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リアクション
脱獄計画
「ふーん、ここの錠前は古くて錆付いている、と」
国頭 武尊(くにがみ・たける)は、ブラキオの愛人から女囚刑務所についての情報収集を行なっていた。
何と言っても、パンツ番長の二つ名で有名なS級四天王。パラ実生の愛人は、武尊に女囚刑務所について知っている事を惜しみなく話した。
特に抜け目のない愛人は、武尊にも媚を売っておこうと接待ぱんつまでプレゼントしてくる。
(刑務所のドンのブラキオなら、もっと詳しく知ってるかもしんねぇが……変なデク人形を拝んでるような奴とは必要以上に関わりたくねぇからな)
ぬぎたてぱんつを頭にかぶりながら、武尊はそう考える。もしブラキオが知ったら、まるまる言葉を返しそうだ。
なお武尊は、愛人のうちドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)は野心がありそうで、ブラキオにチクられそうな気がしたので、話を聞くのはやめておいた。アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)は人形の知り合いなどと発言しているので、ブラキオ同様に関わるのはやめておく。
運動場。男女の刑務所を分ける金網のもとに、武尊と南 鮪(みなみ・まぐろ)、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が集まる。今回はさらに他のメンツもいる。
ナガンの舎弟から、彼らがカリアッハに興味を持っていると聞いたサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)だ。サルガタナスはカリアッハが収監された特別房内部の構造を教える。しかし武尊は
「教えてくれんのはありがてぇが、所長と交渉して『暴動を起こされたくなけりゃカリアッハに会わせろ』っつうから、んな細かいこたいいんじゃねぇか?」
武尊の言葉に、サルガタナスは反論する。
「今は刑務所内の警備や、カリアッハ周辺にも腕利きのロイヤルガードがウロついていますのよ。所長だって外聞を気にした対応をするでしょうし、暴動の危険ありとして警備が厚くなるだけではありませんか!」
サルガタナスとしては暴動を起こして欲しいので、熱心に説得する。
「カリアッハの所までは、わたくしとナガンさんの舎弟でご案内いたしますわ」
刑務所に夕刻が近づいてくる。
独房に納められた武尊は、看守が他の囚人を独房に追いたてにいったのを確認し、「物質化・非物質化」で所内に持ち込んでいた日曜大工セットを開ける。工具を使って造作なく独房を出ると、そのまま鮪の独房に行って、そちらも開ける。
そこにドルンドルンと普段に比べると小さい音を立ててハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)が合流してくる。
ハーリーは梱包材のプチプチでヒマな看守を買収し、物置の柱に自転車用のチェーンで繋がれるだけに減免させていた。今はチェーンをぶっち切って、駆けつけたのだ。
運動場。
「おらおら、とっとと自分のねぐらに帰るんだ!」
鬼看守ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)はのろのろと歩く囚人を、牢の方へ追いたてている。
そこに突然、歓声や雄たけびをあげて、多数の囚人がなだれこんでくる。武尊やナガンの舎弟と、それに呼応した囚人たちだ。
ほとんど無手とはいえ、中には工具や食器を振り回す者もいる。
ジェイコブは容赦なく特殊警棒を振り回して、立ち向かう、と言うよりもボコボコにブチのめす。
「暴動を起こすとは身の程知らずが!」
しかし、そこに大型バイクに乗ったモヒカンが突っ込んでくる。
「ヒャッハ〜! 秘宝(五千年モノぱんつ)はもらってくぜ〜!」
ハーリーにまたがる鮪は、ジェイコブに突っこむ。身体機能がまるで違う。ジェイコブはバイク型機晶姫にはねられた。
転がったジェイコブに、囚人たちが襲いかかる。
ジェイコブも契約者とはいえ、運動が得意な非契約者程度の強さだ。
「なんだ、こいつ、弱ぇじゃねえか!」
「偉ぶりやがって!」
囚人たちはジェコブをボコボコに叩きのめす。
鮪はそれにかまわず、運動場の金網へと突進する。その頃には、武尊が工具で金網をほぼ破壊している。ハーリーが突っこむと、金網には大穴が開き、そこから舎弟や便乗して騒ぐ囚人が女囚刑務所側になだれこむ。
サルガタナスに協力するブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)なども、騒ぎを大きくしようと他の囚人を煽っている。
刑務所に警報が鳴り響き、看守が大騒ぎになっている運動場へと集まっていく。
女囚刑務所の裏手。ナガンが扉から顔を出し、手招きする。騒ぐだけ騒いだ後、その騒ぎからそっと外れていた武尊と鮪が素早く建物内にすべりこんだ。鮪は自分や武尊に土や泥を塗りたくって、簡易の迷彩塗装として、より影に溶け込むようにしていた。
なおハーリーは、今も盛大に爆音を立てて運動場を走り回り、騒動をより大きくしようとけしかけている。
「ドルルン! ドルン!ドルン!ドルン!(ここはP−KOの別荘だぜ! RAKE!RAKE!RAKE!)
