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リアクション
第六章 ブティック・パニック!?
さて。
先ほど、軟体アリの部隊を一つ壊滅させたのと引き換えに、服を失うこととなったロザリンド。
彼女はテレサとともに、軟体アリのいなくなった辺りの施設を探索していた。
……と言っても、彼女たちが探しているのは問題のプリントシール機ではない。
それよりなにより、まず彼女が見つける必要があったのは、今身に着けられる替えの衣服だったのである。
「ねえ、先にプリントシール機見つけちゃったらどうする? 記念にそのまま撮る?」
「な、そ、そんなこと!」
テレサの軽口に、耳まで真っ赤になるロザリンド。
戦闘中はそれどころではなかったのだが、落ち着いてみると、やはりこんな恰好でうろうろするなど、とんでもない話である。
「とにかく、他の皆さんに見つかる前に、服のありそうな所を見つけませんと……」
アリに会うのもまずいが、人に会うのもまずい。
極限まで神経を尖らせて、あちらこちらの施設を探索し。
ついに、二人は目的の場所を見つけることに成功したのだった……が。
何ということか、せっかく見つけた女性向けの衣料品店とおぼしき場所には、予想だにしなかった先客がいた。
「うむ、間違いない。俺の第六感、トレジャーセンスがビンビンに反応している!」
国頭 武尊(くにがみ・たける)である。
「ななななんで人が、よりにもよって男性がこんなところに!?」
「さあ。プリントシール機でも探してるんじゃないの?」
「そ、そうですわよね。それならすぐに出て行くはず……」
施設の前の物陰に潜みつつ、ひそひそとそんなことを話し合う二人だったが、事態は二人の思うようにはいかなかった。
なぜなら、武尊が探しているのはプリントシール機などではなく、「ニルヴァーナ製のパンツ(むろん女性用)」だったからである。
さすがは「ぱんつハンター」、その行動に一切のブレがない。
「しかしこの倉庫、どう開けるんだ……パラミタの技術とも違ってよくわからんな」
ニルヴァーナ製パンツとご対面の前に、ニルヴァーナ製の鍵の堅牢さを思い知らされ、若干イライラしてくる武尊。
そして、その武尊がなかなか出て行こうとしないことに物陰でイライラしているロザリンド。
服だけなら一応見える所にもあるにはあるので、行ってとってくることもできなくはないのだが……こんな姿で男性の、それもかなり怪しげな行動をとっている男性の前に出て行くなどリスクがあまりにも高すぎる。
そして、気が動転しているので「テレサに行ってもらう」という発想も出てこないし、テレサはテレサでこの状況を面白がっているので気づいても言わない。
「ええい、ったく。せっかくのお宝目の前にして引き返せるか、っての」
そんなことをぼやきながら、武尊はなおも鍵との格闘を続け……。
「何やってんの?」
そんな武尊に声をかけたのは、テレサではなくろざりぃぬであった。
「うおおっ!? い、いや、この中に何かありそうな気がするんだが、鍵が開かなくてだな!」
驚きつつも事情を説明する武尊に、ろざりぃぬはちらりと倉庫の扉の方を見た。
「私もこの中身に用事があるんだけど……よし、ここは魔法少女ろざりぃぬに任せなさい!」
自信満々に言い切ったろざりぃぬだが、見た所彼女に鍵開けの心得があるとも思えない。
では、彼女はいかにしてこの扉を開けるつもりなのか?
正解は、こうだ。
「マジカル☆逆水平チョップ!」
斜め30度くらいからの、振り下ろすような逆水平が綺麗に倉庫の扉に決まり。
何かが壊れる音とともに、倉庫の扉が開いたのだった。
高度な機晶技術を用いて作られた、ニルヴァーナ製の鍵。
しかしやっぱり機械は機械、困ったときは叩けば動く……ことも、まあ、稀にあるのである。
「ふふん。やっぱり地上やパラミタとはちょっとセンスが違うよねー。何かいいのあるかな?」
そんなことを言いながら、ちょうどいいコスチュームがないかと物色し始めるろざりぃぬ。
一方の武尊はというと、まさか女性の見ている前で女性もののパンツを荷物に押し込むわけにもいかず、とりあえずろざりぃぬが早く用事を済ませてくれるのを待っている。
そしてもちろん、ロザリンドはその武尊が早く用事を済ませて出て行ってくれるのを待っているのである。
「よし、これなんかいいかな?」
そう言いながら、ろざりぃぬが青と白を基調としたそれっぽいコスチュームを確保し、店内の試着室へと向かう。
「万一覗いたりしたらマジカル☆顔面ウォッシュの刑ね?」
武尊にそう釘を刺して、ろざりぃぬが試着室のカーテンを閉めたその瞬間、武尊は直ちに行動を開始した。
倉庫の中の様子は、すでにろざりぃぬがあれこれ物色している間に全てチェックしてある。
当然、目的のブツの在処もしっかりインプット済みだ。
故に、彼が目的のものをありったけ荷物に押し込むまで、ものの数十秒とかからなかった。
「よし、作戦終了だ!」
こうなればもはや彼にこの場に長居する理由はなく、彼は素早く衣料品店の外へ飛び出した。
「あ、ロザリー! 今がチャンスや!」
「は、はい!」
武尊の姿が見えなくなった瞬間、ロザリンドは衣料品店に駆け込んだ。
そして、倉庫に飛び込もうとした瞬間。
試着室のカーテンが勢いよく開き、ビシッとポーズを決めたろざりぃぬが飛び出してきたのだった。
「ひっ!?」
「キラッ☆ 新生ろざりぃぬ参上……って、あれ?」
驚いてその場に尻餅をついてしまった下着姿のロザリンドと、ついさっき助けに入ったつもりで逆に助けられた相手に再会してしまったろざりぃぬ。
「あ……あははははは……」
もちろん、壮絶に気まずい空気が店内を支配したことは言うまでもない。
ちなみにその後、ロザリンドはちゃんと「地上やパラミタの感覚にわりと近い感じの服」をちゃんと確保できたのであった。めでたしめでたし。