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リアクション
【9・コミュニケーションって大切】
その頃。
金住 健勝(かなずみ・けんしょう)とレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)は、間宮の家とはべつの家を訪ねていた。
気配がしないので、注意深く入ってみると。中は狭く六畳間くらいしかない。
そのわりにツインベッドが強引に押し込められていて、洋服箪笥からキラキラした派手服がはみだしており、キッチンにも綺麗なティーカップとお皿がふたつづつ並んでいる。
貧乏だけど懸賞にだけ強い人がいたらこんな家になりそうな印象だった。
「誰もいないのでありましょうか……すこし中を調べてみるであります」
「大丈夫ですか? 健勝さんっていつも戦闘要員だから……」
「えー、だって自分はフラワシ見えないですし。わたげうさぎの排除に向かってもよかったでありますが」
「えっ、わたげうさぎ撃つつもりだったんですか!? あんなにかわいいのに!」
(だから、そういうと反対するのがわかっていたから行かなかったんでありますよ)
内心つぶやきつつ、誰かの侵入形跡がないかとか箪笥を開けてみる。荒らされたかんじはなかったがなぜか白のドレスが多くあった。
詳しく調べるため小人の小鞄から小人を呼びだし、捜索にあたらせようとしていく健勝。
「! 健勝さん、誰かが近づいてきます!」
作業中、周囲を警戒していたレジーナが声をあげた。
咄嗟に鞄を片付け、どこかに隠れようかとするふたりだったが、それより先に二十歳くらいの男女が入ってきた。
ひとりは、麦藁帽子に半そで半パンというスタイルの男性。もうひとりは、煌びやかな純白ドレスを着込んだ女性。
「おや、あなたたちは?」
「どちらさまでしょう?」
殺気がまるでないのふたりだが、一応フラワシ使いの手が伸びているかもしれないので油断はせず。といって、こちらは不法侵入なので弁解をする健勝。
「すみません。怪しいものじゃないんであります。自分たちは、この島で起きた事件を調べているのでありますよ」
軽く会釈をすると、相手も頭を軽く下げ。
「それはそれは大変そうですね。僕はハルトマン。農業をしています。一応吸血鬼です」
「妻のベルリーナです。私は地球人で……ここへは最近嫁いできました」
レジーナはディテクトエビルを怠らないが、どうやら本当にただの一般人らしいのを感じ取り。
「勝手にお邪魔して迷惑をおかけしたことは謝ります。でも、迷惑ついでにすこしお話を聞かせていただけると嬉しいんですが」
「間宮林蔵という人は、いつからこの島にいるかわかりますか? 川口教授についてでも構いません。どういうことを調べていたかご存知ではありませんか?」
事情を聞かされたふたりは顔を見合わせ、というより見つめ合って。
「僕は地図について調べてたことしか知らないけど。ベルベルはどうかな?」
「私もよく知らないわ。私はハルハルのことしか興味ないんだもの」
なんだか仲むつまじいさまを見せつけはじめた。
健勝もレジーナも、見ているこっちが恥ずかしくなりそうなほどに。
「で、では、最近変わったことはなかったでありますか?」
「そうですね。なんだか急病で倒れる人が多いようです。ベルベルはなにか知ってる?」
「うーん。亡くなった人は、間宮さんと親しかった……かな?」
自信なさげではったが、レジーナはメモをとっておく。
「怖いね、ベルベル。キミにもしものことがあったら僕は……」
「安心して、ハルハル。たとえ何があっても、私たちは一緒よ」
これはべつにメモはしない。
健勝もいちゃいちゃなふたりのノリに頭が痛くなりそうだったが、話は聞けるうちに聞いておこうと質問を続けることにする。
