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第7章 パンツの塚

「むう。流れが変わってきたな。愛する者を傷つけられ、本気で怒ったあの戦士の活躍で、荒くれ者の数はだいぶ減ってきている。俺も、あと少しで救出されるのかもな。だが、ああ、奴らが近寄ってきたぞ。くっ」
 十字架の上にはりつけにされている少女たちの一人、柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は、眼下のすさまじい闘いの流れをみとおしながら、舌打ちした。
 エリカが起こした爆発の影響で、氷藍もまた、全裸に近い姿になっている。
 いま、腰にはボロボロの布きれが1枚まとわりついているが、いつ風が吹いてそれが取れてしまうかと、冷や冷やしているところだった。
 氷藍は、自分でも知らぬ間に、お色気度が5割増しになってしまっていた。
 そして、そのお色気にひかれるかのように、荒くれ者たちが氷藍の十字架に近づいてきていた。
 いやらしい視線に素肌がさらされるうちに、ゾクゾクっと、不思議な感触が氷藍の背筋を這いのぼってゆく。
 視線に自分が舐められていると感じると、妙な興奮と期待が氷藍を支配するのである。
 その期待が何なのかを、氷藍ははっきりいうことができなかった。
 ただ、うち震えている。
 歓喜に。
 何が嬉しいのか?
「汚らわしい!!」
 氷藍は、身のうちの魔をうち払うかのごとく、吐き捨てるように叫んでいた。
「糞餓鬼。なに、奇声を発しているんだよ? ついにイカれちまったか? てめえはまだいいんだよ。女だから、色っぽさも出るだろう。だが、俺はなぜここにいる? 何かのついでか、怪しい目つきの荒くれ者どもが俺をここに縛りつけたんだが、まさかあいつらは? いや、そんなはずはない。そうだろ、糞餓鬼?」
 氷藍の隣の十字架にはりつけにされている須佐之男命(すさのをの・みこと)もブツブツ呟きながら悪態をついていたが、氷藍は完全に無視していた。
 須佐之男もまた、爆発の衝撃で全裸に近い姿になり、腰にはボロボロのふんどしをまとっているのみだった。
「ああ、こんなことなら洗いざらしでなく、新品の、丈夫なふんどしをしておくんだった!! ったく、何でまた、こんな生き恥を! あっ、おい、てめえら、寄るな! しっしっ、あっちへ行け!!」
 須佐之男は、怪しい目つきの荒くれ者たちが自分の十字架の周りに群がりだしたので、ゾッとした。
 殺気よりも気持ちの悪い、異様な情念の炎が須佐之男に向けられていたのである。
「ふふふふふ、たまりませんな」
 荒くれ者たちは、独特のこもったような声でそういって、須佐之男の腕や足の筋肉をうっとりして眺めると、我慢できないといった様子で、彼の全身にしがみついてきた。
「わー、やめ、やめろ!! う、うおお、あ、あはははははは! わっはっはっはっはっはのはー!!」
 最初は気持ち悪がっていた須佐之男も、男たちが身体をくすぐり始めると、全身をよじらせて笑い声をあげ始めた。
「ちっ、うるさい奴だ!」
 隣の十字架で、はりつけにされたままうなだれていた氷藍は、大騒ぎする須佐之男を白い目で睨んでいたが、やがて、そんな彼女にも危機が訪れた。
「へっへっへ、姉ちゃん、いい目してまんなー」
 氷藍の瞳の中の、拘束された状況への嫌悪感と、激しい拒絶の心を読みとった荒くれ者たちが、全力で彼女を汚して絶望のどん底に叩きこもうと、なぶりにかかって来たのであった。
「やめろ!!」
 氷藍は叫んだが、荒くれ者たちを喜ばせるだけだった。
 氷藍の全身が、薄汚れた手によってもてあそばれ、邪悪な舌を這わされる。
 発狂しそうなほどの嫌悪感が、氷藍の喉もとにこみあげてきた。
 同時にまた、全身から波のように押し寄せる奇妙な感覚を前に、例の、不気味な期待の心情もまた、わきあがろうとしている。
 氷藍は、そういう自分自身の肉体の反応も含めて、まとめて拒絶したい心境だった。
「うう、やめろ……離れろ……」
 いくらもがいてもどうにかなるわけではない状況で、氷藍は次第に気力が萎えていくのを感じていた。
 不思議な心境だった。
 荒くれ者たちの手が、舌が、自分の活力を吸い取っていくかのようである。
 全身をベタベタにされているうちに、不気味な期待の心情がまたこみあげて、胸のうちを熱くさせていく。
