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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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 巨大イレイザーの核を破壊する前に、何らかのコントロールが行えないかと考えた契約者たちは、破壊メンバーに先んじてイレイザーの核が設置された部屋へと入った。ギフト獲得をしよう、あるいは足止めしようという契約者たちがギフトやアヴァターラと戦いけん制し、紅月とレオンがファイアストームで防護壁を築いたため、ヘビ型ギフトのいる部屋は難なく通り抜けることができるようになっていた。
 核の設置された部屋はがらんとした広い空間で、今まで通ってきた機械的なだけの空間ではなく、奇妙に生体と機械とが入り混じったような独特の風合いを持っていた。その中心部に、1メートル近い大きさの、濁った多面体の水晶のような物体が、機械とも細胞ともつかない台座に乗っており、脈動を思わせる明滅を繰り返している。台座部分から床に、カベに、細い青緑の光が、幾筋も水晶の明滅にあわせて脈打ちながら流れていた。御凪 真人(みなぎ・まこと)はゆっくりと室内を見回した。セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がため息をついて言う。
「あれで倒せないなんてホントに化け物よね……」
セルファと御凪の脳裏に、先日のこのイレイザーの頭部への、無謀とも言うべき攻撃がよぎる。
「無茶しないでくださいよ……?」
「判ってる。あんな無茶はそうそうしないわよ。ま、無茶を通す所なら躊躇はしないけどね」
御凪がふうっとため息をつく。
「これが移動要塞だったとはなぁ……。」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)が核を見つめて言った。
道中彼女は殺気看破、行動予測を使い危険を避けながら進んできた。消耗してしまっては最深部にたどり着いたとき、適切な行動を取りづらくなるからだ。垂はこの核がなんらかの特別な力を持っている可能性があると考えていた。それゆえ出来るだけ傷を付けないよう、核をを持ち帰り調査を行いたいというのが彼女の意図であったのだ。御凪が垂の方を向いて言った。
「頭部を破壊しても生きているとは完全に誤算でした。……しかし、ここまで来ると生物と言うより兵器ですね。
 コイツとの決着も着けたいですが、可能な限りの情報を収集しておくのも一つの手だと思います。
 俺達はまだイレイザーについて知らなさ過ぎますからね」
「だろう? 核を制御できないか試す価値はあると思うんだ」
垂が賛意を示した。
「やらなければ答は分かりませんしね」
朝霧 栞(あさぎり・しおり)が言う。ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)が頷いた。
「これを制御出来れば、今後の調査や対ブラッディ・ディバイン戦でも巨大イレイザーは十分な働きをしてくれるでしょう。
 イレイザーそのものを調査隊の為に利用すべきだと思うのよ。
 そのためにも学校間のしがらみは一時棚上げにして、相互の情報共有をきちんとすべきだと思う」
ザウザリウスは浦安本人とその所持品にサイコメトリを使い、通信連絡が入る前にいち早くヘビ型ギフトの部屋手前まで来ていた。彼女はジャジラッドからなんとしても核破壊を止めるよう説得しろと言い渡されていたのだ。
「イレイザーの制御を司るか、こちらに有利なように書き換えることが出来れば……。
 そもそも敵地のど真ん中で回復活動に入っていると言う事は、イレイザーにとっての緊急事態と考えていいと思います。
もう少し、動ける余裕があるなら安全圏まで逃げるはずですからね。その辺に付け入る隙があるかもしれません」
御凪が言った。
「向こうでギフトとアヴァターラは抑えてくれていると思うけど……。
 かいくぐって邪魔しに来るようだったらソードプレイと疾風突きで迎撃するから、思う存分調べて頂戴」
セルファがそう言って御凪の背後をカバーする形を取った。垂がじっと水晶を見つめた。
「まず、サイコメトリでどんな僅かな物でも良いので、情報の入手を試してみる」
「私も同じく、アプローチしてみる。同時に行えば、混乱させることもできるかもしれないし」
ザウザリアスが言って、垂とともに水晶に手を触れた。その瞬間。パチっと言うような音とともに、2人は水晶から弾き飛ばされ、床に転がった。
「大丈夫か?」
御凪がが声をかけるが、2人はほうけたような表情でぼうっとしたまま動かない。
「命に別状はなさそうね。少ししたら正気に戻ると思う。何かの自衛システムがあるのかしら……」
セルファが2人をそっと傍の壁にもたせ掛けた。
栞が超知性体での情報通信を試みる。
「……ダメ。読み取れない。あまりに形式が違いすぎる。……これならどうだ」
魔力と、銃型HCを使用して情報攪乱を仕掛ける。
「……だめだ。既存の知識にあるようなパターンが何もない。ハッキングの手がかりすらない」
困惑した栞が首を振った、そのときだ。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)
これなる巨大イレイザーを自由にコントロールできるようになれば、我らオリュンポスの移動要塞として活用できる!
