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第8章 死神子守り歌

「よし、いまこそ、少女たちを無事に逃がすため、荒くれ者たちとの決戦を挑むとき、生命を賭けて、いま、行くぞ!!」
 松平岩造(まつだいら・がんぞう)は、仲間たちをいっせいに動かした。
 いまや、丘のふもとには、少女たちが十字架にはりつけにされていると聞いて付近から集まってきた有志たちが、群がりながら特攻のタイミングを狙っていたところだったのだ。
「奴らは劣勢とはいえ、その凶暴さは侮れん。わしらの最終的な目的は、少女たちを無事逃がすことじゃ。ということは、大胆さとともに、細心の注意が求められるぞ。死をも恐れぬ覚悟でいくなら、勝機。わしも力を貸すぞ」
 魔鎧として松平に装着されている武者鎧『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)がいった。
「うむ!! 出陣!! うおおおおお!!」
 松平は深くうなずくと、裂帛の気合とともに、駆け出していた。
「勝機、勝機。我らに勝機あり。勇気よ、力を貸せ。必ずや悪漢を葬り弱者を救済せん!!」
 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)もまた、飛翔し、イカロスウィングで空を切りながら、松平の後を追ってゆく。
 空から、地から。
 これぞ、松平たちの鉄の連携攻撃であった。
 そんな松平たちに、真っ向から立ち向かう影があった。
「おや、オレのいるここを通って十字架に向かおうというのですか? いいでしょう。その心意気に敬意を表し、喜んで斬り捨てましょう」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)はそういって、剣を振りあげると、松平に向かってすさまじい斬撃を放った。
「む!? すさまじい殺気だな!! 貴様は!?」
 松平は、リュースの気迫のものすごさに顔をしかめ、自らも剣を払って、刃に刃をぶつけることでこたえた。
 カチーン
 2人の戦士の攻撃がかち合い、金属と金属のこすれあいが火花を散らす。
 そのまま、2人は距離を置いてにらみあった。
「岩造。気をつけろ。こやつ、相当な使い手じゃぞ」
 龍神が松平に囁く。
「そのようだな。貴様は、荒くれ者たちの一員か!?」
「いえ。どちらかというと、少女たちを救出しようとする仲間たちに手を貸しています」
 リュースの答えに、松平は驚いた。
「では、なぜ俺を襲う?」
「オレは、差別はしないんですよ。昔からいいますよね、喧嘩両成敗皆殺しって。オレは今回、仲間とともに女の敵を完全駆逐することにしました。ですが、これほどの乱戦では、敵味方の区別がつかないので、十字架に近づく者は老若男女問わずぶった斬ることにしたのです。いっておきますが、冗談ではありませんよ。生命賭けでやらせてもらいます」
 リュースは、冷淡な口調でそういいながら、その瞳はじっと、松平の隙をうかがっている。
 その殺気は、彼が本気であることをまさに裏づけるものだった。
「むう。油断のならない相手だ。思想は理解できんが、本気で来るなら、容赦はしないぜ!!」
 松平は、全力でリュースと闘う覚悟をかためた。
 やるか、やられるか。
 闘いの場には、その2択しかない。
 お互いの思惑が正しいかどうかなどを詮索している余裕はないのだ。
 それぞれが、それぞれの理由の中で真剣勝負で闘う。
 その点は、荒くれ者同士のケンカにおいても、戦場での戦士たちの死闘においても、変わりはないのだ。
 リュースと松平。
 2人は、互いを睨みあって、一分の隙もみせない。
 と。
「岩造! 1対1の真剣勝負といきたいかもしれんが、ここは少女たちの救出が優先であるぞ。とりあえず2人で力を合わせて、ここを速攻で抜けようではないか!!」
 ファルコンが、空中からリュースに突撃をかけてきた。
 すると。
「おやおや。宙を飛ぶ、このような面白い相手もいるとは。是非ともエネルギーを頂きたいところですね」
 氷雪比翼をはばたかせて滑空するエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、リュースに襲いかからんとしたファルコンに真っ向からぶつかってきたのだ。