 異様な気持ちに、氷藍は身を支配されつつあった。
 気がつくと、腰にまとわりついていたボロボロの布きれを、荒くれ者たちが、少しずついじりながら、取り去ろうとしていた。
 徐々に、徐々に。
 まるで、氷藍の反応を少しずつ味わってなぶろうとしているかのようである。
「頼む……そこだけは……お願いだ……」
 プライドも何もかもをかなぐり捨てて、氷藍は哀願していた。
 と同時に、そこが取り去られた瞬間、自分の中の熱い何かが皮膚に浸透して、超えてはならない一線を越えてしまうような気がした。
 荒くれ者たちに完全に身体を支配されるまで、秒読みといえた。
 そのとき。
「氷藍、遅れてすまん! 少々乱暴だが、一刻の猶予もならんので、このままいかせてもらおう!!」
 天高くから声が聞こえたかと思うと、レッサーワイバーンに乗った真田幸村(さなだ・ゆきむら)が、急降下で突撃をかけてきた。
「あ、あれは!! うわー!!」
 ワイバーンの翼や手足に弾かれた荒くれ者たちが、悲鳴をあげる。
「幸村……きた……か……」
 やっと救援に現れた仲間の姿を目にした瞬間、氷藍は、安堵のあまり、全身の力が抜けていくように感じた。
「て、てめえ!! せっかくのお楽しみを邪魔しやがってー!!」
 荒くれ者たちが、ドスを抜いて真田に襲いかかっていく。
「……」
 真田は無言、無表情のまま、人間無骨・煉獄の刃を閃かせた。
「あ、ああ!! 何を、ちっとも痛く……がっ」
 あまりに一瞬の動きのことで、「斬られた」ことにも気づかなかった荒くれ者の身体にまっすぐな裂け目がはしり、血が吹き出す。
 上からまっぷたつにされた荒くれ者の身体が、2つにわかれて地面に沈んだ。
「ひ、ひいい、くそー!!」
 恐怖の叫びをあげながらも、荒くれ者たちは、自分たちの意地を貫こうと突進した。
「……」
 真田は無言のまま、縦横無尽に動きまわり、次々に屍体の山を築いていった。
 真田の足元に横たわる無数の屍。
 その屍を越えて、真田は歩いてゆく。
 ぱきん
 真田の足に踏まれた骨が、弾けて割れた。
 そんなことにも、真田は無頓着である。
 既に、氷藍の縛めを断ち切って、解放してある。
 氷藍は、地面に倒れこんで、気を失っているようだった。
 真田は、なおも丘の上を進み、さらなる屍体の山を築こうとした。
「って、おい、いつまで暴れてんだよ。氷藍を連れていこうぜ。ああ、もう、死神じゃないんだぞ。まったく、本末転倒なんだから!!」
 真田の友人である後藤又兵衛(ごとう・またべえ)は、真田の獅子奮迅すぎる闘いぶりに、感動を通りこして呆れてしまっていた。
「これ以上人を殺めてはいかん! やりすぎれば、自分自身を汚すだけだ。許せ、真田!!」
 後藤は、真田の背後に音もなく忍び寄ると、華麗な動きで槍を振りまわし、その柄で真田の頭を打ったのである。
 ごーん
「……お前か。不覚」
 真田は、頭をさすりながら背後の後藤を振り返って、そういうと、倒れてしまった。
 まさに、真田と同様、かつて戦国の世を修羅となって駆け抜けた後藤だからこそできる芸当であった。
「ふう。ちょっと緊張したが、うまくいったな」
 後藤は深い息をもらすと、十字架から解放されて地面に倒れている氷藍の身体を抱え起こした。
「ああ、結局とれちゃったか。おっと、いかんいかん。目のやり場に困る前に、これを置いてやろう」
 氷藍の腰の布きれがとれていたことに気づいた後藤は、慌てて目をそらすと、団子の包みを、氷藍の股間にとりあえず置いたのだった。
「よし、次は須佐之男さんを助けるとしようか。早くしなきゃね」
 真田と氷藍がどうにかなったのを見届けた天禰薫(あまね・かおる)は、須佐之男を助けるべく、熊楠孝高(くまぐす・よしたか)とともに行動を開始した。
「須佐之男さーん、いま助けるのだーっ」
 薫の言葉に、身体をくすぐられて十字架の上で笑い転げていた須佐之男は、ぴくっと反応した。
「おう、やっときたか。頼む。このままでは、笑い死に……ひゃはははは」
 涙を流してなおも笑いながら、須佐之男は薫に助けを求めた。
「いくよ、孝高!」
 薫は、須佐之男にとりついている荒くれ者たちに向かって、駆け出していた。
「天禰、待てよ。もう。しかし、はりつけとは、ひどいよなあ」
 孝高は、慌てて薫の後を追いながら、ふと、不吉な予感に襲われた。
 もし、薫も荒くれ者たちにとらわれて、あのようにはりつけにされて、襲われたとしたら?
