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こどもたちのハロウィン

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こどもたちのハロウィン
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「えとえと……これなんですか?」
 ポップコーンを貰った後、ふれんじすちゃんは、近くで料理をしている男の人に近づいた。
 ちょっと引っ込み思案なので、どきどきして顔が赤くなってしまう。
「バンズですよ。ハンバーガーを包むパンです」
 籠を下ろして、パンズを見せてくれたのは、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)だ。
 涼介お兄さんは、キッチンで作ったパンズや、具材を持って外に出てきたところだった。
「おかしをくれないといたずらしちゃうぞ」
「おかし、くれるっていうのなら、もらってもいいわよ。そしたらいたずらしないし」
 出てきた途端、せいにぃちゃんや子供達がわっと寄ってくる。
「どうぞ。パーティはじめますから、少しだけですけれどね」
 涼介お兄さんは、ふれんじすちゃんや、集まってきた子供達に持ってきていた『カボチャのパウンドケーキ』をあげる。
 パーティ用に用意したテーブルには、鈴子お姉さんや、リーアが用意したお菓子や、料理が既に沢山並んでいる。
「さ、席についてください。作り方を教えますよ」
 涼介お兄さんが優しく子供達に微笑みかけると、お菓子を食べたり、悪戯をし合ってた子供達は、椅子を取り合うように席についていく。
「わたしも、おかしもってきました」
 青い髪の女の子――さなちゃん(富永 佐那(とみなが・さな))が、大きなバスケットを抱えて現れて、お菓子を沢山テーブルに並べていく。
「エレナがパーティをひらくっていって、おかしをたくさんつくったんです。みんなにもおすそわけです」
 さなちゃんがテーブルに置いたのは、パートナーのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)によると、東欧やスラヴ圏で良く食べられているという、プィリジキ(ピロシキ)とブリンツ(東欧式クレープ)というお菓子だ。
「わたしもいっしょにつくったんです。こなとか、たまごとか……ぎゅうにゅうとか、おしお、おさとうとかをいれてまぜてやいて、それからジャムをのせてくるんで、またすこしやいたんです」
 さなちゃんは、隣に座ったふれんじすちゃんに説明をしていく。
「むずかしそうですー。でもおいしそう……、もらってもいいのですか?」
「どうぞー」
 さなちゃんはふれんじすちゃんのお皿に、ブリンツを乗せてあげた。
 ふれんじすちゃんは、しっぽを振り振りしながら、ブリンツをかじってみた。
「……あまくて、おいしいです」
 ふれんじすちゃんの顔に笑みが広がる。
「こっちもどうぞー。もみじのかたちにしました」
 プィリジキは、さなちゃんの手で、紅葉の形が作られていた。
 生地をこねて、中身を詰めて、形を作って。集まったお友達と一緒に、楽しく作ってきたものだ。
「えへへー。ありがとぉ。たべるのもったいないのです」
 ふれんじすちゃんは、プィリジキは後のお楽しみに、とっておくことにした。
「準備ができましたよ。こちらのパンズに、色々乗せてハンバーガーを完成させてくださいね」
 涼介お兄さんが用意したのはハンバーグ、レタスやトマト、ピクルスといった野菜。
 チーズ、ケチャップソース。
 それらを別々にいくつもに分けてテーブルに置いてあった。
 そして、ポテトサラダも。こちらは、小さな子もいることから、食べやすいように野菜を小さく切って、味付けは子供好みの少し濃いめにしてある。
「じぶんでつくるの? めんどくさいー」
 などと言いながら、せいにぃちゃんは楽しそうに作っている。