「この島の領主がどんな人なのか教えてもらえるでありますか」
「名前はゲオルゲ。ゲオルゲ子爵です。あまり話したことはありませんが、とてもいい方です。心に秘めた熱い思いがある人ですよ」
「すこしとっつきにくい感じだけど、わたげうさぎたちには優しくて、島の人にも慕われてるわよ。もっとも、私にはハルハルがいるからあまり興味なかったけど」
「嬉しいな。僕もベルベル以外の女性なんて、まるで興味ないさ」
「嬉しいわ。ハルハル」
そしてふたりだけの世界に入りはじめ、もう邪魔しては悪いと健勝たちは家を後にした。
また別の民家では、清泉 北都(いずみ・ほくと)が聞き込みを行っていた。
「お爺さん、川口教授についてお聞きしたいんですけどぉ」
「は〜? あ〜。たしかに、ここの川の水は、キレイですね〜」
「いえ、だからですねぇ? 亡くなった川口教授が、何か話していませんでしたかぁ?」
「あ〜。はいはい〜、川にはよく洗濯に行ってますよ〜」
「あのぉ……川は、関係ないんですよぉ! 川口さん! 川口教授!」
「はい〜。ワシはこれでもまだ九十九歳ですよ〜」
北都は普段のんびりした口調で話すが、さすがに白寿の方ののんびりには負ける。
話を諦めて、外へ出ようとしたところで。
「あ〜。教授の川口太郎さんといや〜ここの主様に地図を見せて、なんかしらんが大目玉くらっとったな〜。そこまで酷い地図だったんかな〜」
「えっ。お爺さん、いま、なんていいましたぁ?」
「はい〜? ワシはまだ九十九歳だと言いましたよ〜」
「…………」
今度こそ諦めて、外へ出て待っていた北都のパートナーソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と合流する。
「どうだった? なんか収穫あったか」
「うぅん……この島に住む貴族の人は、地図を見て怒ってたらしいよぉ」
「ああ。あの、タシガンだけが描いてないやつか。たしかに吸血鬼からしたら大切な土地だからな。わからなくもないが」
ふたりも、一度間宮の家を訪れ。地図を見せて貰ってその違いに気づいたわけなのだが。
「でも、だからってそんな理由で殺したりしないよねぇ」
「そりゃそうだ。とにかく、住民に怪しいところはなさそうだし。その貴族に話を聞きに行ったほうが早そうだな」
「そういえば……ソーマはここの吸血鬼貴族のことは知ってるのぉ?」
「いや。俺も初耳だな。たぶん、俺が飛び出した後に貴族に名前を並べることになった奴じゃないか?」
喋りながら森の中を行くふたりだが。
話をしていても決して気を抜いてはおらず、北都は禁猟区で周囲への警戒をし、超感覚で注意を怠っていない。ソーマのほうもちゃんとディテクトエビルで気を張っている。
「あ、関係ないけど。川口教授って『浩』って名前じゃなかったみたいだねぇ」
「ふーん。さすがに人違いだったか……と、ここだな」
おかげで難なく、貴族の住む別荘へと辿り着いていた。
扉に呼び鈴がついていないので、ノックしてみる北都。
応答がなかったので、今度はソーマが強めにノックしてみたが反応ナシ。
「ソーマ」
「ああ、わかってる」
中から、なんとなく嫌な雰囲気を感じ取るふたり。
それでもここで回れ右をしていたらなんの為に来たのかわからないので、慎重に扉を押し開ける。入ってすぐのところにある扉から、特にその嫌な感じが強くしていた。
ふたりはどうするか顔を見合わせたが、頷きあって中へと飛び込む。
するとそこには、ブーメラン髭をたくわえた貴族の男が悠然とソファに座って、わたげうさぎを撫でている姿があった。
「おやおや、どうやらまた来客のようでございますな」
かなり渋めで低いその声は、どこか相手を威圧するものがあるように感じられる。
依然としていいようのない空気は漂ったままだが、北都は問いかけてみることにした。
