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リアクション
「すぐ着くけど、ルートは作っておいたよ」
 円のペンギン部隊が戦闘を歩き、一同はパルナソス山を登る。
 小さい部類に入る山で、頂上の神殿には2時間もあれば到着する。
 アポロとヘルメェスは神殿内部の祭壇に走り、
「さあダイダル卿、こちらにあなたの正気と記憶の機晶石が……ない!!」
 大慌てでキョロキョロ周りを見る。
「バカな、盗まれたのか!?」
「そんなはずはない。ここは神聖な、おい君!」
 ヘルメェスは相変わらず大鍋をかき回す綾香に、
「こ、ここにあったはずに機晶石を知らないか!」
「ん? おお、そんなものもあったのう。使うものだったのか……これか?」
 綾香は大きなおたまで、鍋の中から煮えた液体のまとわりついた機晶石を救いだす。
「で、デロデロだぁー!!」
 ヘルメェスがあちあちしながら、機晶石を受け取ってくる。
 アポロもそれを覗きこみ、
「だ、大丈夫なのか……?」
「一応セキュリティは頑丈な印を施してある。多分平気だと思うが……」
 二人は祭壇に魔法陣を描き、機晶石を中心に置く。
 さらにダイダル卿を陣の前に立たせ、アポロとヘルメェスは両脇から魔法陣を囲む。
 ぶつぶつと二人が何かつぶやくと、二つの機晶石から輝きが放たれ、それがダイダル卿の体内へ吸い込まれていく。
「……」
 静寂の中、ダイダル卿は確認するように自分の両手を見たり、顔を撫でたりする。
 しかしその目は先ほどまでとは打って変わり、強い意志を感じされるものだ。
 彼はアポロとヘルメェスを見て、おお、と目を見開く。
「だ、ダイダル卿!」
「お主ら……」
「私たちの名前、思い出せますか?」
「もちろんじゃ」
 アポロとヘルメェスは嬉しそうにダイダル卿に走り寄る。
 ダイダル卿は二人の顔を見て、
「うむ、覚えておるぞ。えーっと、うん、あれ、えーっとじゃな……」
(覚えてねえー!)
 正気は戻ったようだが、ダイダル卿の記憶がどうも怪しい。
 アポロは何か刺激が必要かもしれないと、ダイダル卿を後ろを向かせ、ネネを見せる。
「さあ卿! ご覧下さい! あの女性が誰だか分かりますか! 死んだはずのあの人です!」
「お、おお……! おおおお!」
 ダイダル卿は両手を前に出し、ネネの方へ歩く。
 ネネもキオネのふりをして、少しだけ付き合ってあげ、黙って前に立っている。
「おお、お前はわしの大事な、ええと、大事な……何じゃったかのう」
(ダメだー!)
 アポロとヘルメェスはおろか、娘のことが思い出せないダイダル卿。
「ダイダル卿、この人は……」
「いや待て、言うでない。もうここまで出かかっとるんじゃ。わしにとって大事な存在じゃというのはわかっとる。ええと、わしの大事な……嫁!」
「違います!」
「妹!」
「そんな年近くないでしょ!」
「孫!」
「ああ、なんか惜しい!」
「お隣さん!」
「娘だよ! なんで先にお隣さんが出ちゃうんだよ!」
 三人でそんな漫談を繰り広げながら、ダイダル卿はアルテミスを見る。
「おお、アルテミス。久しぶりじゃのう」
「元に戻ったようじゃの。ダイダル卿、いや、ダイダリオン」
 ダイダル卿に向かって、聞いたこともない名前で呼ぶアルテミス。
 ダイダル卿はその名前に恥ずかしそうに頭をかきながら、
「そこのお嬢さん(綾香)のおかげで、機晶石がおかしくなったのか、人間になった後の記憶はどうもあやふやじゃ。しかし、おかげでその前のことは鮮明に思い出せるぞい」
「は?」
 ダイダル卿の変な説明に、ダークサイズはおろか、アポロとヘルメェスすら訳が分からない。
かつてダイダル卿は神であった。
神と言っても低級神に分類され、世界を動かすような偉大な神ではない。
ある日、ダイダリオンは娘キオネを亡くす。
その悲しみに暮れたダイダリオンは、神の山から飛び降り、自殺してしまった。
そんな彼を哀れに思った友人の神が、ダイダリオンを人間に変え、ダイダル卿として『アルテミス』で暮らさせる。
ダイダル卿はそこで土人形からキオネを創り、娘として育て続けたのだ。
『アルテミス』を統治していたアルテミスとしては、龍騎士から選定神となったのに、本物の神に居座られてはたまらない。
そうして、アルテミスはダイダル卿を街から追い出したのだ。
「……ていうかダイダル卿!」
 さらりとカミングアウトされていたが、アポロとヘルメェスにとっては超のつく重要事だ。
「キオネって人形だったんですか!」
「そうじゃよ」
「ちょ、えええ! なんすかそれ! 私たち人形に恋してたんですか! 何で言ってくれなかったんです!?」
「まあ、2.5次元じゃからよかろうと」
「そそそそ、そんなぁー!!」
 完全に打ちのめされるアポロとヘルメェス。
 一方で、カレンとジュレールも、
「あれ、てことは……キオネがナラカにいるわけないよね」
「そうじゃのう……ではアルテミスには」
「我は全てをお見通しだ」
「ご、ごめんなさぁーい!」
 と、アルテミスに慌てて謝る。
 歩も歩で、
「怒り損だったよ……」
 と、疲れた顔をする。
「まぁ、退屈な神の一人遊びだったということだ」
 アルテミスは結論し、ダイダル卿に、
「ダイダリオンよ。あなたはこれからどうするのだ」
「うむ。結果論じゃが、お主の街にいついて悪かったと思うておる。この際じゃ。あの男と一緒に、シャンバラにでも行ってみようかのう」
 と、ダイダル卿はダイソウを指さす。
 ダイソウもダイソウで、
「うむ。私と共に来るがよい」
 イマイチ状況は把握できていないのだが、簡単にダイダル卿を受け入れるのが彼である。
「ここまでやってくれたせめてもの恩返しじゃ。わしがシャンバラまで送ってやろう」
 ダイダル卿が手をかざすと、祭壇がゴゴゴと動き、床が割れるとその下にはパルナソス山の火口が見える。
「ちょっと待っとれ」
 と言い残し、ダイダル卿は火口に飛び降りる。
「うおお! 何やってんだじじー!」
 ダークサイズが驚く中、ダイダル卿の身体は溶岩に消え、その直後
ごごごごごご……
 と神殿が大きく揺れる。
「な、あぶねえ!」
 さらに揺れが大きくなり、全員が伏せる中、パルナソス山そのものが大きく動く。
 
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