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春が来て、花が咲いたら。

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春が来て、花が咲いたら。
春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。 春が来て、花が咲いたら。

リアクション



27


 話しかけるタイミングを、探していた。
 冒険屋の花見は盛況だ。皆で飲んで騒いでの大宴会。
 そんな状況なのだから、誰かに話しかけられるのは必然だ。
 鳳明も、それからリンスも、常に誰かに話しかけられていた。たまに片方が空いても、もう片方が空かなくて。
 話しかけることができないまま、宴もたけなわ。
 みんないい具合に飲んで、食べて、騒ぎ疲れて、のんびりモードに突入している。
 話しかけてくる相手がいなくなり、鳳明はリンスの方を見た。あちらも丁度、一人きり。
 ちょこちょことリンスの許まで寄って行って。
「えーっと、こんばんはリンスくん」
 話しかけてみた。
「こんばんは、琳」
 ――あ。
 ――声、久しぶりに聞いた、なぁ。
 実感に言葉を継げないでいると、
「どしたの」
 顔を覗きこまれてしまった。慌ててのけぞる。
「や。一ヶ月会ってないだけで、なんだかすごく久しぶりな気がしてさ」
「そっか。もうそれくらい会ってなかったんだね、俺ら」
「うん。…………」
 ゆるゆると、他愛の無い話をして。
 沈黙が降りて。
「……私は地球の中国って国の河北省滄州市の出身」
 鳳明は、話を切り出した。首を傾げられたが、構わず続ける。
「9月1日生まれのおとめ座。
 赤ん坊の頃、村の畑に捨てられているのをお爺ちゃんとお婆ちゃんが拾って育ててくれた。
 で、3年前にセラさんと契約して教導団に入って……。
 ……不思議そうな顔してるね」
「そりゃするよ。いきなり何?」
 一度話を区切ると、やはり疑問に思われていたようだ。
「えーっとね。何て言うか……昨日、初めてリンスくんがスランプに苦しんでたって話を聞いたんだ。私ショックだった。いくら軍務が忙しかったって言っても、それより前からの話だっただろうし。気付けなかった私は、リンスくんの何を見てたんだろう、って」
 ずっと一緒に居たわけじゃない。
 ずっと傍で見ていたわけじゃない。
 だけど、変化に気付けないほど、遠くの存在でもなかったのに。
「それで思ったんだ。私、リンスくんのこと、そんなに多くは知らないな……って。だから、リンスくんのことをもっと知りたいなって。……そんな我儘を思ったんだよ」
 それに続く言葉を言うか言うまいか一瞬迷って、
「……、だって大好きな人のことは何でも知りたいからねっ!」
 笑顔で言った。
「で、それだけじゃ不平等だから、私のことも知ってもらおうって」
 が、そこで気付く。リンスが押し黙っていることに。
 急激に血の気が引いた。
 変な子だと思われていたらどうしよう。
 でも、今言ったことは全部事実だし。
「……あ、あはは。何言ってるんだろうね。お酒、飲み過ぎたかな?」
 防衛線を張りつつ、
「とにかくお互いのこともっと知って、それで好きとかそういうの考えたいんだ」
 気持ちを伝える。
 リンスの答えは、
「ていうか。お酒飲めるんだ」
「え、そっち? 飲めるよ、私23歳だよ?」
「年上だったのか……」
「そんなしみじみ言われてもなぁ……」
 ああ、やっぱり伝えないと自分のことも知ってもらえないな。
 同じように、教えてもらわなきゃ、相手のこともわからないな。
 知りたいな。
 好きな人のことだから、なおさら。
「……6月6日生まれ。星座は知らない。生まれも育ちもヴァイシャリー。途中しばらくイルミンスールで過ごしたけどね」
「え、」
「知りたいんでしょ? 俺のこと。
 両親は気付いた時には居なかった。詳しく聞いたことないから今どうしてるのかも知らない。
 姉が居たけど死別した。天涯孤独っていうものなんだろうけど、寂しくはないよ。知ってると思うけど」
 淡々と、静かな声で語られた。内容に耳を傾ける。
「できることは人形作りくらい。鈍いって言われたな。目の色が違うのは生まれつきで、小さい頃はこの目が嫌いだった。
 チョコが好きだけど、好きになったきっかけは少量でカロリー摂取可能だからっていう不純なもの。
 花も好き。桜みたいに華々しいのも、かすみ草みたいな大人しいものも好き。
 好きな色は白とかモスグリーンで……、」
 落ち着く相手の、落ち着く声。
 ――あ。
 ――うとうと、してきた。
 ――昨日まで、仕事忙しかったもん、なぁ。
 ――そこにお酒じゃ、
 ――……うぅ、話してる、最中、なの、に、な……。
 気に掛けながらも。
 鳳明は、眠りの世界に落ちていく。