 ケンカに紛れて、荒くれ者たちを手当たり次第に襲ってエネルギーを吸収していたエッツェルだったが、ここにきてファルコンに強い興味を抱いたようだ。
「なっ!? 得体の知れない相手であるな。あの剣士よりも遥かに邪悪で、遥かにたちが悪い。いまは、君のような存在を相手にしている場合ではない。去れ!!」
 空中を旋回し、絡みつくように仕掛けてくるエッツェルの攻撃を避けながら、ファルコンは叫んだ。
「これは滑稽なことを。私には、あなたの都合にあわせる義務などありませんよ。あなたが私と闘う理由がなくても、私には、あなたを襲う理由がある。それで十分でしょう」
 エッツェルは笑いながら、自由自在な身の動きでファルコンを撹乱した。
「くっ、通り魔のような奴だ!!」
「ですから、通り魔に襲われたんですよ」
 エッツェルは笑って、ファルコンを圧倒する。
「上空でも決戦が始まったようですね。それでは、宣戦布告したオレからいきましょう!!」
 エッツェルとファルコンのすさまじい空中戦の音を静かに聞きながら、リュースはゆっくりと歩み出した。
 ごお
 すさまじい気迫が松平の身体を揺り動かそうとする。
「ほおおっ」
 松平がその気迫に抗おうとした瞬間、リュースは流れるように斬りつけていた。
「むっ!? とおっ」
 松平は、身体全体を前に押し出し、剣ごとリュースに身体をぶつけることで、相手を弾き飛ばそうとする。
「はああっ」
 リュースはたくみに身体をひねりながら、松平に横から斬りつけようと構える。
 防ごうとした松平の剣とリュースの剣がぶつかり合い、その後も剣と剣がうちあって、二人はいつ果てるとも知れぬ死闘にはまりこんでいった。
 
「リュースは、本当に無差別攻撃を始めたようだな。まあ、いいさ。あたいたちはあたいたちで、女の子たちの救出を計画的に行おうぜ」
 リュースとともに行動しているはずの狩生乱世(かりゅう・らんぜ)は、リュースが言葉どおり無差別に斬りつけ始めたのをみて、ちょっと違和感を覚えないでもなかったが、この隙に救出計画を進められるなら幸いと、前向きにとらえ始めた。
「乱世。油断するな。ここには、奴もきているとの情報が入っているぜ。襲われたときの心づもりをしておかないとな」
 魔鎧として乱世に装着されているビリー・ザ・デスパレート(びりー・ざですぱれーと)が、釘をさすように囁く。
「上等だよ。奴がきてるというなら、あたいのモチベーションはますます上がっていくんだ」
 乱世は、ビリーのいう「奴」を探し求めるような目で周囲を眺めわたしながらいった。
「よう。なかなか骨がありそうだが、何をきょろきょろしてるんだ? そんな余裕が持てないほど激しい修行を一緒にしようじゃないか!!」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が、そんな乱世に襲いかかってきた。
 女など関係ないとばかりにひたすらケンカしながら、自分にふさわしい相手を物色していたラルクである。
 ケンカ三昧の生活を送っていた過去を持つ乱世の本性を、すぐに察知したようだ。
「おっと! これはまた、すごい筋肉だな。でも、パワーだけじゃ勝てないぜ!!」
 ラルクのパンチを真っ向から受け止め、その衝撃に目を丸くした乱世だったが、すぐにまた、ラルクから身を引き離して、二丁の拳銃を連射した。
 どきゅーん!!
「ひゅう、あたいの弾丸を避けるスピードを持ってやがるか。たいした相手だ」
「だから、感心してる余裕なんてないんだよ!!」
 弾丸を避けられて感嘆の吐息をもらす乱世に、ラルクは休むことなく襲いかかっていく。
「別にあたいは、純粋に闘いを求めてここにきたわけじゃないよ。変に見込まれたって困るんだけどな!!」
 乱世は当惑しながら、ラルクの攻撃を避け、次から次と弾幕を放つ。
 ラルクを倒すというより、撹乱して、仲間が少女たちを救出する時間を稼がなければならない。
 だが、相手が相手だ。
 本気で襲いかかってくるラルクを受け流すに徹するというのはなかなか辛いことだったが、それでも乱世はやらねばならない。
(頼むぜ、皆無!!)
