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リアクション
【14・自分で思うほど、他人から嫌われていないこともある】
別荘の入口前。
そこでゲオルゲは牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)、アコナイト・アノニマス(あこないと・あのにます)、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)達とやりあっていた。
ここへ来る前アルコリアは、
「ナラカからもたらされたのなら、奈落人の出番ですね。アコにゃん任せた」
という軽めなノリでアコナイトを自分に憑依させ。そしてそのうえでラズンを魔鎧化させて防御を固める、まさに三位一体の姿勢でことに臨んでいた。
そしてこの島を訪れてからは、空飛ぶ魔法↑↑でナコトと共に空から索敵を続けていたのだが、別荘近くに来たところで丁度よくゲオルゲが外に出てきたのである。
コンジュラーであるアルコリアの目には、彼がフラワシを連れているのが遠目にもわかり。そしてわかるや否や、急降下しながらカタクリズムを展開させ。
集まってきていたわたげうさぎたちを、軽く吹き飛ばしながら着地しながら。
「ええ、参りましょう」
アコナイトは、憑依中のアルコリアと端的に意思を通じ合わせておいた。
それだけでゲオルゲにも戦闘の意思は伝わったのか、ゴーストイコンと青白フラワシを身構えさせる。
まずは挨拶代わりにアルコリアはエンドゲームのスキルで、ゴーストイコンに魔法ダメージを与えてやる。唐突に相手がのけぞったのを見て、ゲオルゲだけでなくアコナイトも多少驚いた。
「何か、しました?」
「アコナイト。確認とってると危ないよぉ、きゃは」
ラズンが警告する通り、ゲオルゲはハンドガンを構えて撃ってきたが。アコナイトは残心を使い、ラズンの地獄の天使によって軽く左へ飛んで攻撃を回避する。
そこから方向転換し、シーリングランスを用いてスキルを封じながら、魔道銃の銃口で突き、
「どのような耐性を持とうと、属性すら持たぬこの一撃……耐えられますか?」
アコナイトはゲオルゲに龍の波動を叩き込み。
そこにあわせてナコトも、ゴーストイコンを凍てつく炎で足止めしておき。
「フラワシだろうとわたげうさぎだろうと……その辺りのラーメンの具になればいいのですわ!」
血のインクをつけたペン先で魔方陣を宙に描き、そこを通じて魔道銃からもう一度凍てつく炎を今度はゲオルゲめがけて撃ってやった。ほんとうに近くのわたげうさぎが、まぎぞえでまたも吹き飛ばされていた。
「ん……なに、右腕が熱い……」
ゲオルゲは魔法の連続攻撃を受けてうめいており、とどめをさすチャンスだったが。
そこでラズンは急に人型に戻ってしまった。
「? どうしたんですか、まだ終わっていないですよ」
声をかけられても身体全体に熱がまわりはじめ、うまく動けない。
ラズンは最初に痛みを感じた右腕を軽くなめ、
「ぺロッ……これは紫へイズ!! きゃははっ」
「え、なんですか。それ」
「ああ、昔ラズンが居た地域で流行ってた病気の事だよ」
適当な解釈を話していた。
彼女達は誰も知らなかったが。青白フラワシが、ダニによる攻撃を行なったのである。
「いまのうちでございますな。我輩のフラワシ『チック・タスクフォース』を甘くみてもらっては困るのですぞ」
ゲオルゲは、生まれたわずかな隙をみて。
ゴーストイコンに足止めをさせ、森の中へ隠れようと考えを巡らせる。わたげうさぎが大量に集まっているこのときなら、森は自分のフラワシの独壇場となる。
そうした構想を練っていたのだが。
「やれやれ、ようやくあたしの出番ね」
その森の中から、誰かの声がした。
「とうっ!!」
その声の主は、わたげうさぎの群れをジャンプからのレビテーションで飛び越えて、ゲオルゲの目の前で着地した。
現れたのは葛葉 杏(くずのは・あん)。
じつのところ彼女は、アルコリア達の戦闘がはじまった頃から樹の陰に隠れ身で潜んでいたのだ。
味方側にフラワシ使いがいないようなので、すぐ加勢に入ろうとも考えたが。どうやらフラワシが見えているメンバーが混じっているようなので。もうすこし静観を決め込むことにしたのである。
そして今、杏の見立てでは。
ゲオルゲのフラワシは、ダニを操る能力と、ゴーストイコンを操る能力だけが取り柄で。近接戦闘では役立たずとわかった。
「いけ、キャットストリート!」
なので杏は降霊させた自分の嵐のフラワシを、ゲオルゲのフラワシの懐へと飛び込ませ。迷いなくけしかけてあげることにする。
うにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃうにゃ
