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リアクション
「持ち出された修理パーツも、恐竜騎士団員のわたくし達が買い取りますわ。買戻しに協力してくださる方がいましたら、申し出てくださいませ」
ジャジラッドのパートナーのサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)は、そんな風に、振れて回ったり、ビラを配って買い取りの知らせを広めていく。
立ち退きを要求したり、争いになるようなことは決してしない。
この取引での利益を得るためではなく、連携を組みたい者達と関係を築く為に、サルガタナスも協力的に動いていた。
「さっき、キマクで売っちまったんだよ。この情報だけでも買ってくんない?」
不良が2人、サルガタナスに近づいてきた。
「いいですわ。ですが、代金はキマクにいる仲間から受け取っていただきます」
サルガタナスは、メモを持たせてキマクで動いている国頭 武尊(くにがみ・たける)の元に、不良達を行かせた。
「ただいま、ユー子」
「おかえりなさい、ぜす太」
小さな女の子がお人形さん遊びをしている。
……ただし、使っている人形は、四肢をもぎ取った機晶姫と、胸部に大穴の空いた警備型機晶ロボットだ。
「んちゅー」
メリメリと音がするほどに、機晶ロボットの頭部を機晶姫の頭部に押し付ける。
「ぜす太、ごはんにする? おふろ? それとも、わ・た・し?」
「ぜんぶだ」
「そういうとおもって、わたしのはいっていたおふろにごはんをまぜておいたわ」
「ぐれーとだ、いただきます。ぶくぶくぶくー」
「あぁ、ぜす太! やめてそんなにしかたじゃ『じさつ』にみえて、ほけんきんがっ!!」
「……何をやってるんだ、アレは」
名を呼ばれたような気がして、神楽崎優子が人形遊びをしている女の子――アルコリアに目を向けた。
「わっはっはっ、途中までは、俺と未来の優子チャンのほのぼの夫婦生活だな♪」
とか言いながら、ゼスタは優子の肩に手を回そうとして、躱される。
「とーう!」
そんなゼスタに、リンがタックル。
「あたっ」
ゼスタは大げさによろめく。
「久しぶりー」
びっと手を上げたリンに、ゼスタは笑みを見せた。
「なんか色々無茶したんだって? あまり手の届かないところでやんちゃするなよ、リンチャン」
「あたしは平気だよ。それよりぜすたん、ケガしたんだってね。もう大丈夫?」
じっとリンはゼスタを見る。
「大したことはない」
彼はそう言って笑っていたけれど、彼と、その場にいた者達がかなりひどい怪我を負ったことは、リンの耳にも入っていた。
「そうだ、ぜすたんにもチョコあげるよ」
はいっと差し出したのは、バレンタインのチョコレートと、エアチョコだった。
「サンキュ! あとで大事にいただくな……ん?」
チョコレートと一緒にカードがついていた。
カードに書かれていたのは、リンからのメッセージではなくて『食べると憧れの人からチョコを貰った気分になれる不思議なチョコ』という、エアチョコの解説文だ。
「憧れの人かー。誰からもらった気分になれるんだろうな」
くすりと笑いながら、ゼスタはそう言った。
(……水仙のあの子の傍にいなくて良かったのかな。心配じゃないのかな)
リンはちょっと気になって、ゼスタをじっと見つめるが、彼はいつもと変わらない様子だった。
「あと、神さまにも……」
リンはふと思い出して、ごそごそともう一つチョコレートを取り出す。
「ぜすたん、また後でね」
それから、龍騎士団の方へと走っていった。
「こんにちは」
声をかけて近づいて。
「ありがとうございました」
ルヴィルにきちんと礼を言い、カードを添えてチョコレートを差し出す。
「なんのことだ」
「アルカンシェルが空京に向かった時に、助けてもらったんです。第七龍騎士団のみなさんでどうぞー」
リンはにこっと笑みを浮かべた。
ルヴィルは覚えていないようだったが、厳めしい表情のまま、チョコレートを受け取ってくれた。
「なんだ! ぜす太とかユー子とか!?」
シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が、血相変えてアルコリアに近づく。
「ほ、本人が見てるじゃないか。さすがにこれ以上はやめておけ」
突っ込んでも不毛だとは分かっていたが、優子や堅物教導団員の目が気になって、シーマはアルコリアを止めようとする。
「ねーね、アルコリア。お人形さんごっこにあれ奈も混ぜてあげてよ、きゅふふっ」
とか言いつつ、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が拾った手首っぽい何かをぷらぷらとアルコリアに差し出す。
「あれ奈は混ぜるな。今より人形劇がドロドロになる……」
そんなシーマの言葉は勿論アルコリアの耳には入らない。
「あれ奈、よくかえってきたね。どんなすがたでも、あなたはわたしたちのこどもよ。さあ、おとうさんとあそんであげて」
手首っぽい何かを、アルコリアは機晶ロボットの首にがんがんぶつける。
「だから、やめとけって」
「煩いな。みんな楽しんでるのに」
ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)がそう言って、小石をぽーんと蹴った。
「いや、みんな引いてるだろ?」