 乱世は、仲間の行動が成功することを願った。
「ランちゃん、期待しててくれよ。この俺様が、十字架にはりつけの少女たちを颯爽と救出してみせるからさっ!!」
 尾瀬皆無(おせ・かいむ)は、ラルクと乱世の壮絶な闘いを脇目にみながら、身を隠しながらこっそりと十字架の付近に忍び寄っていった。
「おお、あれがそうか。もう何人かが少女を解放してまわっているぞ。俺様も負けてられない!!」
 皆無は、十字架の上の少女を解放してまわっている有志に合流していった。
「よし、この子たちを解放しよう」
 皆無が近づいてきたのをちらっと横目でみながら、ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)は、ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)を促した。
「よし、時間短縮のため、銃を使わせてもらうぜ。この拘束は、そう簡単には解けないようだからな。しかし、岩造たち、大丈夫か? いきなり強い奴にあたったちまったもんな。ファルコンも妙な奴に張りつかれてしまったし、シャンバラ大荒野のイッてる加減ときたら、想像を絶するよ」
 いいながら、ライオルドは銃口を、十字架にはりつけにされている少女の拘束具に向けた。
「あいつらなら、大丈夫だよ。だてに修羅場をくぐっちゃいないさ」
 ドラニオは、落ち着いた口調でいった。
「だといいんだが!」
 ライオルドは、照準に集中した。
「おい、本当に撃っちまうのか。すげえな。女の子に当てるなよ」
 ライオルドの様子を観察していた皆無は、ハラハラしながらいった。
「必ず解放してくれると、信じています。お願いします!」
 十字架にはりつけにされている天鐘咲夜(あまがね・さきや)は、ライオルドの弾丸が発射されるのを、目をつぶって待ち受けていた。
 どきどき
 ライオルドを信じてはいるのだが、咲夜の胸は、どうしても高鳴るのである。
「本当に時間がない。パッパッといくぜ!!」
 ライオルドの構える銃口が、火を吹いた。
 ずきゅーん、ずきゅーん
「うわー! やばい!!」
 皆無は、思わず目を覆ってしまう。
 ぼと、ぼと
 咲夜の手枷、足枷が弾丸を受けて砕け散り、かけらが地面に落ちてゆく。
 咲夜自身は、驚くほど無傷だ。
「おい。成功したぞ」
 ライオルドは、皆無にいった。
「本当!? うわー、すげー、天才!!」
 皆無は、無事解放された咲夜の姿を目のあたりにして、無邪気に歓声をあげた。
「ああ、よかったです。正直、身体をいろいろされてて、かなり怖かったんです!!」
 咲夜は、胸のうちに熱いものがこみあげるのを覚えながら、皆無にしがみついていった。
「もう大丈夫だぜ。さあ、俺様の胸に抱かれな!!」
 皆無は両腕を開いて、もたれかかってきた咲夜を抱きしめた。
「ところで、いろいろって、どんなことをされたんだ? よかったら聞かせてくれよ」
「おい、なに口説いてんだよ。助けたのは俺だろうが!!」
 咲夜の髪を撫でながら優しく問いかける皆無に、ライオルドが不機嫌そうな口調でいった。
「貴様ら、やめないか。岩造たちが真剣に闘っているのに、女のとりあいなんかしてる場合じゃないぜ。争いがエスカレートすると、ここの荒くれ者たちと見分けがつかなくなるからな。とりあえず、ライオルドは隣の十字架の子を助けて欲しい。皆無とやら、その子はまず傷んだ身体を治す必要がある。俺の方に連れてきてくれ」
 ディオンは呆れたような口調でいうと、皆無が解放した咲夜にヒールを施そうとする。
「やれやれ。時間がないといったのは俺だったな。じゃ、超高速で次の子を助けるぜ!」
 ライオルドは舌打ちして、咲夜がとらわれていた十字架の、隣の十字架にとらわれている少女を解放しようと、銃口をそちらへ向けた。
「もう、ここの殿方ときたら、みなさん乱暴なんですから! 解放してもらうのは嬉しいのですが、拘束の解き方もバイオレンスなのですね。でも、あなたたちを信用しますわ。どうぞ、お好きになさって下さいませ」
 咲夜の隣の十字架にはりつけにされている、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)がいった。
(お好きになさって下さいませ、か。くー、萌える表現だぜ。ああ、本当に、俺の好きなように料理したいところだけど!! ここは自分を抑えなきゃ)
 などということを脳裏で考えながら、ライオルドは、セレアの拘束具に慎重に狙いをつけ、連続の銃撃を放った。
 ずきゅーん、ずきゅーん
 ぼと、ぼと
 セレアの拘束具が破壊され、解放された少女は、銃を手にしているライオルドの胸に倒れこんできた。
