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こどもたちのハロウィン

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こどもたちのハロウィン
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リアクション

「せかいのおかしをすべてわがてにーおー」
 サンタのような大きな袋を担いだ女の子――吸血鬼姿の3歳のりんちゃん(リン・リーファ(りん・りーふぁ))が、拳を空に突き上げている。
「がんばってくださいね」
 近くでにこにこ笑みを浮かべているのは、あれなちゃんだ。
「がんばってとかいってるばあいじゃないよ、あれな!」
 つくよちゃんは何故か怒っている。
「かわいそーだから、いっこのこしたける」
 そう言ってりんちゃんはあれなちゃんに飴玉を一個放ると、袋を持って次のターゲットを探す。
「たーげっとはっけん!」
 りんちゃんは、もらったお菓子を袋にしまっている魔法使いの格好をした女の子――6歳のかやちゃん(山葉 加夜(やまは・かや))に目を付けた。
「てぇーい」
 りんちゃんはかやちゃんの前にスライディング。
「あっ!」
 かやちゃんはステンと転んでしまう。
「いた、ずら?」
 かやちゃんはお菓子の袋を抱えて、逃げようとするが。
「きゃっ」
 走りだそうとした途端、また転んでしまう。走るのはちょっと苦手なのだ。
「もらっていくよー」
 りんちゃんは、かやちゃんの手から、袋を奪ってダッシュしていく。
「おかし……ううっ。ひっく、ひっく」
 かやちゃんは泣き出してしまった。
 お構いなしに、りんちゃんは爆走していく。
「なんだ、その着ぐるみは。くまのひとのパクリかー」
 続いて、クマの着ぐるみを着た、ぜすたくんに接近。
 りんちゃんは横から近づいて、足をひっかける。
「ん?」
「えぇぇぇーい」
 ぴょんと、躱そうとしたぜすたくんをどーんと突き飛ばして転ばす。転んだぜすたくんを更に両手でごろごろと転がす。
「うわああっ、なんだおまえ」
「なんだじゃない、あたしは、いたずらまじょのりんちゃんだ!」
「きゅーけつきのかっこうしてるくせに」
 りんちゃんは、とんがり帽子に、魔女のミニドレス、長い手袋、ブーツにマント。口の中には玩具の牙。
 魔女の吸血鬼姿だ。
「ふふん、らどーさまとおそろい。らどーさまはちっちゃくなってもかっこいいな」
 りんちゃんは、皆に囲まれている吸血鬼姿のらどぅくんの方をみて、にぱっと笑った。
「…………」
 げしっ。
 ぜすたくんがりんちゃんの足を蹴った。
「うおっと」
 転びそうになったりんちゃんは、袋を死守して膝をついた。
「ぜすたんもらどーさまみたいなふところのふかさをみにつけるべき」
 きりっと言い放って立ち上がると、りんちゃんはぜすたくんにふわふわの羽根で出来たハタキをわっさわっさ振った。
「わっ、やめろ」
「それじゃーねー」
 りんちゃんは、ぜすたくんの側からぴゅーっと逃げ出す。

 そして。
 池の側で立ち止まって、袋の中身を確認。
「たくさんたまったけどまだまだだね!」
 りんちゃんの袋の中には、沢山のお菓子が入っている。
 大人達にもらったものと……それから、悪戯して子供達から奪ったものだ!
 さーて、次はどの子を狙おうか。
 りんちゃんが辺りを見回したその時。
「悪い子゛はいねがぁ?」
「うっ」
 なんだかゾクリとする声が響いた。
 振り向いたりんちゃんが見たものは……。
「泣ぐ子はいねがあ?」
 恐ろしい鬼の顔、藁の服、そして鋭い出刃包丁を持ったモノがそこにいた。
 それは、りんちゃんの方に物凄い勢いで駆けてくる。
「な、なに? おかしならあげないよ」
「悪い子゛はいねがぁ? いじめっこはいねがぁ!?」
「う、うわっ、ほ、ほ、ほんもの、ほんものぉ?」
 その鬼が振り回してくる出刃包丁は鋭い本物の包丁だった。
 悪い事をしている自覚は一応あるりんちゃんは、だっと逃げ出すが。
「悪い子゛はいねがぁ? 悪い子゛はいねがぁ?」
 同じ言葉を繰り返しながら、鬼――なまはげは、りんちゃんに飛び掛かってくる。
「ぎゃー。おにがいるよー。たいじしてー! うぎゃー」
 お菓子を抱えたまま、りんちゃんは駆けまわる。
「そのこわるいこだよ。みんなのおかしとってた。ミルミみたもん! へんたいのおかしもひとりでたくさんもってっちゃったし」
 みるみちゃんや、子供達が避難しながら言う。
「悪い子゛がー。悪い子゛いだがー」
「ご、ごめんごめん。おかしはあたしのものだけど、もういたずらはやめるよ!」
「悪い子゛はいねがぁ? 悪い子゛はいねがぁ?」
 りんちゃんがそう言っても、なまはげはりんちゃんを追い続ける。
「わ、わ、わかった。おかしもきがむいたらかえすよ! だ、だれかたすけてっ」
 りんちゃんが助けを求めても、りんちゃんにお菓子を持って行かれた子供達は誰も助けてくれない。
「悪い子゛はいねがぁ? 悪い子゛はいねがぁ?」
「ご、ごめんなさーーーーーい」
 ついに、りんちゃんはお菓子の袋を放り投げて、森の中に飛び込んで隠れた。
「……ったく」
 お菓子の袋を確保して、お面を上げると、なまはげ――の衣装を纏っていた5歳のすみれちゃん(茅野 菫(ちの・すみれ))は、ため息をついた。
「おとなにおこられないように、あたしがさきにおしおきしてあげたのよ。かんしゃしなさい」
 そう言って、すみれちゃんは袋の中身を確かめる。
「すごい。いろんなこからとったのね。もっときつくおしおきしてもよかったかも」
 すみれちゃんは、うすい笑みを浮かべた。そして、お面を下げる。
 それから、包丁にそっと手を添える。包丁を研ぐかのように、刃に指を滑らせる。
(くぅう、あたしのおかしが! でもやばいよ、あのこ)
 りんちゃんは木蔭に隠れて、様子をうかがっていたけれど……。
「悪い子゛出てこねが? くくく……」
 なはまげがぞくっとする声をあげる。
 りんちゃんは当分、戻れそうになかった。

