First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
■
ここで、準備の様子をのぞいてみよう。
まずは、玄関先――。
竹ぼうきを持った 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とマレーナが、真新しいエプロンをつけて掃き清めていた。
「ヒヨコ柄だね!」
美羽は2人のエプロンを指さす。
ふふっとマレーナは笑った。
「皆さん使うところですもの。
まずはここから、ですわね? 美羽さん」
そして、廊下。
掃除を終えて戻ると、共同台所には、すでに手伝い要員の者達が集まっていた。
親睦会に備えて、皆この日とばかりに腕をふるっている。
彼女に気づいた者達が、次々とにこやかに声をかけてきた。
「マレーナさん、初めまして」
彼等の1人。
志方 綾乃(しかた・あやの)は駆け寄ると、エプロンを外して一礼した。
「あら、あなたは初顔ですわね? 手続きもまだでしたような……」
「ええ、直接ここへ。
まだ私は、ここに住む権利はありませんから」
「それは、どういう意味ですの?」
マレーナはやや困惑した様子で、小首を傾げる。
「下宿生になるのは、きちんと謝ってから。
マレーナさんの傍に置いて頂く。
そう決めているんです! 私」
だって、タイトルからして「マレーナさんと僕(しもべ)」ですもの♪
そうして彼女はフマナでの出来事を話した。
「では、あなたはあの時、戦いを止めるために反対されたのですね?」
マレーナは真摯に彼女の話に耳を傾ける。
「許されないことくらい承知しています!
成り行きとはいえ、あなたの御主人さまを見殺しにしたことに……っ!!」
「いいえ、とても立派な心がけですわ。
ドージェ様も、そのことをお望みでありましたことでしょうし……」
ふと、遠い目を向ける。
だがゆっくりと頭を振ると、淡く微笑をして。
「私に、わだかまりはありません。過去は水に流すもの……。
それより綾乃さんの気のすむまで、私の傍で下宿生達のお世話をお願い出来れば、嬉しいですわ」
「あ、ありがとうございます!」
綾乃は慌てて頭を下げる。
「あ、あの、マレーナさん!
もうひとつだけ!!」
足を止めて、マレーナが振り返る。
「あの時、ドージェさんとあなたは……、
何を望んでユグドラシルを目指していたのです?」
「あれは、新婚旅行……というところでしたわ。
叶いませんでしたけれど」
寂しく微笑んで、会釈しつつ去って行く。
火にかけたヤカンが、音を立てる。
呆けていた綾乃は我に返ると、エプロンを付けてリボン結びをきつく結ぶのだった。
「さ! これからが本番!
張り切って頑張らなくっちゃです!」
「久しぶりだな、マレーナ」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は軽く会釈した。
手に割れた皿――修繕をしているようだ。
マレーナは、思わぬ知己の出現に軽く目を見張ったが。
「フマナでの件はお礼の述べようもございませんわ」
両眼を細めた。
「あなたがあの時、飛空艇を差し向けなければ、私はここで管理人としての幸せを得ることも無かったでしょうし……」
「マレーナ……」
グレンは当時を思い返したのか、視線を落とす。
「あなた達も、来て下さったのですね? 嬉しいですわ」
「マレーナさん!」
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)とリ ナタは慌てて一礼する。
「ここへは受験で?」
「いいえ、その、出来れば『お手伝い』で……」
マレーナの顔をおずおずとしてソニアは見上げた。
愛するグレンのために、花嫁修業をしたい! そう言いたかったのだが。
第1に、マレーナが了承してくれるとは限らなかったし。
第2に、当のグレンが傍にいては、言い出しにくいことこの上ない。
ナタは、頭をかくと。
「ええーとな、マレーナ。
ソニアはマレーナの傍で、花嫁修業がしたいんだって!」
ぼそっと口添えした。
「何たって、『憧れのマレーナさん』だしな!!」
「まあ! ナタクってば!」
ソニアは顔を真っ赤にして、だが否定はしない。
「そういった次第で、まずは『料理』から習いたいんだと」
「ご迷惑でしょうか?」
ソニアは両手を組んで、心配そうにマレーナを見上げる。
マレーナは淡く微笑むと、けれどと付け足して。
「私は、残念ながら『料理』はそれほど得意ではないのですわ。
ドージェ様との日々の中、荒野をさすらう日々においては『家事』などは瑣末なこと。
ですから、一緒に覚えていきましょう」
「マレーナさん!」
ソニアは感激のあまり涙ぐむ。
マレーナに幾度も頭を下げるのであった。
ナタはソニアの背をポンッとたたく。
「よかったなぁ、ソニア。
じゃ、俺は皿洗いでも手伝うか。
ソニアにこれ以上皿を壊されちゃ、たまったもんじゃねぇしな!」
フィリア・グレモリー(ふぃりあ・ぐれもりー)はたどたどしい手つきで、包丁を持っていた。
下ごしらえをしたいらしいが、病のうえに、目が見えない。
「フィリアさんには、無理だと思うが……」
にわか料理長の邦彦が付き添うが、巧く行かない。
そこへマレーナがやってきた。
「大丈夫、力を抜いて。
頑張りましょう! フィリアさん」
背後から、マレーナがスッとフィリアの手を握る。
そうして道具を扱い、一緒に料理を作るつもりらしい。
「それで、これの先どうしたらよろしくて?
邦彦さん」
「はぁ、まずは材料を切るところから、だな」
しかし、その手つきは非常に危なっかしい。
邦彦が叫んで、フィリアの手を切り損ねたことが、幾度もあったとか。
しかし当のフィリアは目が見えないために、邦彦の余興と勘違いしたようだ。
「マレーナ様にも、苦手なものがあったのですね?」
うふふ、とフィリアが笑った。
「でも『筋はいい』みたいですし。
これからも一緒に料理修業励みましょうね!! ヒャッハァー♪」
邦彦が顔を青くしたことは言うまでもない……。
フィリアとの料理修業は続く――。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last