「あっ、おいおい」
 ライオルドは、内心ドキッとしながらも、セレアの肩をつかんで、背中をさすってやった。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます。実は、わたくしたちにも頼もしい方がいらっしゃいまして、本当はその方が助けてくれるはずだったのですが、すっかり闘いに夢中になってしまい、困ってしまっていたのですわ。もっとも、そういうひたむきなところもあの方の魅力なのですが」
 ライオルドの問いに、セレアはニッコリ微笑んで答えた。
 拘束されて、いろいろイタズラされていたはずだが、にも関わらず、セレアは清楚で可憐な雰囲気を失っていなかった。
 ライオルドは、ますます胸が高鳴るのを覚えた。
「はい、ライオルド、この子は身体が痛んでるから、すぐに回復役に渡して! セレアさん、大丈夫よ、私のパートナーはこれをチャンスに口説いてやろう、なんて邪なことは考えてないから。ね?」
 エイミル・アルニス(えいみる・あるにす)が、セレア、そしてライオルドにニッコリと微笑みながらいう。
 最後の言葉は、ライオルドからみると釘をさしているかのようだった。
「わかったよ。ほら」
 ライオルドは、セレアの身体をエイミルに預けた。
「セレアさん、ほら、ヒールをするよ!!」
「はい、ありがとうございます。みなさん、お優しくて、感激ですわ」
 エイミルの治療を受けながら、セレアはニッコリ微笑んで、礼をいった。
「しかし、2人とも、頼もしい仲間がいるっていうけど、いったいどんな奴なんだ? 俺様にいわせれば、こんなに可愛い仲間を放っておいてバトルに夢中になるなんざ、ろくな奴じゃないぜ。そうだな、まるで、あいつみたいでさ。うん?」
 皆無は、解放された2人を眺めながら、そこまで話していて、思わずはっとした。
 そういえば、目の前の2人をどこかでみたことがあるような気もする。
 まさか。
「でも、健闘くんって、闘っている姿も素敵なんですよ。今日なんか、いつもより熱く闘っているようにみえて、私とセレアさんのためにそこまでがんばってくれるなんて、と、はりつけにされながら感動して、涙が出てしまったりしてたんです。ううう」
 皆無の想いをよそに、咲夜はいまどこかに行ってしまっているらしい仲間のことを思いだして、再び流れだした熱い涙で濡れた頬をハンカチで拭うのだった。
「げっ、健闘!? やっぱり!! いま、どこにいるんだ?」
 嫌な予感が的中した皆無は、頭をかきながら尋ねた。
「さあ。あまりに熱いバトルに夢中になって、舞いを舞うようにしてどこかに行ってしまいましたけど」
 セレアがそういって、首をかしげたとき。
「うひょー、いい女ばかりじゃないか!!」
 すっとんきょうな声をあげながら、全身生傷だらけのコルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)が現れた。
「コルフィスくん!! 闘ってたんじゃないんですか? 健闘くんはどうしたんですか?」
 仲間の姿を目にした咲夜は、頬を上気させて、テンションの上がった口調で尋ねた。
「さあねえ。勇刃につきあって闘いやってたら、身体がいくつあってもたりないと思ってね。みてよ、この傷。ちょっとやりあっただけでこれだ。野蛮人の相手なんてしたくないね!! それはそうと、ここはまさに、俺が求めていたハーレム・パラダイス!! せめて一人ぐらい落とさせて欲しいね、プリーズ!!」
 はしゃいだ口調でそういって、くるくると身体を回転させて軽快なダンスを踊りながら、コルフィスはエイミルの肩に手を置いて話しかけていた。
「はい、癒しの女神さま!! こんなところでヒーリングなんて、さぞお疲れでしょう。どうです、このバラの花束の匂いでもかぎませんか?」
 ニコニコ笑いながら、エイミルの鼻先に花束を突き出すコルフィス。
「えー!? わー、ありがとう! くんくん。あー、いい感じ!!」
 戸惑いながらもバラの匂いをかいで、喜びの笑顔を浮かべるエイミル。
「ちょっとあんた、俺のパートナーに軽々しく触るんじゃねえよ。あまり調子に乗ってると撃つぜ?」
 ライオルドが顔しかめて2人の間に割って入ると、コルフィスに銃口を突きつけた。
「わー、ま、待ってよ! そ、そんな! 話せばわかる! って、お姉さん、あなたもよくみればいい女じゃないのー!!」
 顔を真っ青にして両手をあげたコルフィスだったが、ライオルドが女だと気づくやいなや、抱きつかんばかりに歩み寄っていった。
「よ、寄るな! 本当にやるぞ!!」
 ライオルドは嫌悪感のあまり身を震わせて、銃口をコルフィスの鼻先に突きつけようとした。
 すると。
 ずきゅーん!!