カリアッハのいる特別房までは、ナガンにメロメロな女囚が鍵開け等して道を開けている。特別房前では、すでに来ていたサルガタナスが待っていた。
「ここのロイヤルガードも応援に出ていきましたわ。ただ鍵が古王国製で……」
「ああぁん? こんなもの、チョメチョメチョメっと……」
鮪はモヒカンからはちょっと想像できない鮮やかで繊細な手つきで、古王国製の難解な魔道錠を解除する。
「ヒャッハァ〜! ここにパラミタで一番のお宝があるって聞いてやってきたぜ!」
鮪は扉を蹴りつけ、牢内に押し入った。
本人も思う通り、このシチュエーションだけなら恋愛ドラマのワンシーンである。
しかし
「カリアッハさまに手出しはさせません!」
唯一、牢内に残っていた真口 悠希(まぐち・ゆき)が、ウルクの剣を構えて彼らの前に立ちふさがった。
鮪が悠希と戦う間に、サルガタナスは見よう見まねで壁の石仮面に命じる。
「カリアッハの全封印を今すぐ解きなさい」
石仮面は封印を外しはじめるが、いちいち安全確認がどうの、最終確認がどうのと、作業速度は鈍い。
「国頭ィ〜パンツは今回は譲ってやるぜ」
鮪は悠希の攻撃を避けながら、カリアッハの封印帯を引きちぎろうと悪戦苦闘している武尊に怒鳴る。
その言葉とメンツに、悠希は呆れと怒りを禁じえない。
「まさかカリアッハさまのパンツを?! そんなもの、どうしようっていうんですか?!」
「なぜパンツを狙うのか、だと? そこにパンツがあるからさ!」
武尊は言い切り、封印帯でグルグル巻きになったカリアッハから下着を抜きとろうとしている。
背後を見張っていたナガンが、彼らに声をかける。
「ロイガが来たけど、一緒に遊んでくれる感じじゃない〜」
悠希から異常事態発生の報を受けて、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)、樹月 刀真(きづき・とうま)、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が駆けつけてきた。クレアは看守数人も連れてきている。
ようやく口かせが外れたカリアッハが、けたたましくわめき始める。
「早く外せよ! 外して殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ」
「今、外していますわ」
「ちっ、うるせー中身だな!」
サルガタナスと武尊はその間も、封印帯を引きちぎり、カリアッハから外そうとするが、帯の魔力と耐性は強力でなかなか思い通りに進まない。
武尊は指先に全神経、全身全霊を集中させた。
封印帯を取るのが目的ではない。彼の目的はただひとつ──ぱんつだ。
背後で仲間がロイヤルガードが戦う間に、武尊は封印帯の上からいまだ「殺させろ」とわめき続けているカリアッハの全身をざわざわと触った。封印帯と服、そしてカリアッハの肌の間から、あの物体がズレ下がってくる。
すぽーーーーーーーーーん!!!!!
