステージに向かっていく。
 
「さあ、それでは歌っていただきましょう。『アネモネ』、どうぞ!」
 エレンの紹介が終わり、バックバンドのドラムがリズムを刻む。
(さあ、私の腕を見せてやるわ!)
 意気込んだ雷華が、見事なピッキングを披露する。それはスキルに『ピッキング』を装備していたこととは関係……あるかもしれない。
(魔法少女として、皆さんに夢と希望を与えられる機会です。……行きますよ!)
 メトゥスが、こちらは『リリカルソング♪』でベースを演奏し、背後のモニターと連動する映像をメモリープロジェクターで空中に投影し、立体的な場を演出する。
 既に盛り上がりを見せる観客へ、雷華の歌声が響く。
 
 幻でも そこにあるなら
 意味があること 信じさせて
 繋いだ手に 温度感じて
 そこにいること 確かめたい
 
 先を見ていた 君の横顔が 眩しかった
 君の未来に 私はいますかと 虚空に響く
 
 運命が 繰り返すなら
 私は何にすがればいい?(It’s meaningless)
 もう誰にも 奪わせない
 決意だけ空回り?(Will you regret?)
 
 幻でも そこにいたから
 胸に今も 灯る光
 離れた手に 伝えたいんだ
 君の未来に 私もいたいよ

 
(気になっていたんですけど、どうして雷華さん、普段の性格に反して作詞するといつも暗くなるんでしょう……?)
 能天気だったり、好奇心で行動する雷華が作詞したとは、雷華をよく知る人物であればあるほど不思議に思うだろう。今は家でテレビを観ているらしいもう一人のパートナーによれば、雷華の作詞は『イタコ式』とのことだが、真相は定かではない。
 
 演奏が終わり、余韻を響かせる雷華へ観客の拍手と歓声が絶えず届けられる――。
 
 涼司:9
 鋭峰:6
 コリマ:7
 アーデルハイト:8
 ハイナ:7
 静香:6
 
 合計:43