これは、誰にも渡すわけにはいかーーーーん!」
ハデスは首が無くとも各機能が生きているということは、体内にも脳に相当する部位があり、それこそが核であると結論付け、こっそりと他の契約者たちに紛れ、ここまで到達したのであった。その場にいた全員――先ほど吹き飛ばされた2人もようやく正気づいていた――が、あまりの展開に呆然とハデスを見つめた。
「というわけで、邪魔な諸君にはご退場願おう! さあ行け、我が部下たちよ!」
ハデスの背後に控えていたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)がハデスの前に飛び出し、、契約者たちの方へ向かい大剣を構えた。野生の勘、エンデュア、ディフェンスシフト、龍鱗化、護国の聖域と、片っ端から防御スキルを繰り出し、背後のハデスを守るように契約者たちを睥睨する。
「承知しました、ハデス様。我らオリュンポスがイレイザーを手に入れるため、契約者たちを撃退します!」
抜け目無く行動予測で契約者たちの動きは読みつつ、ハデスは劇的な仕草で横を向き、アルテミスの体に隠れない位置に向かって両手を広げ、大音声で呼ばわった。
「秘密結社オリュンポスの秘密兵器を見るがいい!! そして震撼するがいい!!
 いでよ!俺が契約せし魔界の使者、悪魔怪人デメテールよ!」
ハデスの左手の甲にある契約の印が輝くと、派手な火花と煙幕とともに悪魔のデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が召喚された。
「……んー、あと五分ー」
悪魔・デメテールはパジャマ姿だった。ものすごく寝ぼけている感じだ。どうやら昼寝の真っ最中だったようだ。そちらに背を向けているアルテミスはそのことに気付いていない。
「ハデス様の命により、ここを通すわけにはいきません。
 デメテールさん、背中は任せます! オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」
叫ぶや、契約者たちをけん制する。デメテールはとろんとした目つきのまま、返事だけはした。
「うんー、わかったー。背中は任せてー。……むにゃむにゃ」
そしてそのまま、デメテールはあっけに取られた面々を尻目に、傍の壁にもたれて丸まると、そのまま再び夢の中に戻っていってしまった。
「……何しにでてきたんだ、お前は」
ハデスがぶつぶつとつぶやくが、その声もデメテールの様子も、アルテミスは気付いていない。
「おっと、危ないですね」
レーザーナギナタの逵龍丸でアルテミスの剣戟を受け止めたのは、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)だった。この先更に強力な敵が控えているというのに、イレイザー一匹ごときにあまり長く関わっていられないと考えた彼は、ブライトブレードドラゴンのフロイデに騎乗し龍飛翔突で一気に遺跡に突っ込み、とっとと核を破壊せんものと、ここまでやってきたのである。ガードラインと龍鱗化を施して、準備も万端だ。
「ちょこざいな! やってしまえっ!」
ハデスがわめく。
「承知いたしました、ハデス様! 必殺、斬魔剣!」
アルテミスが呼応し、シーリングランスを見舞った。
「おおっと!」
ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)がその直前、庇護者を発動させ、レリウスが素早く見切って避ける。ハイラルはすかさず弾幕援護で、アルテミスをその場に釘付けにした。
「デメテール! 援護を!」
アルテミスが叫ぶ。が、肝心のデメテールは夢の中だ。
そしてその直後、思いもかけないことが起こった。こっそりと退却しかけていたハデスはギフトの部屋に入った。が、すぐそこには激戦中のヘビ型ギフトがいたのである。ヘビ型ギフトは、ハデスを思いっきりシッポでなぎ払うと、ハデスガもといた方――つまり核の設置された部屋に勢い良くぶっ飛ばした。
「うああああああ……や……野望が……無念……」
ザザーッと滑って床の真ん中辺りに転がるハデス。
「ハ、ハデス様!!!!」
アルテミスは慌てて駆け寄った。どうやらハデスは全く動けないらしい。
ハイラルがしゃがみこんで診察する。
「あー、平気平気。マヒしてるだけだ。あと擦り傷な。たいしたことはない」
「そ、そうでしたか。ありがとうございますっ!!」
アルテミスが深々と一礼する。かくしてハデス博士の野望は潰えた。

 そして……ザウザリウスはパラ実に対しても比較的中立的な長曽禰に、この顛末を送信したのであった。