薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

リアクション公開中!

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

リアクション

7.ダイソウ・ダイダル卿救出作戦?

「えっと……身柄引き渡しの書類、仮釈放申請書類。この辺はダイソウトウ様にサインを頂けば、と。ミルディ、ここにはあなたのサインを」

 再びダイソウ達が捕われている牢獄の入口前。
 和泉 真奈(いずみ・まな)が書類の記入欄を指して、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)にペンを渡す。

「んっと。ま、大した罪状じゃなくてよかったよー」
「ちょっと目を離した隙に牢屋に入ってしまうなんて、本当に世話が焼けますわ」
「ふふふ。でもまさか私たち『ディスティン商会』が身元引受人なんて、ダイソウトウもきっと驚くだろうね」
「その代わり浮遊要塞獲得後は、設備工事は一括でわたくし達で請け負うよう、話してくださいね、ミルディ? お仕事を頂けなければ、ここまで頑張ったかいがありませんわ」
「わかってるってば。ばっちり恩は返してもらわないとね」
「ねえ早く早くっ。早くダイソウトウさんに会いに行こうよ!」

 二人が話す後ろでは、イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がしびれを切らして入口を指さす。

「分かってるよ、いしゅたん」
「ではイシュタン、あなたはこれをダイソウトウ様に渡してくださいな」
「うん!……でもこれ、軍服じゃないよ?」
「背に腹は代えられませんわ。わがままは言わせません」

 真奈はイシュタンに、個性ゼロのTシャツとジーンズを渡す。
 ミルディアは、ふと思い出して王宮前の広場の方を見る。

「あとは……あれ、保釈金は?」

 真奈も口に手を当て、

「まあ、わたくしとしたことが。大久保様たちがなさっていた保釈金の積み上げ。あの見世物のおひねりで、充分な金額になっているはずなのですが……」

 と、一向に泰輔たちが合流してこないことを心配し、広場の方角を見る。
 心配は心配だが、小銭積み上げショーをやっているだけで、もめ事が起こるとは思えない。

「ねえ朔さん、どうしよう?」

『正規の手段で助けるよ!』というミルディアの思いから、手続きも順を追い、書類の内容にも偽装はない。
それをさらにスムーズに進めるため、ミルディアはエリュシオンの第七龍騎士団に所属する朔にも同伴を要請していた。
朔としても、

(ほったらかしにしてしまった責任もあるし……)

 と、ダイソウの身元保証人になる覚悟で、ミルディアに協力的だ。

「ある程度私のほうで口利きはできると思います。ポンチョのおっちゃ、あ、ダイソウトウの罪は軽いとはいえ、どの道役人の手続きは時間がかかるでしょう。」

 先に書類を出して待たされているうちに追いついてくるだろう、と提案。
 それに従って、彼女らは早速監獄のドアをくぐる。

「では、少し待て」

 制服の役人はすんなり書類を受け取り、奥へ入っていく。

「さーて、ここからしばらくヒマだね〜」

 待合の椅子に座り、イシュタンは足をぷらぷらさせたりする。

「で、スカサハ。そのポンチョのおっちゃんと言うのは誰なの?」

 朔のためにひょっこりやってきた月読 ミチル(つきよみ・みちる)花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)は、唯一事情を知っているスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)に聞く。

「誰と言われましても……あ、ちょっと待ってくださいであります」

 スカサハはメモリープロジェクターで、ダイソウと朔の出会いの件を流す。
 ミチルはそれを見て、何やら食指が動いたらしい。

「朔」
「何だ、ミチル」
「グッジョブっ!」

 ミチルは目をキラッキラに輝かせて、朔に親指を立てる。
 ポカンとする朔に、ミチルは嬉しそうに彼女の肩を持つ。

「ステキだわ朔っ。まさかあなたがこんなステキなお友達と出会うなんて」
「いや、別にまだ友達と言うわけでは……」
「わぁ! コンセプトはべったべたの悪の組織みたいだね。気持ちだけは伝わる〜」

 花琳が思いのほか冷静な感想。

「さあ朔、どうするの? この悪の組織と、今後正義の戦士として戦うの? 仲良くケンカするの? 一旦捕まって改造されちゃう? ダークサイズ入っちゃう?」

 重度の特撮ファンであるミチル。どうもダイソウの言動がツボにはまったらしく、急にテンションが上がる。
 そんな時、重装備に身を固めた龍騎士が数名やってきて、受付の役人の前に立つ。
 役人は敬礼をし、騎士は用件を伝える。

「この収監番号の引き渡しを」
「分かりました……ん? 番号は間違いありませんか?」
「確かだ」
「しかしこの男はただの変態ですよ? ずいぶんものものしいですな」
「この者、シャンバラからのスパイだと分かったのだ。軽犯罪でもぐりこみ、我が国の内情を探る策かもしれん。こちらで引き取って尋問をする」
「そうでしたか。『ダイソウトウ』ねえ。確かにいかにも偽名っぽいですな。お待ちを」
「えっ! ちょ……!」

 何となく聞こえてきた会話の中にダイソウの名前があり、ミルディアと朔は思わず立ち上がる。
 騎士がミルディアを振り返る。役人もそれに気付き、

「あ、そういえばあんたら、こいつの身元引受人……」
「ほう。同行を願わねばならんようだな」

 騎士の部下たちがミルディアの方に進み出る。
 ミルディアは手を振って制止し、

「ちょっと待って! 何が何だか分かんないけど、ダイソウトウがスパイなんてあるわけな……」

 彼女の言葉を塞ぐように、騎士はA4サイズの封筒を一つ取り出す。そこには、

『エリュシオン国内でのテロ活動に関する指令書 ダイソウトウへ』

 と、何のてらいもなくでかでかと書かれている。
 どうやらこれもクロセルの罠らしい。

「お前たちも、このコードネーム・ダイソウトウの仲間だな」
「コードネームじゃないんだけど……」

 イシュタンが変なところに突っ込み、朔が言葉を継ぐ。

「待て、私はエリュシオン第七龍騎士団の鬼崎朔」
「おお、これは鬼崎どの」

 その龍騎士は朔の顔を見知っているらしい。朔は彼の敬礼を受けながら、

「ダイソウトウをエリュシオンに連れてきたのは私だ。だからこそ断言できるが、彼がシャンバラのスパイなどありえない。何かの間違いか、罠だろう」
「な……! まさか、あなたほどの人がダークサイズの内通者だったとは!!」
「いや待て! 何を聞いていた。間違いか罠だと……」

 そこに、ミチルが後ろから朔の肩を叩く。

「朔……ばれてしまっては仕方がないわ!」
「ええ! ちょ、えええ!」

 ミチルが決定的な一言を言ってしまい、龍騎士が彼女らを拘束しようと迫る。