 なぶりものにされる薫の無惨な姿が孝高の脳裏に浮かび、いてもたってもいられなくなった。
「くそっ! 聞け、お前ら、天禰には触れさせないぞ!! うわあああ、うがあああああ、がおおおうううう」
 猛ダッシュで走り始めた孝高は、雄叫びとともに、その姿を巨大な熊のものへと変えていった。
 あっという間に、先行していた薫を抜かして、孝高は熊と化したその巨大な腕で、荒くれ者たちを薙ぎ払い始めた。
「おおおお。ぎゃあああ!!!」
 須佐之男に群がっていた不気味な荒くれ者たちが、悲鳴をあげて、血まみれの肉塊と化していった。
「おお。これが大自然の力か!!」
 須佐之男は、感嘆の想いでみつめていた。
 熊の力はすさまじく、とても人間が素手で太刀打ちできるものではない。
 何しろ、熊の攻撃をただのひとかき受けただけで、人間は頭の一部分が欠けてしまって、脳漿を吹き出してしまうほどなのだ。
「天禰、敵はどうにかする! あいつを助けろっ!!」
 熊と化した孝高は叫んだ。
「ぴきゅっ、ありがとう孝高っ」
 薫は礼をいうと、超感覚を発動させた。
 ナキウサギの尻尾と耳が薫の身体から生えてきて、野生の力が全身にたかまってくる。
 たちまち、風のような速さで、薫は須佐之男の十字架にたどりついた。
「ナキウサギをなめないでね!!」
 薫は、須佐之男の縛めをときにかかる。
 野生の力を発揮し、ニンジンをかじる要領で縛めをガリガリとかじるだけで、須佐之男は解放されていた。
「おお、これも大自然の力だな。疾風のナキウサギ、しかと見届けたぜ」
 地面に降りたった須佐之男は笑って、薫の頭を撫でまわした。
「須佐之男さん! それにしても、大変だったね。自由とか、そういうのを奪われるの、嫌だよね」
 ふいに、薫は、過去を想い出してため息をついた。
「おっと。俺を助けにきた方が、俺よりへこんでいるとはな」
 須佐之男は優しく笑って、薫を抱きしめた。
「ナキウサギ。泣きたかったら、泣けよ」
 須佐之男の囁きにこたえるように、薫は鳴いていた。
「ぴ、ぴきゅううう。須佐之男さん!」
 なぜか立場が逆転してしまったが、薫は須佐之男に肩を抱かれるようにして、戦場から離脱していったのである。

「やめて。あなたたちはもう、追い払われつつあるわ! このうえさらに私たちをはりつけにして、どうしようというの?」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)の悲痛な悲鳴が、丘の上に響きわたる。
 先ほど少女たちを救出しようとして失敗し、荒くれ者たちにイタズラされまくっていたイーリャは、その後エリカの起こした爆発でぐったりとした後、荒くれ者たちの手で、十字架の上にあらたにはりつけにされようとしていたのだ。
「くっ、集団でよってたかって、やりたい放題しやがってさ!!」
 ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)もまた、イーリャの隣の十字架にはりつけにされながら、殴られて痣だらけの顔を歪ませて、数と力で野蛮な行いを成就する荒くれ者たちを、憎々しげににらみつけていた。
 イーリャもジヴァも、多数の手におさえつけられて、なすすべもなく、十字架にはりつけにされてゆく。
 衣服がボロボロで素肌があちこち露になっている、半裸に近いその姿をみて、荒くれ者たちは歓声をあげた。
「ちょっとテンションが落ちちまったからな。お前ら2人で憂さ晴らししてやる!!」
 荒くれ者たちはもこもこした巨大な綿のようなものがついた棒を取り出すと、その棒でイーリャとジヴァの身体を叩いたり、こすったりした。
 わずかに身にまとっている布切れ同然の衣服が少しずつ乱れて、地面に落ちていくのをみるたびに、荒くれ者たちは狂喜に近いはしゃぎぶりをみせた。
「みろよ、こいつらのパンツ、すっかり黄ばんでしまっているぜ!!」
「きったねー!! エンガチョ!! 早くひっぺがして、汚物として消毒しようぜ!!」
 荒くれ者たちは猿のように騒いで、棒で、イーリャとジヴァのボロボロのパンツをいじり始めた。
 黄ばんだパンツの切れ端は、いまや、風に吹かれて飛んでいってしまいそうだ。
「イヤ……助けて……」