と、まさに猫が鳴きつづけている勢いでゲオルゲのフラワシはめったうちにされていく。
そしてそのダメージはそのまま使い手のゲオルゲに伝わって、連打がやむころには彼は全身がぼろ雑巾のようになってしまっていた。
花音特戦隊がようやく外へ出てみれば、既にゲオルゲは倒れていた
しかしまだすべてが終わったわけではないので。花音はゲオルゲへと歩み寄り、問いかける。
「どうしてこんなことをしたんですか?」
答えは返ってこない。全身を強く殴られているが、気絶はしていないため口はきけるはずだけれど。
と思っているとゲオルゲは腰のポケットから、丸薬の袋を取り出して。
「ダニの毒の、解毒薬ですぞ。今日中に呑ませれば一晩で完全に治るのでございます」
「あ、はい。じゃあエメネア、そちらの方もこれを……って、それも大事ですけど。それより」
「お探しのダーツなら、勝手に持って行けばよいでございます」
「あ、はい。じゃあこれであのお婆さんも……って、だからそうじゃないです」
肝心のところは、どうにも話したくない様子だったが。
「ああ! リフルさま……やっと見つけました!」
そこへ真口悠希がやってきた。
「あれ。でももう、終わってしまったんですか?」
「うん……まあ、そうよ」
「なんだ……せっかくリフルさまと協力できたらと思って、地図のこととか色々調べて。情報も集めてきたんですけど。もういらないんですか……」
がっくりと肩を落とす悠希だったが。
その肩をリフルはがしりと掴みなおした。
「……なにか、あの地図についてわかったの?」
「え? はい。ボクが全部調べたわけじゃないですけど」
「教えて! お願い!」
リフルのなんだか真剣なようすに、ちょっと見惚れそうになりながら。
悠希はさきほど間宮の家にいた皆が出した可能性の話を聞かされた。
その話の合間合間に、ゲオルゲが表情を変えるのを花音は見逃さなかった。
「……というわけで。そのことについて確証が得られないかと思って。さっきトレジャーセンスを使って別荘を探索してみて、これを見つけたんです」
悠希が取り出したのは、一見ゴミかとも思える汚れた紙の切れ端。
そこにはこう書かれていた。
《我輩 認め い。 血鬼が、創 れた存在 どと》
日記かなにかの切れ端だったのだろう。
ビリビリに破かれてところどころ読めないが、内容は大体理解できる。どうやら疑いようもないらしい。
皆の視線が集まったのをみて、やがてゲオルゲは観念して絶叫する。
「地図が本物であることは見た瞬間に分かったのでございます。だからこそ認める訳にはいかなかったのですぞ! 自分が存在しなかったなど、だれが認められるのでございますか!」
「だからこんなことをしたんですか? 現実から目を背けて、地図に関わった人間を殺して、地図を調べていた皆を傷つけて……エメネアまで」
「目を背ける? 違うでございますよ! 我輩は、いまここにある現実を守ろうとしたのですぞ! タシガンが! 吸血鬼が! 存在を認められている、この現実を!」
「ゲオルグさん……」
「我輩は、この島の領主などという地位にいますが。これまでろくに誰を守るでもなく、誰に愛されるでもなく。ただ惰性で日常を送っていたのでございます! だからせめて、吸血鬼たちの真実を知った以上は、この現実を守りたかったのですぞ!」
心の中に閉じ込めていた叫びを聞きながら、花音は思う。
彼はたくさんの間違いを犯している。ほとんどは指摘しても、どうにもならない。
けれど一番大事な間違いだけは、教えてあげなければいけないと口を開こうとして。
「それはすこし違うでありますよ」
別の声が届いた。
やってきたのは金住健勝とレジーナだった。
「自分達は、この島の方々に話をきいてきたのでありますが。ゲオルゲ殿はちゃんと守って、愛されていたでありますよ」
「なんなら、みてみますか? 私メモとってきましたから」
レジーナが手渡したメモに書かれていたことは、ゲオルゲに対する賞賛の言葉あかりだった。
不器用なところはあれど、心根は優しく、思いやりのある人だと。
それに付け加えるように、花音も告げる。
「ここへ来る途中……わたげうさぎさんたちに、足止めされたことがありました。戦いで邪魔されたりもしました。きっとうさぎさんたちも、あなたのことが好きだから。守ろうとしていたんですよ」
「それは……我輩がそうしつけたからですぞ……」
「それは違うわ」
リフルも、はっきりと告げて周りを指差す。
見渡せば周囲一面に。わたげうさぎたちが集まってきていた。とてもつぶらな、優しい瞳で。
「我輩は……我輩は…………」
やがてゲオルゲは地面に顔を押し付けると。
ひたすらに泣き続けた。
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