「……ねえあと何言えばいいかな。って。寝てるし」
 話せる自分情報が無くなって鳳明に問い掛けると、彼女はリンスの肩に寄り掛かって眠っていた。
 ――忙しかったって言ってたしね。
 リンスは着ていた上着を脱いで鳳明の肩にかけた。少し肌寒いが、まぁ我慢。
「おやすみ、琳」
 小さく言って、桜を見上げた。


 騒ぎの輪から少し外れた場所で。
 衿栖や朱里がみんなでわいわいと楽しくやっているのを見て、レオン・カシミール(れおん・かしみーる)はふっと微笑んだ。
「どうした?」
 旧友との花見を終えて合流したレンが、レオンのコップに酒を注ぎながら問うた。レンの隣で同じく酒を飲む翡翠も首を傾げている。
「いや……楽しそうだな、と思ってな」
 レオンの言葉を聞いて、レンもメティスやノアを見た。同じく、翡翠も花梨を見る。
 朱里、ノア、花梨は花より団子の様子で、お弁当を食べたり飲み物を飲んだりデザートを食べて幸せそうな顔をしていたり。
 衿栖やメティスは、リンスと一緒に桜を見ていた。時折、楽しそうに笑っているのが見える。
「守りたいものだな」
 レンが言う。
 この、広がる笑顔を。楽しい空気を。
「そうだな」
 レオンは頷く。
 ここに居る面々の、幸せな時間を、長く。
「自分たちが、頑張りませんとねぇ」
 翡翠が言って、桜を見上げた。
「これからも」
 すっ、とコップを突き出す。
「宜しく頼む」
 グラスではないから、キンと澄んだ音は響かなかったが。
 確かに交わされた、約束。


*...***...*


 夜が更け、一人帰り二人帰り。
 人影はまばらになり、騒がしかった空気は何処へやら。
 残されたのは、宴席の後の静寂。
 酔っぱらってぐでんぐでんになる人。
 片付けに精を出す人。
 未だに桜を見歩く人。
 その姿も、一つ、また一つと消えていく。

 桜の花びらも、一枚、また一枚と落ちて、枝葉を見せて。
 ピンク色から一転、緑色に姿を成りかえる。
 それは、季節の移り変わり。
 目に見えてわかる景色の変化。
 春の到来と、遠くに見える夏の色。
 季節は、巡る。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 ……えー、リアクション執筆期間中に、B型インフルさんとやらに侵略されました。
 一週間以上の防衛戦を繰り広げ、辛勝したので締切に間に合いました。すごく焦った……。
 季節の変わり目ですが、みなさまくれぐれも体調不良にはお気をつけて。
 あ、もう元気です。たぶん。

 さて今回のリアクションですが。
 みなさまお花見をとっても楽しんでいってくださいまして、書いているわたしも楽しい気分になりました。
 今年はわたしもお花見に行けたのですが、それを思い出したりして。二度美味しい。
 あと和菓子が食べたいです。お団子が。お団子がぁ……!

 と、飢え狂いはじめたところで筆を置きましょう。
 今回も楽しいアクション、並びに嬉しい私信をありがとうございます。
 リアクションを楽しく読んでいただけましたら幸いです。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。