「ちくしょう……やるならやれ、絶対に後で殺してやる!!」
 はりつけにされているイーリャとジヴァは、もはや抵抗する気力もなく、されるがままに任せて、うなだれてしまった。
「ええい、面倒だ!! いっきに燃やしちゃおうぜ!! ついでに死んじゃうだろうけどさ!!」
 荒くれ者たちの何人かが、火炎放射器を持ち出して、イーリャとジヴァの股間に向けて炎を吹きかけようとした、そのとき。
「待ちなさーい☆」
 一陣の風とともに現れたのは、騎沙良詩穂(きさら・しほ)だった!!
「ああ? 何だてめえは? 邪魔だからどけ!!」
 火炎放射器を構えて発射寸前だった荒くれ者は、詩穂を睨んでガンを飛ばした。
「はじめにいっておきます☆ 詩穂は今日ノーパンですよ。でもでも、鉄壁のスカートをはいているので、決してみることはできません☆」
 詩穂はガンつけにウインクでこたえて、そういった。
「な、ナメんじゃねえ!! やんのかよ?」
 そんな荒くれ者が手にしている火炎放射器のノズルを、詩穂はひっつかんで、荒くれ者自身に向けた。
「あ、あが!?」
「あなたのいうとおりですね☆ 汚物は消毒すべきです☆」
 ごおおおお
 詩穂は火炎放射器のトリガーを引いて、ノズルから噴射される炎で荒くれ者を燃やした。
「し、しぎゃあああ」
 全身が炎に包まれ、両手を天に向けて悲鳴をあげる荒くれ者。
「て、てめえ!!」
 殺気だった荒くれ者たちが、詩穂を取り囲んだ。
「黄ばんだパンツの尊さに気づかず、ただ汚いといってないがしろにするような悪党どもを、詩穂は決して許しません☆ さあ、かかってきなさい☆」
 詩穂は挑発するかのように、突き出した指を折り曲げて、荒くれ者たちを招いた。
「あちょおおおお、ほおおおおお」
 荒くれ者たちは雄叫びをあげながら、詩穂に殴りかかってきた。
「とおっ、ノーパン、ジャーンプ☆」
 攻撃を避けて、詩穂は、天高く跳躍した。
 どんなに高く跳躍しても、スカートは決してひらひらせず、その中身を明かすこともない。
「ノーパン、キーック☆」
 そのまま、空中で一回転して、自分を見上げて首を伸ばしている荒くれ者たちの後頭部に、華麗なキックを次々に放つ詩穂。
「ぽ、ぽっくりんちょ!!」
「び、びびでばびでぶぶぶぶのぶー!!」
 蹴り飛ばされた荒くれ者たちは、次々に鼻血を吹き上げて倒れていく。
「どうですか☆ ノーパンである分、詩穂は身軽になっているのです☆ これぞ、ノーパン神拳!! 股間がスースーすればするほど、強く、速くなるのです☆」
 着地後も矢継ぎ早に連続パンチを放ちながら、詩穂は勝ち誇って叫んだ。
「よくいうわい。ノーパンとは関係なく、わしを装着しているからこその動きじゃろうが」
 魔鎧として詩穂に装着されている清風青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が、小声でいった。
「こら×2!! ノーパンをバカにするようなことをいってはいけません☆ そろそろ愛の合体技といきましょう☆」
 詩穂は、たしなめるような口調で清風にいった。
「やれやれ。それでは、根性が腐りきった悪漢どもを駆逐するため、より一層の力を貸してやるとしようかの」
 嘆息しながらも、清風は意を決した。
 詩穂と心の波長をあわせ、完全に一体化したうえで、詩穂の力と清風の力とがあわさった、超強力な合体技が発動した。
「くらえ、鳳凰妄執拳☆ あーたたたたたたたたた、ほあた、ノーパンツ、ノーパンチラ、ノーチンチン、ノパーン☆」
 詩穂がたくみなステップを踏みながら無数に繰り出すそれぞれの拳から、「その身を蝕む妄執」が放たれ、うたれた荒くれ者たちを一撃でノックアウトさせ、いつまでも続く悪夢に身悶えさせていく。
「や、やめろ、ここだけはぁ!!!」
 ボコボコにされて倒れこんだ荒くれ者たちは、なぜかみな、目を閉じたまま股間を両手でおさえて、涙を流して首をうちふり、哀願するような叫び声をあげるのだった。
「その妙な掛け声はやめんか。わしまで品位を疑われるわ」
 清風のぼやきなど気にもとめず、詩穂は、ノーパンのまま、駆けていった。
 誰にもみることのできない、スカートの中の、詩穂の秘密の股間。
 その股間は、何にも覆われていないがゆえに、無限の力を生み出していたのである!!
