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リアクション
「がっこーとか通ってないヤツらばかりで、目先のことしか見えねーみたいだ」
頭を掻きながら、神楽崎優子の元に、1人のパラ実生――高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が近づいてきた。
「いくつかのグループで競い合ってるみてーだけど、仲介とかなら出来るかもな」
「おう、頼むぜ。オレも一緒に行くけどなァ」
答えたのは、ゼスタと共に到着を果たした若葉分校、番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だ。
「めんどくせー。戦って勝ったグループが全部お宝入手でいいじゃねーか」
「そうだそうだ。全部若葉分校のものだー」
竜司の後ろで、活きのいい若葉分校生達が騒いでいる。その中にいるゼスタも同じような発言をして、優子に睨まれている。
「喧嘩はだめよ。せっかくお宝を手に入れても、治療費で飛んじゃうでしょ?」
後方から現れたのは、かつて若葉分校をしきっていた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だ。
「でも、お宝探しは分かりやすくていいわよね。どうかしら?」
「そうだな、説明しやすいと思う。けど、こっちのメリットは? 探し出しても持ってかれたんじゃ、話になんねーんだけど」
亜璃珠の言葉に、悠司がそう答える。
「鑑定を担当してくれる人もいるから、ここで鑑定して、換金でどうかしら? 政府や軍に協力者としての貸しも作れるわ」
「いや、貸しと思われるのはマズい。特に軍は関係ないんでそう思われないようにしてほしい。対等な取引ということで頼む」
パラ実生とふざけていたゼスタが、突如口を挟んできた。
そして、発見したものや、既に売ってしまったものを買い戻して政府に提供することにより、若葉分校に携帯電話の基地局を設置すると政府が約束してくれたと、話す。
ふむふむと悠司は頷いていく。
実際は軍からの依頼で優子達は訪れていたが、政府との取引として持ちかけることが求められている。
軍は暴力団や無法者に対して、下手に出るわけにはいかない。国民の信頼を失ってしまう。
パラ実生が今回の件を利用し、軍と取引をしてやった、貸しを作ったと触れ告げたり、軍に何らかの要求をしてきた場合。
神楽崎優子は留学中に軍の名を貶めて去っていったと、彼女は一部の教導団員に疎まれるだろう。
ロイヤルガードの権力を上げる為に、わざとそうしたのではないかと。そんな噂も簡単に広がってしまうものだ。
些細なことから、大きな対立につながってしまう可能性がある。
関わる人全てに利となるように。
それが今回、彼女に課せられた任務だ。
「その方法なら乗せやすいんだろうけれど……。亜璃珠はやっぱりパラ実気質だよな。パラ実生をよく解ってるというか」
振り向いた優子が軽く笑みを見せた。
優子はどちらかといえば軍人思考、教導団寄りだ。
だから、守るために戦う事は出来ても、他の頭の固い軍人と同様に、説得はまるでできていなかった。
「道中話は聞いた。オレらに任せておけ、オレに頼ってくるなんて、カワイイとこあるじゃねぇかァ。ぐへへへへへ」
竜司がグローブのような手で、優子の肩を叩いた。
「すまない。吉永達には、いつも頼ってばかりだな」
「いいってことよォ。こっちとしても得になりそうなことだしなァ」
再び奇妙に笑うと、竜司は避難している不良達に、分校生達と近づいていく。
「よーするに、宝探しで見つけてくれたら金払うし、売り払ったものも情報渡せば不問て訳だ」
説明を聞いた悠司は、首を大きく縦に振った。
「悪くねー条件だ。ただ、保証がないのは怖いしねぇ。その携帯局建てるのはこっち主導にさせてもらおーか。納期ぶっちぎったら船のパーツは帰ってこねーぞ?」
「こっち主導?」
「名前だけだが、工事監督みてーな立場で、作るのを見晴らせる」
「それなら雇っちまえばいいかもな。日雇いバイトがいたら助かる」
「なるほど、金に困ってる奴らはより乗りそうだな。あと、携帯持ってねー連中には支給して欲しーんだけど」
「全員って……何十人いるんだよ」
ゼスタが眉を寄せると、悠司は近づいて小さな声でこう言う。
「……ぶっちゃけ、原住民が携帯知ってるかも怪しいし、日頃見れるようにしといて勉強させといた方が良いだろ。あと、働き口がありゃ働きてーっていう奴もいるかも知れねーし」
「んー、そりゃそうだけど、携帯電話を持てんのかどうかってことや、月額使用料をたかりに来ないかという心配がある。じゃ、まあ、若葉分校に電話、ネット部屋を設けるってことでどうだ? 基地局設置後は、分校には金の入る仕事はねぇが、ネットでバイトを探したり、小遣い稼ぎをするのは自由だし」
「そうだな、それじゃそういうことで」
悠司はゼスタと相談を終えると、まずは竜司が対応しているグループの元に向かっていく。
「強制的な武力による排除や、過大な威嚇行動はしないでください」
ジャジラッドのパートナーのザルク・エルダストリア(ざるく・えるだすとりあ)は、デジタルビデオカメラで撮影しながら、ゼスタ……それから、岩陰に待機している龍騎士団に言う。
「ここはシャンバラのルールが通用しにくい地ですから。勿論、エリュシオンのルールもです。争いの火種になるようなことは、避けておいた方が良いでしょう」