「えっと。この島の吸血鬼貴族の方ですよねぇ?」
「いかにも。我輩はゲオルゲ。ゲオルゲ子爵でありますぞ。ん? そちらの方も、吸血鬼の貴族のようでございますね。どことなくそれらしい香りを感じますぞ」
「ええ、まあ」
ソーマは頷きながら、どうにも悪寒がしてならない。
いつでも逃げられるように態勢だけは整えておく。
「あの。実は僕たち、この地図についてお話を伺いたいんですけどぉ」
北都は、データ化して銃型HCに入力しておいた地図を見せる。
一秒後、男の顔色が変わった。
二秒後、ソーマは北都の手をとった。
三秒後、わたげうさぎがぴょんと跳ねた。
四秒後、ふたりは揃って部屋を逃げだした。
そして十秒後、ふたりは玄関先でうずくまっていた。
「うぅ……なん、だろぉ。身体が、焼けるように熱い……!」
「畜生、あの野郎……マジでヤバイ。てか、ヤバイのは俺らか」
一体なにをされたのかふたりにはわからなかった。急に身体が熱を帯びだして、おもうようにうごけなくなったのだ。
なにかの呪いかと北都は持ってきた塩をふり、ソーマはSPの続く限りナーシングとヒールをかけてやり。自分にはリジェネーションを使用しておく。
すこし楽にはなったが、しばらく身動きはとれそうもなかった。
「ごめん、花音さん。僕らはこれ以上……役にたてそうもないみたい。あの男には、気をつけ、てぇ……」
その花音はというと。
今はエメネアとふたりで別荘の二階廊下を走りまわっていた。
リフルがいなくなったあと、手分けして探すことにしたのである。美羽、ルカルカ、英虎たちは一緒にいないと危険だと言ってきていたが。バラけた方が効率がいいという理由で、強引に別れた。
実際、ふたりともかなり冷静さを欠いている。
襲ってきた相手が、どうやらここの執事らしいということで。そうなれば自然と別荘の主がすべての元凶ということになり。そんな場所で行方不明になれば安否が気にならないわけがなかった。
がむしゃらに奔走するふたりの前に、
「おや。あそこにいるのは」
「ああ。花音たちみたいだな」
対面通路を歩いてきた笹野 朔夜(ささの・さくや)と笹野 冬月(ささの・ふゆつき)が姿をみせた。
「エメネアさん、パートナー契約おめでとうございます♪ 素敵な方にめぐり会えて良かったですね♪」
「あ、うんありがとう……じゃなくて! 大変なんだよぉ。じつはかくかくしかじかでぇ」
「リフルさんが行方不明? そうですか、さっきの停電の時に……これは一大事ですね」
「でも、俺らはこの階ざっと見てきたけど。リフルどころか誰とも会わなかったぜ。バルコニーに飲みかけのワイングラスがあったから、人がいるのは確かなんだろうけどな」
冬月の言葉を聞いて、わずかに落ち込んでしまうふたり。
おそらく一階は必死に捜索していったのだろう。この別荘に三階はないので、どこかに隠し部屋かなにかでもあるのだろうということになるが。
ひとまず朔夜は殺気看破を使って、周りに敵さんの気配が無いか注意したところで、
「え!?」
いきなり背後にひっかかる気配がした。
即座に振り返ると、そこにはウサ耳をはやした鎧騎士がいた。
いや。そう見えただけで、正しくはわたげうさぎを兜のうえにのっけたゴーストイコンがいたのである。
「な、なんなんですか。この不自然すぎる組み合わせは……」
「そういえば、ここへ来る前に間宮の家にも寄ってきたんですけど。例の病気は、わたげうさぎについたダニにくわれると発症するらしいですよ」
花音たちへ教えている余裕だけはあるが、これはなんとも厄介だと朔夜はわかっていた。
ゴーストイコンの攻撃に注意していたら、ダニなんて小さなものは見落としてしまう。逆にダニのほうを注意していれば、どうなるかは明らかだ。
希望があるとすれば、こちらは四人。
