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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

リアクション

 ゆっくり温泉を楽しみ、皆顔をほてらせている中、トライブだけは顔が青い。

(おかしい。おかしいぞ……何で妹ちゃんがこうなってんだよ……)

 トライブの愕然とした表情の先には、温泉のぬくもりとは別の意味で顔を真っ赤にしてうずくまるモモの姿がある。
 彼女の横には、これまた温泉のぬくもりとは別の意味でほくほく顔のレティシアがいる。

「楽しかったですねぇ〜、モモちゃん」

 レティシアはモモに声をかけながら、彼女の肩から背中にかけて、つーっと指をはわす。

「ええ……そうですね……おねぇさま」
「待てーっ、妹ちゃん! その『おねぇさま』って意味違うよな!? 『お姉さま』じゃなくて『おねぇさま』って何だよ! あ、あんた妹ちゃんに何しやがった!」
「何って。ほんのちょっぴり仲良くなっただけですぅ、ねえ、モモちゃん」
「はい、おねぇさま……」
「おねぇさまって言うな、妹ちゃん! そっち側に行っちゃダメだぁー!」

 『そっち側』というのがどっち側なのかは分からない。
レティシアが何かを思い出しながら両手をにぎにぎしているし、ミスティが予想通りの落胆顔で撮影した映像を消去しているあたり、あまり深くは追求したくない世界であるが。
 アポロとヘルメェスは、壮太に対して不満顔である。

「なぜ私たちは温泉に入らせてもらえなかったのだ。水着着用の混浴だと言っただろう」
「うっせえ! ネネ姉さんの神聖な水着姿をおまえら変態に晒したら、どうなるか分かったもんじゃねえぜ」
「変態とは失敬な! 確かに私たちは多少人と違う趣向の持ち主ではあるが」
「それが変態っつーんだろ。ていうか自覚あんのかよ」

 そんな口論をするところに、メニエスが顔を赤らめて近寄る。

「ねえちょっと。温泉付き合ったんだからほら、早く案内してよ。魔術古書店」
「そうだったな。ここから2ブロック先の裏路地に入って3軒目だ」
「ネネ、あんたも付き合う約束でしょ」
「そうでしたわね。その後ブティックにも行きませんこと?」

 ネネはまだ湿った髪を軽く泳がせながらメニエスに返事する。
 そんなマイペースなネネにアポロは、

「ネネ……そろそろダイダル卿を助けに行ってほしいんだが……」
「あらあら、そうですわね。何だか忙しいですわ」

 そこに、急を告げる使者。
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)がネネ達を発見する。

「思ったとおりですわね。まだこんな所で油を売っているとは。洋さま! キャノン姉妹がいましたわ!」

 すでに武装済みのみとの元へ、相沢 洋(あいざわ・ひろし)も装備を整えて走り寄る。

「キャノン姉妹! 状況が変わったぞ。すぐさま閣下を救出に向かう」
「まあ。そんなに慌ててどうなさいましたの?」
「のんびりしている場合か! 何者か(クロセル)の手によって大帝が動いた。我々ダークサイズは、エリュシオンを敵に回してしまったぞ」
「え、国に敵対したんですか? なぜ?」

 モモがようやくいつもの自分を取り戻すが、のんびり説明している場合ではない。洋の先導で、急きょ監獄へと向かうことになる。

「ええー! あたしはイヤよ。冗談じゃないわ」

 メニエスは場所を聞いておいたのを幸いに、一人箒にまたがって魔術古書店に向かって離脱する。


★☆★☆★


『ダークサイズとかいうシャンバラのスパイ組織がユグドラシルで撹乱行動をとっている。怪しい者はことごとく捕縛せよ』

 にわかに街中に衛兵をはじめ、龍騎士団の小隊も動き、ユグドラシルに厳戒態勢が敷かれる。
 当然フードコートも中止が宣言される。

「だーっ!! 何すんねん! ギネス直前やっちゅーのに!」

 混乱で保釈金の小銭の塔が倒され、コインが一帯にばらまかれる。
 泰輔やフランツたちは慌ててコインを拾い始める。
 顕仁も、

「我がこのような屈辱を……」

 道端にうずくまってお金を拾うみじめな姿に、くやしそうだ。
 ミュージカルも盛り上がり観衆の注目を集めたところで、ダイソウ恩赦のため署名を集め始めていたローズたち。

「お前たち! ダークサイズの手のものだな!」

 当然衛兵たちが、スパイ・ダイソウの一味として拘束しにかかる。

「よく分かんねぇけどやっべえ。みんな、逃っげろ〜」

 『スペクタクルブーツ』で衛兵たちを翻弄しながら、ローズ、ヴァンビーノ、学人はスイスイ走る。

「おい!! オレ置いて逃げんなよっ!!」

 ただ一人タップシューズのシンは、カツカツ音を立てながらローズたちを追う。
 そんな混乱が徐々に広がるなか、キャノン姉妹たちはダイソウの牢獄周辺に到着する。

「よし、行くぞ。強行突破だ」
「おい、大丈夫かよ?」

 今回様子を見ながら状況を見守っていたラルクは、いきなりの牢獄攻撃は警戒する。
 洋は状況を整理しながら、ラルクに説明。

「予想以上に危険な状態だ。おそらくエリュシオン側も『ダークサイズというスパイ組織が大規模なテロを画策している』と思っているだろう」
「おおげさじゃねえか?」
「何を言う。現に広場の泰輔やローズたちは追われ、何故か秋野向日葵も捕まっている。まもなくここにも龍騎士団が集まるかもしれん」
「先に手を打とうってわけか」
「うむ。この際先手必勝だ! 我々ダークサイズを敵に回すとどうなるか、エリュシオンに思い知らせてやらねば!」
「それ……状況悪化させねえか?」
「洋さま……今回は暴れたいだけですわね」
「何を言うみと! この軍事行動はあくまでダイソウトウ閣下救出作戦なのだぞ!」

 と、彼らが会話をしている間に、

ぼむっ、どがんっ!

 牢獄のドアを破り、龍騎士が吹っ飛んで通りに倒れる。

「ん? 誰かもう救出作戦始めてんのか?」

 ラルクが目を凝らし、洋が悔しそうに膝を叩く。

「見ろラルク、みと! もたもたしてる間に先を越されてしまったではないか!」
「洋さま……やはり暴れたかったのですね」