「恐竜騎士団副団長もそんな考えだ。どうやら契約者や恐竜騎士団員で敵対してくる奴はいないようだ」
ザルクの言葉に続けて、ゼスタがそう言った。
「我々だけでも軽く制圧できそうだがな。だが、我等はシャンバラの内乱を望んでいるわけではない。必要なければ、我等はここに留まり、見守らせてもらう。しかし、部品を持ち逃げするようなものがいた場合は、拘束させてもらうぞ」
ルヴィルのその言葉に。
「はい、そのようにお願いします」
敬意を払い、優子はそう答えた。
「てめぇら、伏せとけよー! ヒャッハー!」
竜司はハッチの傍にいる不良達に近づくと、飛んで飛び出してきた機晶姫を等活地獄で殴り飛ばして、格納庫へと落とす。
「邪魔な奴らのことは、オレの女の下僕達に任せておけばいい」
「オレの女ァ?」
「ああ、探索に来たコイツらを束ねてんのは、オレの女――神楽崎優子だ」
「神楽崎優子……聞いたことあるような、ないような」
「若葉分校の総長、C級四天王だ。東のロイヤルガードとかも仕切っている」
多少?事実と違う説明だが、不良達は改めて優子を見て、確かに見たことがある人物だと気づく。
「でなんだァ? 若葉分校もここの宝を狙ってんのか、吉永番長よぉ」
不良達は、竜司のことは知っているようだった。
「てめぇらは手に入れたらどうせ売り払うのが目的だろ?」
竜司は、ボスと思われる人物に既にここで手に入れた物、これから発見した物を自分達に提供してほしいと話していく。
「ブツはオレの女が買い取るし、調査に協力したら、協力の対価として若葉分校に携帯基地局が設置される」
「あ? 買い取りはともかく、携帯なんとかは、てめぇらが特になるだけじゃねェか」
「若葉分校に設置される携帯やパソコンは、誰でも自由に使えるらしい。分校側が約束を守るかどうか気になる奴や、金が必要な奴は、基地局設置のバイトとして監視をすることも出来る。まあ、悪くはないと思うけど?」
悠司が竜司の後ろから、交渉で勝ち得た、新たな条件をつけ加えた。
無理して発掘しなくても、金を得ることが出来るという条件は、一部の生活がかかっている不良達の心を強く引き付けた。
「若葉分校に基地局ができりゃ、大荒野でも携帯が使える場所が増える。電波は若葉分校のモンじゃねェ。お前等も皆、携帯使い放題、ネットし放題だぜェ」
エロサイトも見放題だ!
地球人と契約したきゃ、ネットで探す事も出来るんだぜ!
などと、彼らの興味を引いていく。
更に。
「オレの女はロイヤルガード隊長で総長。要するに若葉分校はロイヤルガード並の分校というわけだ」
基地局が出来れば携帯でやりたい放題!
百合園女子も遊びに来るので出会いは豊富!!
分校には雑魚寝が出来るホールがある。大荒野で寝泊りの心配をしなくても良くなる!
農家の仕事を手伝えば、分け前くらいはもらえる。つまり、食う事に困ることもない!
恐竜のペットや元従恐竜騎士の舎弟もいるすごい分校なんだぜ!
と、若葉分校への勧誘も行っていく。
「……まあ、悪くはない話だな。地球のアイドルが見れんなら」
ボスらしき人物が言った。
よくよく見てみると、彼は地球のアイドルのロゴが入ったシャツを着ているではないか。
「勿論、見放題だぜェ。ブログも覗き放題だ。書き込みだって出来る」
「買い取り額にもよるけどな、額にも」
そう言いながらも、不良達は乗り気になっていく。
「おし、危ねぇ機械は優子の下僕に任せといて、オレらは喧嘩はなしで、お宝探索といこうぜ!」
「おー!」
そんな風に、竜司は悠司の口添えを得ながら、不良達を説得していくのだった。
「こん中にあった、部品、何処で売ったんだ?」
又吉は黄金色の菓子をちらつかせながら、現地人のパラ実生に尋ねる。
「キマクだよ。買戻しなんて、メンドーだからやだね」
「10倍で買い取ってくれんなら考えるけどさ〜」
そんなことを言いながら、パラ実生達はぎゃははと笑い合っている。
「もうちっと正確な場所教えてくれるか?」
言いながら、ちらちら黄金色の菓子を見せる。
「南西の外れにある換金屋だよ」
「たいてーそこじゃね? 近場だしな」
黄金色の菓子をじっと見ながらパラ実生達はそう答えた。
「あー、俺だけど。又吉城の補修部品、南西の外れにある換金屋で大半売られたみたいだぜ」
又吉はすぐに、武尊に携帯電話で連絡をする。
「お怪我、治しますね」
又吉の傍で、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は負傷しているパラ実生達をリカバリで癒していく。
それから、彼らに対して、貴賓への対応をするかのように、礼節を尽くして頭を下げる。
「格納庫内に残されている部品や図面捜索を手伝ってはいただけないでしょうか」
誘惑、説得、根回しといった特技、能力を発揮しながら、シーリルは頼んでいく。
「金出すっていうのならなー」
「それとも、別のもので払ってくれるか?」
にやにや笑みを浮かべて、パラ実生はシーリルに迫ってくる。
とはいえ、シーリルもパラ実生。
こういう場合の対処法も知っているので問題はない。
「ええ、お金以外の報酬もあります」
にっこりと微笑んで、やる気を出させる。
心の中では、お金以外の報酬=友情、などと純粋に思いながら。
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