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リアクション
8.『アルテミス』
広場で泰輔やローズたちも合流したダークサイズは、どうにかユグドラシルの街は出ることができた。
しかし、すぐにでもエリュシオンの追手はやってくる。
「うーむ、困ったぞ。これでは浮遊要塞屋さんに行けないではないか」
この期に及んで、まだ浮遊要塞を気にする余裕のあるダイソウ。
ちなみに、彼は最終的にピンクの軍服を緊急避難として選んだ。
牢獄を脱出後、一段が迷いなく北へ進むのを見て、
「ねえ! これどこに向かうの!?」
と、クマチャンがみとに聞く。
「『アルテミス』ですわ」
「『アルテミス』? なにそれ? どこにあんの? なんでそこにいくの?」
考えてみれば、ダイソウ、超人ハッチャン、クマチャンは、まったく状況を把握できていない。
三人以外は全員がやるべきことを把握しており、この時ばかりは全面的に幹部に従って、行く先を任せることになる。
ユグドラシルから北の、さして遠くない距離にある『アルテミス』。
アポロとヘルメェスの依頼通り、どうにかダイダル卿をつれて到着することができた。
「だ、ダイダル卿! ご無事で!!」
終夏、由宇、椎名たちのおかげで時間稼ぎができ、アポロとヘルメェスは、ダイダル卿との再会を喜ぶ時間が少し持てた。
「おお、えーっと、誰だか知らんがしょっちゅうワインをくれる若者たちじゃな」
機晶石によって記憶を奪うついでに、どうやらダイダル卿は記憶力も奪われているらしく、人の名前を長時間覚えていられないようだ。
しかし、アポロとヘルメェスは、ダイダル卿に思い出してもらえないのを悲しむ暇はない。
アポロがネネとモモに、
「一気に『アルテミス』に帰って来てしまったが、アルテミスも我々の事に気づいているかもしれない。ここからが本番だ。彼女の罠に気をつけろ」
と、厳重に注意をする。
ダイダル卿の正気と記憶を封じた機晶石を手に入れるため、一行はパルナソス山へ向かう。
山はアルテミスの邸の後ろにそびえており、邸の傍を通らなければ山へは行けない。
そして、ダークサイズはアルテミスとの対決も覚悟しなければならない……はずであったが……
アルテミスの邸の正面扉が開く。
扉の向こうにはアルテミスを中心に、アンリ(アスト)、祥子、カレンにジュレール、円、ジャジラッド、そして歩の姿が。
特にアポロとヘルメェスは、アルテミスの服装に驚く。
アンリ(アスト)の訪問販売で、ダイソウを迎えるためさまざまな衣裳を試着したアルテミス。
「あ、あの……アルテミスさま……?」
アポロがかろうじて口を開く。
「我は、エリュシオンの選定神にして『アルテミス』の支配者、アルテミス」
「で、アルテミスさま……なぜウェディングドレスを……?」
「いろいろ試した結果、インパクトと気持ちの表現を最優先にしました」
アルテミスの代わりに、アンリ(アスト)が解説する。
しかし、アポロ、ヘルメェスをはじめ、ダークサイズの誰もがウェディングドレスの意味が分からない。
アルテミスは一歩踏み出し、
「我は選定神アルテミス……しかしその前に、我も一介の女なのだ!」
と、言いながら走りだし、
「会いたかった! ダイソウトウさま!」
ダイソウの胸に飛び込む。
「……」
敵であり、ダイダル卿の記憶を取り戻す最大の障壁になるはずだったアルテミス。
その彼女が今、ダイソウの胸の中で顔をすりつける。
完全に困惑した顔のダイソウ。彼はジャジラッド達に向かって、
「お前たち……一体何をやらかしたのだ……」
こんなことになったのは彼らのせいに違いないと、ダイソウは咎めつつもイマイチ責められない表情で言う。
「さあ……」
彼らにとっても不可抗力な部分が多い。
誰も責任を取るつもりはないようだ。
アルテミスは顔をあげてダイソウを見るが、そのすぐ後ろのダイダル卿を見る。
「ダイダル卿」
当然彼は記憶がないので、アルテミスの顔を見てもキョトンとするのみ。
そこにはアポロとヘルメェスがアルテミスのもとへ来て、
「アルテミスさま! 私たちの勝手な行動で、ダイダル卿を連れてきてしまいました。お願いです。このダークサイズの庇護の元、卿の正気と記憶を元に戻し、シャンバラへ送って差し上げたいのです。私たちは今まで以上に『アルテミス』のために尽くすつもりです。どうか!」
と、二人は頭を下げる。
アルテミスは目をつぶる。その姿はさすがに選定神らしく、威厳がある。
「やべえ! おい、エリュシオン軍が迫って来てるぜ」
しんがりを務め、『アルテミス』に入った後も後方警戒をしていたラルク達が、追手が迫ることを報告に来る。
アルテミスが手で印を作り、その直後彼女から膨大な魔力が放出され、『アルテミス』全体を囲む結界が形成される。
『我は選定神アルテミス。みだりに我が街に入ることは許さぬ』
アルテミスの声が街の外まで響き、『アルテミス』を包囲するエリュシオン軍に届く。
軍の司令官は、
「選定神アルテミスさま! ダークサイズと名乗るシャンバラのスパイが潜り込んでおります。彼らの捕縛のため、入場の許可を!」
『ならぬ』
「なっ! なぜ!」
『ここは我の街。外敵が潜り込んだと言うなら、それは我々で処理をする。我が美しき街を土足で汚すことはまかりならん』
警察権を持つ軍には到底納得できないが、選定神の言葉には逆らえない。
「参ろう。パルナソス山へ」
アルテミスは、ダイダル卿を元に戻すことを許可し、山へ向かって歩き出す。
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