 ライオルドの指がうっかり引き金をひいてしまって、銃が暴発した。
「お、おわあああ!!」
 撃ち出された弾丸が鼻先数センチの空間をはしりぬけるのを目にしたコルフィスは、絶叫をあげて飛びすさった。
「あはは、悪い悪い。だが、これで少しはおとなしくなって欲しいぜ」
 コルフィスの驚愕ぶりに思わず吹き出してしまったライオルドは、肩の力を抜いてリラックスした心境になることができた。
 そのとき。
「おい。いまの銃声は!?」
「あっ、また十字架の女が解放されているぜ!! おい、俺たちのものだ、返せー!!」
 荒くれ者たちが、ひときわ高い銃声に気を止めて、ライオルドたちの所業を発見するやいなや、鬼のような形相でいっせいに襲いかかってきたのだ!!
「う、うわー! やばい!!」
 皆無は絶叫した。
「戦闘態勢だ!! みんな、さがって」
 ライオルドが、銃を乱射し始めた。
「大変だよ、勇刃、こっちきてくれよー!!」
 コルフィスが絶叫する。
「えっ、待てよ、そいつは呼ぶなって!!」
 皆無は、コルフィスを制止しようとした。
 だが、間に合わなかった。
 彼は、きてしまったのだ。
「おお、咲夜とセレア、あとコルフィス、大丈夫か!? ちょっと遠征してたけどな、いま帰還してやる! 安心しろ、俺が戻れば百人力だ!! 全員ぶっ殺してブタのエサにしてやらあ!!」
 威勢のいい声が向こうからしたかと思うと、丘の反対側で闘っていた健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)が現れた。
「あっ、健闘くーん!! わー!!」
「健闘様!! きっときてくれると、お待ち申し上げていましたわ!!」
 咲夜とセレアが、歓声をあげた。
「あー、きちゃったよ。あいつ、来て欲しくないんだよ。仲間が過剰に反応するから!! もう、なるようになれだ!!」
 皆無は、胃が痛くなりそうなのを必死にこらえて、覚悟を決めようと努力した。
「おうおう、へたれメガネの兄ちゃん!! なに、セフレの前でかっこつけてんだよ!! でかい口聞く前に少しでも殴ってみせろ、くぉら」
 荒くれ者たちは、突如現れた健闘に対する敵意を剥き出しにして叫んだ。
「んだぁ!? 俺がへたれメガネだとぉ!? いってくれたな野良犬ども!! 怖いもの知らずもいい加減にしろっつうんだよ!! それじゃ、面倒だからさっさと狩らせてもらおうか!!」
 健闘は絶叫して熱血のオーラを全開にさせると、手にした大量のコインを力いっぱい投げつけた!!
