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リアクション
【6・ペットは飼い主を忘れない】
楽しい食事はそれこそあっというまに終了し。
屋台の片づけをする誠治とは別れ、花音たちは貴族の別荘めざして森を進んでいる。
先頭にいるセシリアはマッパーとしてきっちり地図製作に励みながら。
「うん。たぶんこっちであってるはずだよ」
「まぁ、間違っていたらそのときはそのときですぅ」
メイベルたちとどこかピクニック気分で笑いあっている。
その後ろにいるライゼは、対照的にかなり気を張っており。見えない敵の対策としてオートガードとオートバリアを使って全員の防御と魔防を引き上げていた。
しかも自分自身にはエンデュア&フォーティテュード&虹のタリスマンという、三重の完全防御姿勢をとっている。
「これでどこから敵がきても安全というものよね!」
「おいおい。油断は禁物だぜ」
そして。垂の言葉に反応するようにして、行く手を阻むものが現れた。
またしてもわたげうさぎたちである。しかも今度は、なんだか毛を逆立たせてこっちを睨んでいるように感じる。もっとも、睨んでいてもつぶらな瞳は健在なのだが。
「俺が眠らせたわたげうさぎたちとは、べつの連中みたいだな。どうする、また眠らせようか」
「でも。なんだか様子がヘンですよぉ。私がお話聞いてもいいですけどぉ」
垂とヘリシャからの提案に、どうしようかと顔を見合わせる花音特戦隊だったが。
「まって。ここは私たちに任せてもらえますかぁ?」
先に別の人物が森の中から顔を出した。
幸せの歌を歌いながら現れたのは咲夜 由宇(さくや・ゆう)と、そのパートナーであるアクア・アクア(あくあ・あくあ)だった。
「私のクラスはドルイドなんです。動物たちとの交渉ごとなら、力のみせどころですから!」
そう言いながら、気合いを入れつつ由宇は、わたげうさぎたちの前にしゃがみ。
「うさぎさん、うさぎさん、何故こんなことをするのですか?」
優しく問いかけると、キュゥー! と、力強いような、逆に健気で可愛いような声がかえってきた。
「か、かわいいのですっ、うちにきませんですかー?」
「あらあら、まったく。開始二秒であなたが飼い慣らされてどうするんですの」
抱きつこうとする由宇の襟首をひいて、うさえぎの噛みつきから助けてあげるアクア。
「あは、ごめんなさいですぅ。これから! これからが本番です」
「ふぅ。わたくしからひとつアドバイスですわ。ウサギでも食用ウサギとペット用ウサギがありますのよ?」
「え? なに、突然」
「わたげうさぎの様子を眺めていて気がついたんですわ。この子たちは、すべてペット用ウサギ……つまり、飼い慣らされているんですの」
「それって、つまり……誰かがうさぎさんたちを操っているってこと?」
「可能性としては、あると思いますわ」
由宇は、改めてわたげうさぎたちと向かい合い。
その鳴き声に耳を傾ける。怒りのなかに、どこか悲しいものが混じっている、そんな声色を感じ取った。
「わたげうさぎさんたち……私たちには、このさきへ行って欲しくないみたいです」
しかしそれを聞いて、はいそうですかというわけにはいかない。
むしろ全てはこの先に待っていることが、証明されたようなものだ。
皆の退けない空気を感じ取ったわたげうさぎたちは、一斉に飛び掛ってきた。
「っ、みなさん。きますわよ!」
「悲しいですけど、やるしかないんですか」
由宇は感情を切り替え、コウモリの超感覚で運動能力を向上させ。
フランベルジュ・ブラッドを構え、攻撃にうつろうとして。
「ダメですぅ!」
エメネアの叫びが耳に届いた。
それでも由宇は攻撃を止めなかった。が、振りかぶった剣を強引に舞踏の力で横向きに変えて振り回し。風の鎧の力も借りながら、風圧でうさぎたちを吹き飛ばした。
「うさぎさんたちはきっと悪くないんですぅ! 傷つけちゃいけませんっ!」
「エメネア! そんなこと言ってる場合じゃないわ。下手をしたら、またフラワシが現れて攻撃をされるかもしれないし」
「いまのところ、あたりにフラワシの姿はありませんけど。ここで足止めをされていては、らちがあきません。どうすれば……」
花音特戦隊が攻めあぐね。他の面々も、じりじりとにじりよってくる果敢なうさぎたちに押されていく。なんとかうまく突破できないか、と花音が考えたところで。
「リフルーっ!」
名を呼ぶ声がした。
突如、木々をぬって飛んできたそれは。小型飛空艇アルバトロスに乗った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、光る箒にまたがるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の姿だった。
「飛び乗ってぇ――!!」
うさぎたちの群れを突破しながら、美羽は手を伸ばす。
迷っている暇はなく、すれ違いざまにリフルは美羽の手をとり。花音はエメネアを抱え上げながら後部座席へと飛び込んだ。
そのまま一気にうさぎたちが後ろの景色になっていく中、垂とライゼ、由宇とアクア、メイベルたちが阻むように動いてくれていたのがはっきりと見えた。
