薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

リアクション公開中!

【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

リアクション


第七章 撮ろう! 「ニルヴァーナ来た」! 2

 とまあ、そんなわけで。
「よし、直ったぞ」
 プリントシール機の電源が入った頃には、すでにほぼ全員が戻ってきていた。
「そ、それじゃ、撮らせていただくっス!」
 プリントシール機で遊びたい面々も多いのだが、やはり事情が事情であるから、良雄が一番最初である。
 ところが、最初にプリントシール機を使えることになったものの、これは良雄にとっては完全に未知の機械であった。
 その上、画面表示までニルヴァーナ語ではさっぱり何がなんだかわからない。
「ど、どうすればいいんスか……!?」
「安心しろ、機能や操作方法は地上のものとそう変わりない」
 その「地上のもの」がわからないから聞いているのだが、相変わらずゲルバッキーの答えはこういう時に何の役にも立たない。
 まさに絶体絶命……そう思った時、救いの女神は現れた。
「どうしたの? 良雄くん」
 カーテンを開けて入ってきたのは、るるだった。
「る、るるさんっ!?」
 驚く良雄に、るるはくすりと微笑んだ。
「あ、良雄くんプリ撮ったことないんでしょ?
 操作方法とかわからないなら、るるがやってあげるね」
 地獄で仏、いや、地獄から天国である。
「まずはコインを……あれ? これってパラミタのでいいの?」
 るるが外のゲルバッキーに尋ねると、ゲルバッキーは首を横に振った。
「いや、ここのコインが必要だろう。確かさっき彼が相当膨らんだコインケースを拾っていたと思うが」
 ゲルバッキーの指す「彼」とは、もちろんヴァルベリトのことである。
「う゛ぁる! さっきの出して!」
「は? あれはオレが見つけたんだ……」
 葛の言葉に最初は抵抗しようとしたヴァルベリトだったが、その声は尻すぼみに小さくなる。
 隣でダイアが恐い顔をして睨んでいたし……他の面々、特にパラ実モヒカン組の皆さんからも無言のプレッシャーがかかってきていたからである。
「わーったよ!」
 コインケースを風呂敷から出してゲルバッキーに押しつけると、ゲルバッキーはその中から器用に一枚のコインを取り出し、中のるるに手渡した。
「ありがとう。じゃ、コインを入れて、まずはモード選択、っと。良雄くんなら顔撮りモードより全身モードの方がいいかな?」
 そう言えば、NPCのイラストは全部全身イラストが基本で、バストアップにはその切り抜きが……って、いやいや何の話ですか。
「慣れてないみたいだから、撮影回数は多めがいいかな。撮影人数は1〜2人、っと」
 軽快に操作を進めて行くるる。
 彼女に素でニルヴァーナ語が読めるはずはないのだが、どうやら本当に地上のものとほとんど変わらないらしい。
「混乱しちゃうかもしれないし、使うのは正面カメラだけにして……照明は絶対美白最強モードだよね!」
 もう少し、せめてもう少し悩んでくれたらいいのに。
 そうすれば、もっと長くこの横顔を見ていられるのに。
 状況を考えればそれどころではないはずなのだが、良雄はそう思わずにはいられなかったが……逆に考えれば、この操作が終われば、記念撮影ができるのだ。 
「あとは撮るだけ。良雄くん、ここがカメラだよ」
「は、はいっス」
「『3、2、1』……ってニルヴァーナ語で何て言うのか知らないけど、とにかく何度か撮るから、ばっちりポーズしてね」
 そう、あとは撮るだけ。
 ということは……やはり、二人で一緒に?
(き、ききき……キターーーーーーーーーーっス!!)
 地獄から天国、そして今、さらにその上へ。
 期待と感動と興奮ではち切れそうになる良雄であった……が。

 ……そううまくいくと思ったか?

「じゃあ、がんばって!」
 それだけ言うと、るるは素早くプリントシール機の外に出て、カーテンを閉めてしまった。
「……え?」
 るるの出て行ったカーテンの方を見たまま、呆然としている良雄。
 その横顔が、見事に一枚目として撮影されてしまったのであった。

「久しぶりにやってみて、ちょっと楽しかった。るるも撮ってみようかなぁ」
 これはまさかのセカンドチャンス到来!?
 勇気を振り絞って誘えばあるいは……と思う間もなく、そのかすかな期待は次の一言で打ち砕かれる。
「あ、でも一緒にじゃなくていいよ。それだと良雄くんの写真じゃなくて、るるの写真になっちゃうし」
 その言葉に呆然としている間に、さらにもう一度シャッターが切られる。
 呆然とする自分の横顔を、立て続けに二度も画面で確認させられた良雄の心境は察するに余りある。

 もちろん、残りの撮影で「一応」ちゃんとしたものを撮影することができた良雄であったが、地獄から天国、そしてさらにその先へ、と思った矢先で二度もハシゴを外されたショックからか、結局なんだか泣き笑いのような表情になってしまったのだった。