「そーりゃ、持ってけ泥棒、ゴルダ投げ!! てめえらの生命とひきかえに少しかじれや!! ふくはーうち!! おにはーそと!!」
「いってー!! ちくしょう、ちまちました技を!!」
 健闘の放ったゴルダ投げをくらった荒くれ者たちが、悲鳴をあげて逃げ惑う。
「くそが、ちまちまでは終わらねえぞ。この程度でわめく奴らが俺と闘うなんざ、まだ百千億年早いぜ!! たー!!」
 健闘は天高く跳躍し、荒くれ者たちのまっただ中に急降下しながら、手にした剣を豪快に振りまわした。
 ざくざくざく
「しげあああああ」
 健闘の剣にミンチにされた荒くれ者たちが、悲鳴をあげて倒れていく。
「なめんな! 根性みせたらあ!!」
 ドスを抜いて突きかかってきた荒くれ者たちを、健闘はマシンガンで掃射する。
 ずだだだだだだ
「おごわああああ」
 荒くれ者たちは無数に弾丸に身体を貫かれて激しく痙攣し、死のダンスを踊り狂った。
「根性みせたらさっさと昇天しろやあ!!」
 健闘は血まみれの荒くれ者たちにスタンスタッフを押しつけ、電気ショックで断末魔の悲鳴をあげさせた。
「ふははははははは!! いい気分だ!! やはり戦場はこうじゃなくっちゃなあ!!」
 健闘は腹の底から愉快そうな笑い声をあげる。
 咲夜とセレアのことは、忘れてしまったようだった。

「む!? オレとして、許容範囲外の存在が現れましたね。それでは、勝負はまた次回に!!」
 松平岩造と死闘を繰り広げていたリュース・ティアーレは、健闘の笑い声を耳にするや否や、松平がゾッとするほどの憎悪を剥き出しにし、眼前の相手である松平にくるりと背を向けて駆け出した。
「うん、待て! どこに行く!!」
 松平は、つられて後を追った。
「岩造。十字架に接近するのか。私も行こう!!」
 エッツェル・アザトースと凄絶な空中戦を繰り広げていたファルコン・ナイトも、パートナーの移動に気づいて追おうとする。
「おおっ、まだ吸っていませんよ!!」
 ファルコンの離脱を、エッツェルが妨害しようとしたとき。
「おら、タコ!! てめえの相手は私だー!!」
 坂上来栖(さかがみ・くるす)が絶叫して地上から高く跳躍したかと思うと、空中のエッツェルの身体をつかんで、無理やり地面へと引きずりおろしていった。
「おやおや。とっくの昔に荒くれ者たちのえじきになっていたかと思いましたよ。実に威勢のいいお方ですね。それにしても、タコとは」
 エッツェルは、絶叫しっ放しの坂上の気迫を前に、にやあっと嬉しそうな笑みを浮かべて、いった。
「だって、しょうがねえだろ! てめえの身体は部分的にタコに似てるんだよ! 邪悪そのものなんだよ!!」
 坂上は、エッツェルを一刻も消し去りたいという、無意識の衝動に身体を突き動かされていた。
 なぜ、そんな衝動が出てくるかはわからない。
 だが、神父である坂上にとって、エッツェルの放つオーラはあまりにも悪に染まりすぎていた。
 その悪は、後天的なものではなく、何というか、原初の悪であり、原始的な恐怖心を煽る唾棄すべき存在なのだ。
「おやおや、邪悪そのものだなんて、異端の神父よ、あなたも自分の姿を振り返ってみてはどうですか?」
 エッツェルの冷淡な言葉に、坂上はいよいよ逆上した。
「かー!! もう許せねえ!! 殺す、消し去る!! バラバラミンチリンチタコ殴りフルボッコだー!!!」
 坂上は目を血走らせ、歯を剥き出しにして、獣のようにエッツェルに襲いかかっていく。
 その姿は、もはや神父にはみえない。
「愉快な方ですね」
 再び笑い声をあげながら、エッツェルはファルコンは放置して、坂上という好敵手と闘う覚悟をかためていた。

「おっと。リュースが急に動き出したな。ってことは、健闘が出しゃばりだしたか。かー、奴のことを想い出すだけでイライラする!!」
 狩生乱世もまた、健闘の出現の気配を感じて、ありったけの呪詛の言葉を吐き出そうとしたとき。
「健闘、ですか。あの方をみていると、全身が総毛立って、怖気がわいてきます。恥を知らない人でなしですから、はりつけにされている少女たちにも、ろくなことをしないでしょう。滅ぼすべき敵は、荒くれ者たちのほかにもいるということです。いえ、あの方は破廉恥な荒くれ者と同じです!!」
 アン・ブーリン(あん・ぶーりん)が興奮した口調でまくしたて始め、弓を手にして、健闘のいる方向に向かって駆け出していった。
「奴の本性を本能的に感じとったか。アン、あんたの勘は冴えてるよ! 奴は王子様の器じゃない。王子様の皮をかぶった狼だ! 存分にやっちまいな! 狼を狩ったらみんな喜ぶさ!!」
 乱世はニヤッと笑って、アンがしたいようにさせることにした。