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リアクション
前方の空にそれを発見して、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)は素早く『小型飛空艇ヘリファルテ』を降下させた。
「どうした?」と問いた氷室 カイ(ひむろ・かい)にサーは上空を見上げ示した。
「あれは……」
小振りな一軒家程度の大きさだろうか、巨大な箱が『ワイバーン』に吊られて空を飛んでいる。その箱が1、2、3、4………… 全部で8程だろうか。一つの箱を10体の『ワイバーン』が吊っているから―――
「とんでもない数だな」
「えぇ。しかもあれは…… 見て下さい」
箱とはいえ壁面は低い。鎧を着た兵士たちの姿が見える、その鎧はネルガル軍が着用しているものだった。
「人間の箱詰めか。ネルガルはとことん趣味が悪いな」
「カイ。まずいわよ」
「ん?」
雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が空の先を指して言った。ネルガル軍の進路は南を向いている、これから自分たちも目指そうとしていた「マルドゥークの居城」がある方角だ。
「ふぅ」
カイが大きく息を吐いた。それだけでパートナーたちは彼の意を感じ取った。
「お前たちはどうする?」
「もちろん」
そう答えたのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)、
「マジか……」
と漏らしたのは明子のパートナーのレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)だった。
「なあに? やらないの?」
「普通は、ナ」
敵がどんだけ居ると思ってんだ、勝ち目とかヤバいとかそんな計算だけじゃなく、単純なものまで出来なくなっちまったのかウチのマスターは。
「ま、俺がやらなきゃ誰がやるってな」
「…… それ、カッコイイわね」
「まぁな、ちったぁ見直しやがれ」
明子とレヴィの心は決まったようだ。
「渚、お前はマルドゥークの元へ向かえ。ネルガル軍が迫っている事を伝えるんだ」
「でも……」
「俺たちなら大丈夫だ」
渚が『小型飛空艇ヘリファルテ』を離陸させるのに合わせて5人は一斉に飛び出した。
先頭はレオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)の『小型飛空艇オイレ』。
「前方上空に確認、ただちに排除します」
兵は箱に入っている。つまり空中で動くは不可。
「まずは」
『六連ミサイルポッド』で箱を吊すワイヤーを攻撃した。ワイヤーの揺れは箱を揺らし、そしてワイバーンの自由を奪った。
「傾きましたね」
サーはワイバーンの眼めがけて『光術』を放つ。揺れるワイヤーに足を取られ、そのうえ視界を遮られた飛竜は歩みを止めた。
「詰みだ」
カイの『ヘルファイア』が翼を焼いた。
カイたちの奇襲に兵士たちも気付いたようだ。しかし『小型飛空艇』や『ワイルドペガサス』で空を駆けるカイたちを弓矢で捕らえろというのは意地が悪い。ましてや彼らは飛竜の上空を位置取って飛んでいた。
「撃ちたいなら勝手にしろ。ワイバーンに当たるだろうがな。っと」
一つの箱を吊り運ぶ飛竜の群れ、そこから離れゆく飛竜が2体いた。レオナのミサイルポッドが2本のワイヤーを爆ぜ切ったようだ。
カイは『宮殿用飛行翼』の機動力で寄りて『ヘルファイア』を、また明子は『ワイルドペガサス』を飛翔させて上をとり、そして魔鎧として装したレヴィのスキル『ランスバレスト』を翼に叩き込んだ。
別の箱を吊るワイバーンがファイアブレスを放ってきたが―――明子の『天のいかづち』がこれを迎撃した。
サーは『ライトニングランス』で、レオナは『シャープシューター』で飛竜の翼を狙い撃った。出し惜しみが出来る状況ではない、全ては渚が無事にマルドゥークの元へ辿り着くまで、その足止めを。
「何の騒ぎだ?」
低く、それでいて艶のある声が聞こえてレオナは狙撃を止めた。
箱を吊るワイバーンとは一回り、いや二回りは大きく見えるワイバーンが緩く迫ってくる。そしてその背にはネルガルの姿があった。
「数はそれだけか?」
征服王を名乗る男は視線だけで辺りを見回した。
「精鋭か? にしては少なすぎるな」
「へっ、奇襲ってのは少数でやった方が迅速に出来るっつ―もんだろうが」
鼻で笑いてレヴィが言ったが、ネルガルはこれに「一理ある」と鼻で返した。
「その勇気は認めよう。素晴らしい、賞賛に値する」
嬉しくねぇよ、と返すより先に、
「だが、あまり余を舐めるなよ」
とネルガルの口端が大きく歪んで奇笑を成した。
「ネルガル様」
玉座に戻ったネルガルの元へ東雲 いちる(しののめ・いちる)が歩み寄り頭を下げた。
「どれほどかかる」
「はい。30分はかからないかと」
「よい。急がせろ」
奇襲により倒れたワイバーンは4体。しかし幸いな事に箱の破損は少なく、その修繕作業とワイバーンの配置を変えるだけで進軍を再開できるというのが彼女の見立てだった。
「あの」
いちるが問いた。
「意見が違う者はみな敵なのでしょうか」
「ふっ。同国の者の無惨な姿を目にするは、堪えたか?」
「……いえ」
いちるは顔を伏せて言葉を飲んだ。
「これからも、その…… 力で黙らせるという手段で意が違う者たちを―――」
「勘違いするな」
とネルガルが遮った。
「意見が違う者は真の敵ではない。が、互いの真意に気付けなければ敵のまま終わる、それだけのことだ」
「しかし……」
「気付けぬ者が立ちはだかり、向かい来るのならば。力で気付かせるより他になかろう」
低く冷たく色のない声でネルガルは言った。
どこまでも遠い空を見ているような、そんな目をして静かにそう言ったのだった。
ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)は動けない。
東雲 いちる(しののめ・いちる)がネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。ギルベルトは石像となった。
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――
『お前はまた戦場へ出ているのか。いや、連れ回しているのはネルガルか。
なぜ自ら兵を率いる。王自らが戦場に出向く必要なんてあるだろうか。
「任せる」は「信じる」こと。
強要ではなく託すということをネルガルは出来ないのだろうか、しないのだろうか。
いちる。お前は今、ネルガルに近づけているのだろうか』
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。
ノグリエ・オルストロ(のぐりえ・おるすとろ)は動けない。
東雲 いちる(しののめ・いちる)がネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。ノグリエは石像となった。
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――
『ネルガルは言った「意見が違う者は真の敵ではない」ってど―いう意味だろうね。
イナンナとネルガルは互いに異なる想いを抱いていた。
それでも今の対立状態を考えるなら、過去には意見をぶつけ合ったという事なのかな。
いちる。ネルガルの傍に仕えた君は一体どんな答えを出すのだろうね』
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。
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