校長室
死いずる国(後編)
リアクション公開中!
基地の中へ―― PM22:30(タイムリミットまであと1時間30分) 横須賀基地。 死人とコームラント・ジェノサイドをかいくぐった理子とハイナたちは、とうとうこの場所にたどり着いた。 「着いた……だけど」 血の匂い。 がらんとした基地内。 ここで一体何が起こったのだろう。 ひと目で、異常事態だというのは分かった。 「上だ!」 「え?」 聞き覚えのある声と同時に、頭上から降ってきた。 死人が。 警戒を続けていた旭が、即座にそれを切り捨てる。 「遅かったじゃん……もう、来ないかと思ったよ」 理子たちの目の前に出てきた声の主、それは横須賀基地への先行侵入を果たしたリナリエッタだった。 しかし彼女に対しても警戒を崩さず、旭は尋ねる。 「一体、何があった」 「死人が、横須賀基地に潜入した」 リナリエッタの言葉に、青ざめるハイナと聡。 「基地内部の軍人と一緒に戦っていたんだけどねぇ……少し、死人が増えちゃったね」 「おっと、近づかないで」 説明を続けるリナリエッタに陽一が注意する。 「リナリエッタさんがまだ死人でないっていう証拠は、ないんだから」 「しょうがないね…… ま、そんな訳で気をつけな。アキラはまだあっちで戦ってる。あなた達は、早く、宝珠を」 基地の奥を指差す。 そこが、本命らしい。 「行くでありんす! あそこに、宝珠の力を発動させる装置があるでありんすよ!」 「そんな事させる訳ないでしょ?」 ハイナの声に、冷ややかな声が被る。 死人となった、基地の軍人を引き連れた祥子だった。 その後ろには、誰ともつかない肉の塊…… 死人を何人も接ぎ死して取り込んだ、新たなる十面死だった。 「あ、うそ……」 その中の、ひとつの顔。 それを見た理子は青ざめる。 即座にその理由に気づいた陽一は、理子を守るように十面死と彼女の間に立つ。 「あれは、もう小鳥遊さんじゃない。ただの醜い化け物だ」 「で、でも」 「いいか、ここで歩みを止めれば、君も彼女たちをあんな風にした奴らの仲間になってしまう」 今にも折れそうな理子の心。 それを、必死で繋ぎとめるように陽一は続ける。 「生きるんだ。友達の仇を撃つために、安らかな眠りを与えるために」 「……」 「行こう、リコ!」 「……うん」 理子の背を推す、美由子の言葉。 ようやく、彼女の瞳に意志の色が宿る。 理子を守り、走り出す美由子たち。 「こっからは、オレの仕事だ」 理子たちを背に、旭は一人、十面死に躍りかかった。 「あぁあ!」 その顔の、ひとつを潰す。 倒す必要はない。 あと少し、ほんの少しだけの足止めでいい。 「待ちなさい!」 「そうはいかないわよ!」 理子たちを追う祥子の前に立ちふさがったのは、ルカルカだった。 「仕方ないわねぇ」 その隣に立つのは、アスカと鴉。 「アスカ……!」 「ルカルカさんからは、目を離さないでおかなきゃって思ってたからねぇ」 走っていく理子たちを見送ると、アスカはゆるりと唇の端を上げる。 アスカに笑顔を返し、ルカルカは祥子を見据える。 「ここから、あなたを通さない」 「黙って食べられなさい!」 二人の視線が交差する。 祥子の後ろには死人。 ルカルカとアスカの後ろには、ダリルたち。