「ああ、走れば走るほどスースーして気持ちいい! エクスタシー☆」
 超高速でダッシュしながら詩穂はニッコリと微笑んで、行く手に立ちふさがる荒くれ者たちを次々にノーパンチしていくのだった。

「く、くそお、このままでは俺たちの獲物を奪われてしまう!! みんな、負けちゃいけねえぜ!! 何が何でも勝つんだ!!」
 荒くれ者たちは、十字架付近での闘いが劣勢になった事実を肌で感じとりながら、なおも奮起しようとする。
 既に、救出された少女たちの何人かが逃げ出しつつあった。
 何とか手を打たねば、という想いが全員にある。
「ハーイ、もがいたってダメダメ! なぜなら、あなたたちは滅びる運命にあるからだよ! なぜなら、この美羽が降臨して、天の裁きを与えるからだよ!!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が、そんな荒くれ者たちの前に立ちふさがった。
 美羽は、二刀流の不殺刀をブンブン振りまわして、荒くれ者たちのただ中に突っ込んでいった。
「詩穂がノーパン神拳なら、美羽はチラリズムを駆使して闘うよ!! パンツは履いてるけど、みて! この、みえそうでみえない、ミニスカートの裾の絶妙なひらひら具合を!!」
 美羽は走りながら、自らお尻を振って、ミニスカートの裾をだいたんにひらつかせながらいった。
「お、おおお! パンツが、パンツがみえるのか!?」
 その微妙な開閉に幻惑された荒くれ者たちが、もっとよくスカートの裾の中を覗きこもうと、屈んで顔を上げた瞬間。
「隙あり!! たー!!」
 相手の防御への注意力が散漫になったその隙をついて、美羽の刀が相手の頭部をうちすえていた。
「は、はわー」
 目をまわしながら倒れ込む荒くれ者たち。
「安心してね!! 峰打ちだよ!!」
 美羽はニッコリ笑ってウインクしながら、疾風のように駆けまわって、襲いくる敵を次々に薙ぎ倒してゆく。
「さあ、目指すは百人斬り! いよー、はー!」
 美羽の叫びが、丘の上にこだまする。
「美羽さん、がんばって下さい! 美羽さんが荒くれ者を倒せば倒すほど、後で美羽根さんの信者になる人が増えていきます!! 百人斬りを達成したら、そのときは私が!!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、ものかげから美羽の活躍を見守りながら、熱い拳を握りしめて、パートナーを心から応援するのだった。
「よし、ずっと隙をうかがってきたが、いまこそ介入のときだ。この混乱に乗じてなら、少女達を救出できる。いくぞ」
 チャンスを待ちに待っていた斎藤邦彦(さいとう・くにひこ)は、やっとときをえたとばかりに動きだし、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)を促した。
「そうね。あの爆発が起きる前に助けられないかと思ったけど、私たちだけで踏み込むには危険な状態だったものね。でも、少女達少女達って、男は女性が人質だとモチベーションが上がるものなのかしら?」
「ああ。か弱い女性が暴力の危険にさらされているとなれば、誰も黙ってはいられないだろう」
 ネルの問いに、斎藤は、特に深く考えずに答えた。
 ネルは、自分のいいたかったことがどこか伝わっていないように感じたが、黙って斎藤についていく。
「あなたは、いつぞやの」
 斎藤の姿をみて、十字架にはりつけにされたまま、ぐったりしていたアケビ・エリカは顔をあげた。
 大爆発を引き起こしてから、エリカは放心状態になっていた。
 何もかも汚された。
 そんな気分がエリカを支配していたのである。
 ここは、やはり他者による救いが必要なときだった。