「えとえと、つくるのですか? よくわからないけど、うれしいのです」
 ふれんじすちゃんは、ただただ嬉しくて、パンズを手に尻尾をふりふりして喜んでいる。
「こうするんですよ」
 隣に座っているさなちゃんが、ハンバーガーの作り方を教えてあげて、一緒に完成させる。
「こちらもどうぞー。いつもなら、お菓子はご飯の後にと言いたいところだけれど、今日は特別。好きな物から食べていいですよ」
 更に涼介お兄さんはパンプキンプティングも、テーブルに並べる。
「あまいのです? たべたいのです」
「わたしも!」
 ふれんじすちゃんとさなちゃんが直ぐに手を伸ばして、自分の分を確保する。
 ハンバーガー作成に夢中だった子供達も、ぼくも、わたしもと、パンプキンプティングをとっていく。
「せいにぃ」
「ん? あ、しゃーろっと。どこいってたの」
 名前を呼ばれてせいにぃちゃんは振り向いた。
 お友達のしゃーろっとちゃんが手を後ろにして、にこにこ立っている。
「キッチンでおてつだいしてました」
 ネコミミのカチューシャを付けた、5歳のしゃーろっとちゃん(シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ))は、はいっと、後ろに隠していたものを、せいにぃちゃんに見せた。
「かぼちゃのおばけだ。じゃっく・お・らんたーん?」
「そう」
 にこにこ微笑みながら、しゃーろっとちゃんは、せいにぃちゃんの前に、ジャック・オ・ランターンを置いた。
「せいにぃにプレゼントです」
「プレゼント?」
「たんじょうびですから」
「!」
 しゃーろっとちゃんの言葉に、せいにぃちゃんははっと思いだす。
 子供になったことと、みんなと遊んだり、お菓子を貰う事に夢中で、忘れていたけれど、10月31日は、せいにぃちゃんの誕生日なのだ。
「ありがとー。てづくりかぼちゃのおばけのぷれぜんとだね……ん?」
 もらったプレゼントを楽しそうに見ていたせいにぃちゃんは、中に何か入っている事に気づいて。
 かぼちゃの中を覗いてみると。
「あっ、ケーキだっ」
 中には、フルーツケーキが入っていた。
 そろりそろりと、せいにぃちゃんはケーキを取り出す。
 ケーキには、秋の色々なフルーツが沢山のっていて、とても可愛らしく、美味しそうだった。
 上に乗っているホワイトチョコのプレートには、チョコレートで『With love on your birthday』とメッセージが入っている。
「お姉ちゃんたちにてつだってもらいながらつくったんです」
「すごい、おいしそうだね。たべよ、たべよー。あたしのものだけど、あんたたちにもあげてもいいわよ!」
 得意げに、せいにぃちゃんは周りのお友達に言った。
「まじょっこせいにぃ、おたんじょうびおめでとう!」
「おめでとー。けーきたくさんになった」
 がりゅうくん、ゆいとくんも、せいにぃちゃんを祝ってくれる。
「誕生日なのですか? おめでとうございます、セイニィちゃん」
 そして涼介お兄さんが、微笑みながらナイフでケーキを切って子供達のお皿にわけてくれた。
「おめでとー」
「せいにぃちゃん、おめでとう」
「おたんじょうびおめでとー」
 ケーキを貰った子供達から、たくさんのお祝いの言葉をもらったせいにぃちゃんは。
「は、はずかしいじゃない」
 ぺんっと、しゃーろっとちゃんを叩いた。
 恥ずかしがって、真っ赤になっているけれど……とっても嬉しそうだった。
「ありがとう」
 小さな声で、せいにぃちゃんはお礼を言って。
「てつだいしてたのなら、おかしもらってないでしょ。あたしのわけてあげる」
 しゃーろっとちゃんの手を掴んで、自分の隣に座らせた。

「はーい、みんなぱーてぃいきましょうね〜」
 巫女さんの格好の5歳のみずほちゃん(高天原 水穂(たかまがはら・みずほ))は、ふわふわな尻尾を揺らしながら、子供達を追いかけている。
 みずほちゃんは、お姉さんとして、自発的に小さな子の面倒をみていた。
「えー、まだぜんぶおかしあつめてない」