武尊は勢い良く、拘束されたままのカリアッハから、ぱんつを抜き取った。
シルクのような光沢で、レースをふんだんに使った上品な下着だ。
「五千年ものぱんつは、いただいた!」
さっそく頭にかぶろうとするが、魔女のぱんつは小さすぎて彼の髪をまとめる程度にしかならない。武尊の髪一束をまとめ、くしゃっと丸まったぱんつは、可愛いシュシュのようにも見える。
「ぱんつ番長がかわいくなった!」
「今度は俺の番だからな、国頭ィ〜」
武尊とナガン、鮪はカリアッハもロイヤルガードも無視して、喜びのハイタッチを始める。サルガタナスが「まだカリアッハは拘束されてますわ」と告げるが、聞いちゃいない。
「幼女のぱんつ目当て……?」
月夜が汚らわしいモノを見る目で、彼らを見る。
「愚物が……」
クレアはつぶやきつつ、馬鹿三人を拘束しようとする。
しかし刀真は、緊張を漲らせてカリアッハをにらむ。
魔女はわめくのを止めて、小さく笑っていた。
「うふふ……うふふふ……あははははは!!」
カリアッハを中心に突然、暴風のように魔力の嵐が吹き荒れた。殺人鬼の喜びにいち早く気付いていた刀真と、彼が受け止めた月夜以外は吹っ飛ばされて壁に激突する。
嵐が止むと、カリアッハを拘束していた帯はすべて外れていた。
彼女が身につける物すべてが、彼女を封じる魔力を帯びていたのだ。
「あの子、ぱんつを脱いだら、強くなったんじゃね?」
ビリビリとした強烈な魔力が渦巻く中、ナガンが楽しそうに言う。
カリアッハはふたたび、狂ったようにわめき始める。
「あはは……これで殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる」
「…………?」
瞬時に膨れ上がった魔力に、その場にいた者は思わず身構えたが。
何も起こらない。カリアッハだけが嬉しそうに笑い転げる。
「死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。ざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあざまあ。死体市場死体市場死体市場死体市場死体市場死体市場死体市場おかしいいいい〜!!」
一人で笑い転げているカリアッハに、皆、顔を見合わせてしまう。
「もしかして脳内で大量殺人して気持ちよくなってない?」
ナガンはちょっとつまらなそうだ。
急に壁の石仮面が叫んだ。
「緊急事態発生! 原因排除の上、ターゲットの厳重封印を開始する!」
壁がゴウンと蠢いた。壁に現れた無数の穴から、封印帯がシャワーのように飛び出してカリアッハに浴びせられる。
同時に、空中に大きな歪みが出来、その渦の中に武尊、鮪、ナガン、サルガタナスが吸い込まれて消えてしまう。
やがて空間の歪みは消え、部屋には巨大な封印帯の大玉が出来上がっていた。
「ここは古王国時代の設備だからな。当時の非常装置が作動したのだろう」
クレアが石仮面に浮かんだ古代文字を読みながら告げる。
「あの……カリアッハさまは……?」
「見ての通り、厳重封印状態だ」
クレアに言われて、悠希は肩を落とす。封印帯の大玉からは、中に封じられた童女の様子を探る事はできない。
しかし刀真は非常に厳しい目で、大玉をにらんでいた。
「刀真、どうしたの?」
月夜が問いかけた。
「嫌な予感がする……。あいつは確かに、殺人の手ごたえに喜んでいた」
「あれは……彼女の妄想よ。
それより所内の暴動が治まったか心配だわ。見てきましょう」
月夜は刀真を次の仕事に急かした。とにかく彼の気持ちを、別の事に向けたかった。
その頃。
シャンバラ大荒野の外れに、空間の歪みが出来、そこから武尊、鮪、ナガン、サルガタナスが放り出された。続けてハーリーも。
「ドルンドルン!(急にテレポートしたぞ?!)」
情況の分からないハーリーは、不審げに唸る。
「なぁに、目標は達成した!」
武尊の頭には、誇らしげにカリアッハのぱんつが乗っていた。
ぱんつに仕込まれた封印の魔法はカリアッハ専用で、武尊を始めとした他の者には効果が無いようだ。
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