「久しぶりだね。ハムーザ3世ちゃんは元気かい? ずいぶんボロボロな姿だが、もうちょっとの辛抱だ。この拘束、解くのが大変そうな様子だったけど、俺たち2人の戦士が力を合わせれば、どうってことないさ」
 いいながら、斎藤はネルと力を合わせて、エリカの拘束を解いていた。
「ありがとうございます。ほかのみなさんも、早く」
 露な肩をさらしながら地面に降りたったエリカは、ネルがかけてくれた上着に袖に通しながら、斎藤に頼んだ。
「わかっているさ。しかし、俺たちの他にも人手がいるな」
 斎藤がそういったとき。
「俺に任せて下さい。ピッキングの腕前を発揮すれば、一人でも難しくないんですよ」
 どこかから声がした。
 ベルフラマントで身を隠している紫月唯斗(しづき・ゆいと)が、こっそりと十字架に近づいて、はりつけにされている少女たちが気づく間もなく、拘束を解いてしまう。
「おお、ここにきて仲間が増えたな。俺たちが踏み込んだタイミングは正解だったようだ」
 斎藤はいった。
 紫月は、次々に拘束を解いていく。
 詩穂や美羽の連続攻撃にさらされている荒くれ者たちは、十字架の側をかえりみる余裕がない。
 いまのうちだ。
 斎藤は、できる限り速やかにことを運ぶべきだと考えた。
 この好機は、ぼやぼやしていたらすぐに過ぎ去ってしまうだろう。
「みなさん、解放されたからといってキャーキャー騒がないで下さいね。荒くれ者たちに気づかれたら逃走も難しくなります」
 紫月もまた、こっそり、速やかにことを運んでくれていた。
「何だか、俺たち、こそ泥にでもなったような気分だな。解放しているだけなのに」
 斎藤はふとそんな言葉を吐いて、一人苦笑した。
「わー、よかった。早く、早く! 助けてー」
 解放が近いことに気づいた神崎輝(かんざき・ひかる)が、紫月の忠告も忘れて騒ぎ始める。
 もう、待ちくたびれた心境だった。
「しーっ。俺がやらなくても、ほら、ちょうどパートナーがきましたよ」
 紫月がたしなめるようにいったその言葉を聞いたとき、輝はびくっとした。
「えっ、パートナーって、もしかして?」
「マスター、遅くなって申し訳ありません。やっとたどり着きました!! うわー、何ですか、その姿は。許せない、絶対許せません!!」
 輝の十字架がある丘をみつけて、やっと救出にこられた一瀬瑞樹(いちのせ・みずき)は、無惨な輝の姿をひとめみるなり、怒り心頭に発したようだった。
「えっ? いいよ。怒ってないで、助けてったら! また同じパターンはうんざりだよ」
 輝はもどかしさが再びぶり返してきて、足をバタバタさせた。
「だから、静かにして下さいって。もう」
 2人のやりとりをきいていた紫月は、頭が痛くなりそうだった。
「マスター、私は、マスターをはりつけにした奴を探し出して、シメます! でなければ、気がすみません! 帰れません!!」
 輝を十字架から解放した瑞樹は、鼻息も荒くそういった。
「ふう。助かったー。瑞樹、いいよ。早く帰ろうよ」
「申し訳ありませんが、ダメです。やるときはやるんです!!」
 瑞樹は、完全戦闘態勢に入った。
「おらあ! 悪い奴はどこだぁ!! マスターを傷つけた奴、出てこぉい!!」
 機晶キャノンと六連ミサイルポッドの弾丸を連射しながら、輝は走った。
 どごーん、どごーん
「あがあああ」
 爆発が上がり、荒くれ者たちが炎に包まれる。
「汚物は消毒しないとな!! 全員焼けば、私が探す奴も死んでるってことだよね!!」
 もはや瑞樹は、マスターを傷つけられた怒りのあまり我を忘れて、修羅のような形相で無差別大量攻撃を仕掛けていった。
「ダメだこりゃ。これじゃ、荒くれ者たちが救出に気づくのは時間の問題ですね。急がないと」
 これ以上ないほど騒がれて、紫月はもはや諦めの境地で、解放の作業を一刻も早く急ぐことにした。
「うん? おい、みろ! 女たちが!!」