「もりにいった、おにぃちゃんからもらってないの!」
 子供達は走り回って遊んだり、森を覗き込んだりしている。
「ぱーてぃには、おかしたくさんあるんですよ。わたしもおみやげもってきてます。いいこにしていたらあげますよー」
「えー、いたずらしてもらう」
「おかしくれないと、いたずらしちゃうぞ〜」
 子供達が、みずほちゃんに飛び掛かってきた。
「はーい、つかまえました。あっ、うふふ、あははははっ」
 くすぐられて、みずほちゃんは笑い声を上げた。
「おかえしですー」
 みずほちゃんがくすぐり返し、子供達が笑い転げていく。
「ふふ、いたずらはおわりです。おかしあげますよー」
「わーい、やった!」
 パートナーのネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が持たせてくれた、ほんのり紅茶の香りが漂う、卵とカスタードのプディングタルトを配ると、子供達は喜んでぴょんぴょん跳ねまわる。
 そうしてちょっと時間がかかりながらも、子供達を集めてパーティ会場へと連れていった。
「ん?」
 子供達と一緒に席に着こうとしたみずほちゃんは、ランプの光があまり届かない場所に、誰かいることに気付いた。
 大きなリスのぬいぐるみを抱っこして、膝をかかえて地面に座っているのは、小さな女の子だった。
「かわいいぬいぐるみですね」
 ふわふわ、しっぽを揺らしながらみずほちゃんが近づくと、女の子――3歳のみーなちゃん(ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ))が、不安そうな目を向けてきた。
「うん、かわいいの」
「ぱーてぃはじまってますよ」
「……うん」
「いかないんですか?」
「……」
 黙って、みーなちゃんは顔を伏せると、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「いっしょにいきましょー。おいしいものたくさんたべられますよ」
「……おかし、ある?」
「おかしも、じゅーすも、おいしいごはんもたくさんあります」
「……いきたい」
 小さなこえで、みーなちゃんが言うけれど、顔は伏せたままだった。
「いっしょにいきましょー!」
 みずほちゃんは明るい声で言って、みーなちゃんの手を掴んで引っ張った。
 みーなちゃんはちょっと驚いた顔を見せながら、立ち上がって、みずほちゃんにひっぱられていく。
 抵抗はしない。
 本当は皆とお菓子食べたいのだけれど。
 とっても、とっても人見知りが激しくて、みーなちゃんは皆のところに行けなかったのだ。
「となりにすわりましょー。これね、じぶんでつくってたべるんだって」
 みずほちゃんは、ハンバーガーをみーなちゃんに見せながら作って、口の中に入れていく。
「……みーなも、つくる」
 皆の顔を見るのは恥ずかしいけれど、みーなちゃんも顔を上げて、手を伸ばして、パンズの上に、みずほちゃんと同じように、お野菜やハンバーグを乗せると。
「美味しい味にしあげましょうね」
 涼介お兄さんが、ソースをかけてくれた。
「あ、ありがと……いただき、ます」
 小さな声でいって、ぱくっとみーなちゃんは、ハンバーガーを口に入れた。
 小さなお口では、しばらくパンしか食べられなかったけれど。
 ハンバーグが口に入った途端、みーなちゃんの顔に笑顔が広がった。
 そして。
「じぶんで作った料理の味はどうですか?」
 涼介お兄さんの優しい問いかけに「おいしいっ」と、みーなちゃんは笑顔で答えたのだった。
「サラダも、おいしいですよ。ね、みんな」
 みずほちゃんがみーなちゃんのお皿にポテトサラダを入れてあげながら皆に尋ねると、子供達は「うん」と、嬉しそうな声をあげる。
「みーな、いろいろたべたいっ」
 それからずっと、みーなちゃんは、みずほちゃんにべったりくっついていた。
 みずほちゃんも、料理をとってあげたり、みーなちゃんの口を拭いてあげたり、お姉さんとして、沢山お世話してあげたのだった。