こうして花音特戦隊が森の中を疾走している頃。
エメネアと瓜二つの容姿をした立川 るる(たちかわ・るる)も、レビテートで浮遊しながら、森の木々の間を縫うようにして移動していた。これなら草木もうさぎも気にせず進めるわけなのだが。
なめらかなその動きとは反対に、表情はすこし固く、怒りを帯びていた。
どうやら救援要請に書かれていた、エメネアが地図を注視していないことが気になっているらしい。
「まったく。ダーツを探しに行ったら地図があった。ダーツと地図。つまり……地図に向かってダーツを投げて、刺さった場所へ旅しなきゃいけないってことなんだよ!」
その怒りの方向性はなんかズレていたのだが。
ともあれ、地図はエメネア達が持っているならとりあえず安心だと考え。るるは単身、兎島の所有者が住む貴族の別荘へ向かっていた。
じっさい、いま地図は花音特戦隊の手元にはないのだが。当然るるはそれを知らない。
「あ、きっとここだよね」
やがて島の中央にある、ひときわ大きな館に到着した。
イメージとしてはなんとなく、蝙蝠が飛び交うようなおどろおどろしい漆黒の城みたいなものを思い浮かべていたるるだが。
想像とはほぼ対極にあるような、小鳥がさえずり壁も綺麗に磨かれた白い洋館が目の前にはあった。なんとなく吸血鬼らしくない外観なのが気になったが、細かいことは置いとくことにして。
るるは、さっそく扉に手をかけた。当然のように閉まっていて開かない。
軽くノックをしてみたが返事はない。使用人が五十人くらい寝泊りできそうな洋館なのに、どうして誰も出てこないのだろうかと新たな疑問が生まれたが。
「お留守なら、それはそれでありがたいんだよね♪」
何の迷いもなくピッキングで鍵をこじ開けはじめる。
金箔の豪華な鍵穴だったが、セキュリティとしては庶民以下だったらしくあっさりと開いた。
「おじゃましまーす」
入ると、広いホールに赤い絨毯が目に飛び込んできた。
しかし相変わらず人はいない。さすがに不安がよぎるものの、るるはトレジャーセンスでダーツがどこにあるかを探り。その勘に頼りながらすぐ傍の部屋を覗いてみると、
応接間のようで木造のテーブルとソファ、そしてレンガの暖炉が目についた。
暖炉に火は入っていない。熱を帯びてもいないところをみると、今まで誰かここにいたということもなさそうだった。それを確認ののち暖炉の上に目をやった。
弓矢やライフル銃が飾られており、個人的な趣味なのか火縄銃まであった。狩りの道具が揃っているのでダーツもあるのではと、るるは期待に胸をふくらませるものの。
それらしいものは見当たらない。ただ、トレジャーセンスはこの部屋に反応している。
「このライフル銃とかも、そこまで骨董品じゃなさそうだし……なにかありそうなんだけど」
首をかしげながら、るるは暖炉そばの壁に手をついた。
「え?」
直後、どんでんがえしになっていた壁に、るるは吸い込まれた。
それから少し後に国頭 武尊(くにがみ・たける)も、この別荘へとやってきた。
「そもそもブライドオブシリーズを独占しようなんて狡いにもほどがあるぜ。そんな暴挙はこのオレがさせないっての」
ブライド・オブ・ダーツがあるなら、やはりここだろうということでさっそく扉に手をかける。あっさり開いたうえに、誰もいないようなのでやけに無用心だなと逆に警戒しつつ。
トレジャーセンスを使いながら中の探索にあたることにして、反応のある暖炉の部屋へと足を踏み入れる。
「さて、と。ここからそれらしい感じがするんだが……」
同じ光条兵器の使い手として、強化光条兵器の放つオーラのようなものをビシビシと感じ取る武尊なのだが。それと同じくらい、この部屋には殺気看破にひっかかる気配がビシビシしていた。
(まさか、本当にフラワシ使いってのがいるのか?)
その相手に気取られないよう、なにげなく部屋を見ている振りをする武尊。
殺気は暖炉近くからしているようなので、壁をじぃと凝視してみれば。わずかに隙間があるようだった。
気を抜かぬまま、ゆっくりと近づいた。
直後。
灰色の人影が、壁から飛び出してきた。
「みえみえなんだよ、バカが!」
だが武尊は慌てることなく先制攻撃を用いて。しかもスナイプ補正を付けたアーミーショットガンをカウンター気味にぶちかましてやった。
至近距離からの即効ヘッドショット。これで一気に仕留めた……かに思われたが。
「なに!?」
目の前の灰色の影は、頭部の兜をわずかに凹ませただけだった。
センチネルをそのまま人型にまで縮めたような、鎧騎士。その正体は――
「ゴーストイコン、だと!? なんでこんなやつが、こんな場所に!」
フラワシによって操ることができるというのは知っていても、いきなり対することになっては驚くなというほうが無理というもので。それがわずかに隙となり。
振るわれた鋼の拳が、武尊を容赦なく床へと叩きつけた。
女王の加護をかけておいたおかげで、なんとか軽傷で済んだが。それでもなおすぐに身体が動いてくれぬほどの痛みが全身を走り。
そのままゴーストイコンに担ぎ上げられ、武尊もまた壁の向こう側へと連れられていった。
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