 美羽や瑞樹の攻撃から逃げまわっていた荒くれ者たちは、十字架の上の少女たちが次々に解放されていることに気づいて、いろめきたった。
「大変よ。奴らに気づかれたわ。この丘から、丸腰で逃げようとしてもダメ。やられる前にやるのよ。あたしが武器を貸してあげるわ!!!」
 茅野菫(ちの・すみれ)は、おびただしい数の釘バットやチェーンを地面に並べて置きながら、いった。
 それらの大半は、血まみれになって倒れている荒くれ者たちの装備品を失敬したものだった。
「みなさん、ここは何とか、闘って脱出しましょう!!」
 おびえて身体が動かない少女たちを導くべく、エリカは自ら率先して、釘バットを拾いあげた。
 エリカの華奢な身体に、釘バットは恐ろしいほど不似合いだったが、それでも、やるしかないのだ。
「さあ、みんな、やるのよ! とってもカオスなことになるわ!!」
 菫は、こちらに向かってくる荒くれ者の大群を指さして、どこか楽しそうな口調でいった。
「とあああああああー!!」
 エリカは、勇気のありったけを振り絞って、威勢よく叫びながら突進していく。
「あっ、アドバイスよ。奴らの弱点を狙うの! 股間よ、股間を攻めるのよ!! あらやだ、あたしったら何いってるのかしら。いやん」
 菫は嬉々とした口調で助言しながら、何となく恥ずかしくなっておおげさに顔を抱えてみせた。
「わかりました!! ゴールドクラッシュ!! とあー!!」
 エリカの振りまわす釘バットが、荒くれ者たちの股間を直撃した。
 きーん
「ぎ、ぎえええええ!!」
 悲鳴をあげて、荒くれ者たちは次々に倒れ、折り重なって身悶えていく。
「これ、すごい効果ですね!! ありがとうございます!!」
 エリカは菫に礼をいうと、他の少女たちを励まして、ともに進んでいった。
 少女たちからまさかの反撃を受けて、荒くれ者たちは気勢をそがれたようだ。
「く、くそう!! だが、俺たちはまだまだ、ゴキブリのようにうじゃうじゃいるぜ! みんなでやれば勝てる!! 特攻だ!!」
 荒くれ者たちは、なお諦めず、少女たちを再びとらえるため、いっせいに群がって襲いかかった。
「はーい! 残らず斬り捨てるよ!!」
 そんな敵たちに、二刀流で暴れまわっていた小鳥遊美羽が突進して、縦横無尽に斬り捨てていく。
「98、99、100! 百人斬り達成だよ!! とりあえず、ベアトリーチェ、お願い!!」
 百人斬りを達成してなお攻撃を続けながら、美羽がパートナーに叫んだ。
「うん、それじゃ。みんな、これは私の気持ちだよ!! 治してあげるね!!」
 べアトリーチェ・アイブリンガーはうなずいて、美羽に峰打ちにされて悶絶している荒くれ者たちのケガを、治療してまわり始めた。
「なぜだ。なぜ俺たちを助けてくれる?」
 痛みがやわらいでいく中、荒くれ者たちは驚きの表情を隠さずに尋ねた。
「理由なんてないけど、あえていうなら、心を入れ替えて欲しいから。もう悪いことはやめて下さいね。もし邪神が起きたら、みんなを夢中にさせた、あのチラリの境地を想い出して下さい」
「チラリの境地! そうか、みえそうでみえないあのスカートの奥のパンツを追い求めるごとく、欲望は寸止めでいけということか! 寸止めでいくときにこそ、あの強大な力が生まれるのか! おお、チラリ、チラリ、チラリズム!! マンセー!!」
 荒くれ者たちは、ベアトリーチェの心意気、そして、美羽のチラリズムの奥義に感嘆の念を覚え、ただひたすら、寸止めのチラリの境地にこいこがれ、尽くせぬ崇敬の念を寄せるのだった。
「チラリー!! チラリー!!!」
「も、もしかしてこれは、彼らの更生の兆候では!? でも、チラリって何なんでしょう?」
 自衛のため荒くれ者たちの股間を釘バットでぶっ叩きながら、エリカは首を傾げるのだった。