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リアクション
5.『アルテミス』とパルナソス山
ユグドラシルから30キロほど北上したところに、エリュシオンの選定神・アルテミスが居を構える、彼女の名を冠した街『アルテミス』がある。
さすが選定神の治める街だけあって、街へ至る道路はある程度整備されており、『アルテミス』とパルナソス山の調査隊はスムーズに到着できた。
「ん〜、『アルテミス』もステキだけど、やっぱ品ぞろえはユグドラシルの方がよかったのかなぁ〜。燃費効率を上げる燃料は、と……」
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はつぶやきながら、機晶姫用の機材屋を物色している。
「コトが起こるまでは、『アルテミス』をブラついてていいぜ」
契約者のエヴァルトにそう言われ、ロートラウトは自分をバージョンアップできそうなアイテムを探して、街を観光していた。
店の主人は、ロートラウトの独り言にプロ意識を刺激されたようだ。
「何言ってやがる。うちにゃユグドラシルじゃ絶対手に入らねえマニア向けの特殊仕様装備がウリなんだぜ」
「へえ〜! ご主人、例えば?」
「そうだなぁ。あんた、戦闘タイプは何だ?」
「古代王国の王都防衛機体だよ」
「防護機種か。だったらこれだな」
店主は棚から小型の円形シールドを取ってロートラウトに見せ、効果を説明する。
「す、すごいっ! ご主人、これいくら?」
説明を聞いた彼女は、一発で気に入って買いに走る。店主は黙って値札を見せるが、ロートラウトは金額を見て固まる。
古代王国の機体ということで修繕費が高く、契約者であるエヴァルトの懐を圧迫し続けているロートラウト。
(高い……でもこれで防御力上げれば、きっとボクの修理も減るよね。結果的に安くなる。うん! 浮遊要塞を取る時にきっと役に立つよね!)
「買った!」
「まいど! こいつはすげえぜ。それこそ神の攻撃でなけりゃ、絶対防御の自信作だ。二度と作れねえ代物だっつーことだから、大事に使えよ」
シールドの活躍を夢見ながら、胸部の機関部位と連結し、意気揚々と店を出ていき、燃料探しはすっかり忘れているロートラウトであった。
★☆★☆★
「さ♪ というわけでツカサ、よろしくね♪」
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)がスコップを月詠 司(つくよみ・つかさ)に突き出す。
「あのー、シオンくん……本気でこれやれと?」
司はスコップを受け取りながら、頭をかく。
シオンは腕を組んで上から目線で司に言ってのける。
「あらツカサ♪ ワタシがこういう冗談言ったことある?」
「ないですけど……だからってここから牢屋まで抜け道を掘れっていうのはさすがに……」
いつものシオンの司に対する無茶ぶりは、今回は特に度を越えているようだ。
シオンのダイソウ救出作戦は、『アルテミス』とダイソウの牢獄を地下道で繋ぎ、彼らをこっそり脱出させようというもの。
「エリュシオンにこんな古典的な手段が通用するとは思えないんですけど……」
「それはそれでいいのよ。陽動くらいにはなるでしょ♪」
「ええー、かませ犬じゃないですかぁ。それに一人じゃ到底間に合わないですって」
「しょうがないわねぇ。ワタシの傀儡貸してあげるわ。はい、ツカサ1号、2号、3号」
「ちょ、傀儡に私の名前つけてるんですか! 私、傀儡扱いですか!」
司の苦情は受付ず、シオンは使い魔の傀儡を三体つけてあげる。
手は増えたものの、
(ツカサ1号って……しかもシオンくんの使い魔、まともに手伝ってくれるんでしょうかねぇ……)
と、ため息の途切れない司。
シオンは街を見渡し、
「パラケルススはまだかしら? 街を一回り調べてきてって言ったんだけど……」
と、パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)の姿を探す。
その肝心のパラケルスス。シオンの指示など途中で忘れ、立ち寄った薬局で購入したある薬に見惚れながら歩いている。
「勢いで買っちまった……『プシュケの灯火』ねぇ。ま、聞いたことねえ名前だし、面白そうだからいいか……」
と、『プシュケの灯火』という小さなアンプルを日にかざし、透明の液体を透かして見る。
(店員の説明分かりづらかったけど、つまり惚れ薬ってことだよな。この程度の量なら、一回こっきりか……キャノンネネか、キャノンモモか、はたまた秋野向日葵? いや、選定神のアルテミスも相当な美人って噂だな……)
パラケルススはその惚れ薬を誰に使うか、思案中。
それを見つけたシオンが、彼を呼びつける。
「ちょっとパラケルスス、トンネル掘りをスタートできる場所、見つかった?」
「ん? ああ〜、向こうに空き屋があったから、その地下からいけるんじゃねえか?」
と、パラケルススは適当に返事する。
シオンは司に向き直り、
「じゃ、ダイソウトウ救出作戦、頑張ってね♪」
と、彼の方に手を置く。
「はぁ……嫌な予感しかしませんが……」
司はツカサ1号から3号を引き連れて、空き屋の地下にもぐり込み、ダイソウの牢屋を目指して地味な穴掘り作業を開始した。
「ワタシはコウモリたちにパルナソス山の調査と警戒があるから、街の調査は引き続きお願いね♪」
シオンはパラケルススにそう言い残し、去っていく。
パラケルススは、彼も彼でシオンの話はほぼ聞いておらず、
「うーむ、やっぱアルテミスだよなあ。よし、一つお目にかかっておくか〜」
と、街の最北部にあるアルテミス邸へと向かっていく。
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