そしてダニによる攻撃を行なうには、なにかしらのネタがあるらしいとも聞いていた。油断していなければなんとかなる……と思いたい朔夜だった。
「くる!」
ゴーストイコンは、器用に頭のわたげうさぎを振り落とさぬまま拳を振るってきた。
花音とエメネアを護るように朔夜が前に出て、それをさらに護る形で冬月が前に出て女王のバックラーで攻撃を防ぐ。
「ぐっ……なんつー重い一撃なんだよ。こんなの何発も受けてたら身がもたねぇな」
冬月は反撃に翼の剣でチェインスマイトをくらわせてみるが、固い鋼の身体にはさほど効果があるように見えない。
いきなり劣勢の状況だが、花音の目にさらなる追い討ちをかけるものが飛び込んできた。
「いけない! フラワシがそこにいます!」
この場にいるコンジュラーは花音ただひとり。
それゆえ、青白いフラワシに気づけたのは彼女だけだった。
しかし。指差して位置を示したのは致命的な失敗であった。
ほかの三人は、当然どこにいるのかわからないため、花音がどこを指しているのか見なければいけない。しかし最悪なことに花音がいたのは最後尾。当然、振り返らなければ指は見えない。
敵を前にして、わずかでも全員の注意を後ろに向けてしまった、その結果――
「痛っ!」
声をあげたのはエメネア。
首筋がチクリとし、反射的に手で叩いたが。時既に遅かった。
刺された箇所から全身に燃えるような熱さが伝わっていく。
「うっ、あ、あぅう……」
立っていることさえままならず、倒れそうになったところを花音に支えられた。
「そんな、嘘でしょう……」
しかしその花音も、危うく倒れてしまいそうになった。
「なにをしてるんですか、あたしは! 目の前で、仲間をふたりとも……!」
落ち着いて自分のストロー・ボブをさっさと出現させておけば、あのフラワシの接近を悟ることができた。そして、不用意な指示をしたせいで皆の集中力を欠いてしまった。
さらに、今も。
「花音さん! 危ない!!」
戦闘はまだ続いており。朔夜たちを強引に押しのけるようにして。
ゴーストイコンの鉄拳が、花音へと迫り――
「やっと見つけました、花音さん!」
突如走ってきた、パワードアーマーのセットを全身に装備した人物の飛竜の槍が、拳を刺すようにぶつかりあい。ゴーストイコンをわずかだけよろめかせた。
「なんだか、いきなりピンチみたいですけど。大丈夫ですか?」
現れたのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)。
彼女も花音の手助けに来たひとりだが、到着してみれば本人が取り乱している様子。
ここは自分がなんとかしなくてはと、すぅと息を吸い、声の限りに叫んだ。
「しっかりしてください! 私もお手伝いしますから。何なりとご命令を!」
必死な想いが伝わったのか、わずかだけ花音は目に生気を取り戻し、
「一旦逃げます! 活路を開いてください!」
「わかりました! それではいきます! 皆さん離れていてくださいね」
ロザリンドは飛竜の槍を振り回しながら通路を爆走しはじめ。
エメネアをお姫様だっこした花音、冬月、そして朔夜が後につづく。
追ってこようとしてゴーストイコンは、朔夜がナラカの蜘蛛糸を使って置物の銅像や壷を転がして足止めしていく。
しかし同時に侵入者迎撃用の罠が作動し、壁から矢やら鉄球やらが飛んでくるが。
「皆さん! 心配しないで突き進んでください!!」
それらはことごとくロザリンドが弾き、時には身体で受け止め、罠にはまりながらも止まらずに通路を駆け抜けていく。
そのまま階段を転がるように(実際ロザリンドは転がりながら)駆け下り。
近くの客間らしき部屋に飛び込んで。敵が追ってこないのを確認してから、ようやく一息ついた。
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