「煩いよ。んーとね」
ラズンは小石を一つ拾い上げたかと思うと、突如地面に叩きつける。
「アルコリアがさっきの天の炎だとするとシーマはこれくらい」
「どういう意味だ」
「あれ奈、やりすぎよ、あれ奈、それじゃ『たさつ』にみえて、ほけんきんがーっ!!」
「だから何の人形劇だっ!」
優子達の視線が痛くなり、決死の覚悟で、シーマはアルコリアの人形劇の中に飛び込んだ。
途端。
「この作品はフィクションです。実在の人物・出来事に一切関係がありません」
大人の姿に戻ったアルコリアがキリッと明言。
「いやそれはそうだろうけど、うおっ」
子供化したアルコリアが使っていた機晶姫は完全に壊れていたわけではなく。
押さえようとしたシーマに、ゴスゴス頭突きをかましてきた。
「あれ? なにしにきたんだっけー?」
アルコリアがきょとんとする。
再び子供になっている。
「シーマちゃんおにんぎょうとなかよしなんだね」
「違う、断固違うと否定する、うぐっ」
また子供化したアルコリアの言葉に、頭突きをされつつ、シーマは答えた。
「たくさんたくさんたのしいなー、きゃはは☆」
ラズンはガンガン壁を叩き始めている。修理パーツが落ちてくるかもしれない〜、たなぼた〜とか言いながら。
「見なさい、マイロードの魅力を! 偉大さを!!」
視線が集まる中、ナコトは天の炎で再び演出。
アルコリアの偉大さを不良達に知らしめようとする……。
「なんだ、このわけのわからん惨状は……いや、いつも通りだ、平常だ」
ボロボロになりながら、シーマは呟いた。
「むぅーん。いくら4までしか数えられなくても、パラミタがピンチなのは何となく聞いてますしょう〜?」
パラ実生のキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)は、赤ちゃんのちび ちゃん(ちび・ちゃん)を抱っこしながら、比較的若い、少年少女が集まるグループに話しかけていた。
「キャンティちゃんはおっきな空飛ぶ船に乗って、お月さままで行ってきました」
そこで、起きたこと。教導団の偉い人と話した事。
まだ月に残っている人もいて、また行かなければならないこと。
皆の協力が必要だということを、子供の言葉でわかりやすく話した。
「あなた達もこの話を聞いたんですから、パラ実の仁義があるなら、ちゃんと話をきいて納得したらお手伝いしてほしいですわ〜だって、もし失敗したらみーんな死んじゃうんですのよ?」
「大人に任せておけばいいんじゃね?」
「月とか、別の世界とか、遠い話だよな〜」
話が壮大過ぎて、言葉の意味はわかっても、彼らには難しすぎるようだ。
「そういえば自己紹介が遅れましたが、私、大荒野で【温泉神殿】を管理させて頂いております、聖・レッドヘリングと申します」
キャンティの隣で見守っていた聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が、ちびちゃんの頭を撫でながら、少年少女達に自己紹介をした。
「はあ?」
「お、ドラゴニュート?」
少年少女達は、キャンティや聖よりもキャンティの腕の中でうとうとしている、愛らしいちびちゃんに興味を示している。
「ええ。子供を連れていますので、私達は探索を行えません。それで、どうでしょう? もし宜しければ、この探索が無事に終わりましたら皆さまを温泉にご招待させて頂きたいのですが」
ぴゅっと冷たい風が吹く。
外はとても寒かった。格納庫の中も雨風は防げるとはいえ、暖房装置は稼動しておらず、寒いことに変わりはない。
「折角の事でございますし、こちらが必要とするものを発見することができましたら、温泉も美味しい食事もお代は結構でございますよ」
「おー、そりゃいいな。けど、動物が利用してる天然温泉とかじゃねぇだろうな?」
「いえ、そんなことはありません。きちんと整備された温泉ですよ。更衣室も完備されていまして……そうそう」
聖は男湯の更衣室に豪華な額入りで飾ってあるとある物について、説明を始める。
「私も同行させて頂きましたパラミタの月……その時同行して下さった、あの、ロイヤルガード樹月刀真様が、ニルヴァーナへの道を開くという筆おろしを行われました記念に、彼の『チン拓』を温泉に展示させて頂いております」
「はぁ?」
反応を示したのは、体つきのいい、ゴリラのような少女だ。
「ああ、男湯の更衣室のみですから、女性の方はお気になさらず。男性の方は、是非ともそちらも楽しみにお越しください。【ハーレム王またの名をリア充】であり【童貞】である樹月様のチン拓、モテ道へのご利益がきっとございますよ」
「なんだか分からないが凄いのか?」
「ええ、世界に1つしか存在しない、凄い一品でございますよ」
「まてっ!」
ぐわしっと、先ほどの少女が聖を掴んでくる。
一般人とは思えない怪力だった。
「そーゆーのは、女子更衣室に置くモンだろ。参考に!」
「は……はい。申し訳ありません」
見たいのは男じゃねぇ、女だー。とか言いだした少女の迫力に、聖は思わず謝罪してしまった。
「では、お越しいただいた時には、男湯と女湯を定期的に交換するということでどうでしょう」
「それなら、まあ……」
なんだかちょっと赤くなって、少女はぷいっと横を向いた。
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