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第49章 女友達

 空京にある公園の丘に、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)
と共に、降り立った。
 一緒に飛ばないかと誘ったのは、リネンの方だった。
 情勢のことや、シャンバラのこと、カナンのことと、重くならない程度の世間話をしながら、2人は風に吹かれていた。
「最近……どう?」
 会話がちょっと途切れた時。リネンがフリューネに尋ねた。
「忙しいけれど、充実しているわよ。リネンは疲れてない?」
「私は、大丈夫」
 リネンはフリューネをじっと見る。
「目標も、できたし。ヘイリーたちも、いるし」
「そう。それは良かったわ」
 フリューネがリネンに笑顔を見せた。
「でもどうして? 何か私に聞きたいことがあるのよね?」
 フリューネの問いに頷いて、リネンは口を開く。
「……ちょっと、気になって。ほら……前に『シャンバラに私の空がない』って、呟いてたことがあったから」
「ん?」
 フリューネが首を傾げる。
「悩みがあるなら、力になるから……タシガン空峡での話、断られちゃったけど、気持ちは今も一緒だから。私も、フリューネの空を一緒に飛びたいから」
「ああ、うん。ありがとうリネン。そのことについては、悩んでいるとかでないの。タシガンの空峡の空賊は最早私の出番ではないし……エリュシオンとの戦いには、手は出せないからね。当時、少しもどかしさを感じていたのは事実。でも今はさっきも言ったように充実した毎日を送ってる。悩みなんてないわよ」
 安心させようと、フリューネは明るい笑みをリネンに向けた。
 リネンはほっと息をついた。
「……よかった。でもちょっと、最近そわそわしているというか、考え込んでいることが多い気もするんだけど?」
 思い詰めているとは少し違うような気もするけれど、1人でいるときにフリューネが何か考えことをしている姿を、リネンは時々見かけていた。
「あーうん……実は、ね」
 フリューネは軽く目を泳がせた後、ちょっと言い難そうに話し始める。
「私のこと、好きだと言ってくれる人が何人かいて、ね。私はどうしたらいいのかなって、考えちゃうときがあるの。友達なら何人とも付き合えるんだけどね。恋人が出来たら他の自分を好いてくれている人と付き合い難くなるでしょ。皆、好きなんだけどなぁ……」
「好きな友達が離れていくのは、残念だし、寂しいものね……私は、フリューネに恋人が出来たとしても、変わらないわよ。女友達だから」
「うん、ありがとリネン。……っと」
 リネンに笑顔を見せた後、フリューネは時計に目を向けた。
「待ち合わせがあるから、行くわね。今日は本当にありがとう!」
「うん……あ、これ」
 リネンは鞄の中から、袋を取り出した。
「……バレンタインだし、作ってみたの。よかったら……はい」
 友達同士だから、変かなと思いながらリネンはフリューネにチョコレートを差し出した。
「ありがとう、頂くわ。胃薬、必要ないわよね?」
「……必要ない、はず」
 笑い合って、フリューネは嬉しそうにリネンからのチョコレートを受け取った。
「それじゃまた、一緒に飛びましょう」
 そう言った後、彼女は街の方へと飛んで行った。
(大きな悩み、なくてよかった……)
 リネンは安堵をしながら、穏やかな目でフリューネを見送っていた。