「かやー、だいじょうぶか?」
 泣いていたかやちゃんのところには、ぐるぐる眼鏡の男の子――6歳のりょうじくん(山葉 涼司(やまは・りょうじ))が駆け付けた。
「だいじょーぶ、です」
 かやちゃんは、服についた落ち葉を払い落とした。
「いたいのとんでいけー」
 それから、手に持っていた魔女のステッキをふりふりすると。
 ポケットの中から、絆創膏を取り出してぺたんと擦りむいた腕に貼った。
 怪我した子のために持ってきた、ウサギさんと猫さんの柄の絆創膏だけれど、自分に使うことになってしまった。
「はい、もういたくないです」
「そっか、よかった。こどもにもいたずらするやついるみたいだから、これからはいっしょにいよーぜ!」
「はい」
 頷いた後、かやちゃんはりょうじくんの袖をぐいっと引っ張った。
「あの……おかし、なくなっちゃいましたから。いっしょにもらいにいきたいです」
「うん! いこーぜ」
 りょうじくんは、かやちゃんの手を握って歩き出した。

 子供達が森に入ったという報告を受けたファビオは、梅琳や学生達に会場を任せて、森の中に子供達を探しに向かった。
「きたな……くしゅん!」
 森に入ったばかりの場所で、深緑のパーカーに黒チェック柄パンツを纏った5歳のそうたくん(瀬島 壮太(せじま・そうた))が待ち構えていた。
「おいおま……はっくしょん!」
 長い間待っていたので、すっかり体が冷えてしまっていた。
 鼻水をすすると、そうたくんはファビオを指差して話す。
「おいおまえ、おかしおいてけよ、じゃないとこれなげるぞ」
 そうたくんの手の中にはいがぐりがある。
 ……いたくて素手じゃもてなかったので、考えてパーカー裾を伸ばして掴んでいる。
「それは持ちこんだらダメだよ。おかしあげるから、捨てなさい」
「うるさい。おかしがさきだ」
 そうたくんは、いがぐりを持っていない方の手をファビオに差し出す。
 ファビオは小さなそうたくんの手に、キャンディを乗せてくれた。
「……! こ、これだけか? あめいっことか、ケチりすぎだろ!」
 そうたくんは、いがぐりをファビオに投げつけた。
 至近距離だったため、ファビオは躱さず服でいがぐりを受けた。
「ケチってるわけじゃないけど、パーティで料理が沢山でるから少しずつ配ってるんだよ」
 だけど、もう少しあげようかなと、ファビオはキャンディを取り出そうとした。が。
「あれ? もっとあったと思ったんだけど、空になってる」
 ポーチの中に入れてあったキャンディが無くなっていた。
「もしかして、おれのぶんない? それはざんねんだなあ」
 言いながら、5歳の男の子、だいちくん(志位 大地(しい・だいち))が姿を現す。
「しー! どこいってたんだよ。こいつにいたずらして、おかしもっともってこさせるぞ」
「そうだねー。おかしほしいねー」
「ん? なにたべてんだ?」
「きゃんでぃー」
「……?」
 大地くんの口の中には、甘い甘いキャンディが入っていた。
 1個じゃなくて、3個も入っている。
 壮太くんがファビオからもらったキャンディと同じもののようだ。
「油断しすぎたかな。それにしても、魔法も何も使えないのに、大したものだ」
 ファビオの目が軽く光った。
 壮太くんが真面目に?ファビオからお菓子を貰うとしている隙に、彼を囮にだいちくんは無駄のない動きで、ファビオからお菓子をかすめ取ったのだ。でも証拠はない。
「おかしなくなっちゃったみたいだから、作ってもらうよ。君が投げたこの栗でね。パーティの最後までに完成させて出すから、それまで会場で料理を楽しんでてくれないかな」
 ファビオくんが、そうたくんにそう言った。
「たくさんくれるのか」
「たくさん用意するよ」
「そうか、それならこれいじょうはしないでやる。おまえはもういっていいぞ」
 そうたくんがそう言うと、ファビオは苦笑して森の奥へと向かって行った。
「……あれ? くりのおかしつくるのに、なんでそっちいくんだよ?」
「そうたくん、いいものみつけたから手ーだしてー」
「ん? おお」
 ファビオに気を取られていたそうたくんは、だいちくんに言われて何も考えずに両手を出した。
 途端。
 どさっ。
「!! い、いてぇーっ!」
 乗せられたのは、大量のいがぐりだった。
「ごめんごめん」
「こんなのもたせるなよ。ったく」
 いがぐりを落として、そうたくんは両手をすり合わせる。
「パーティでまってろっていってたしな。しかたない、いくか」
 そうたくんは、お菓子を貰う為にパーティ会場の方に向かおうとする。
「そうたくん、そのまえにしなきゃいけないことがー」
「ん? なんだ」
 振り向いた壮太くんに。
「はい」
「え?」
 ドスッ。
 大量のいがぐりが渡された。
「うわわわ、ああああ、いててて、うううっ」
 腕の中から落ちそうになるいがぐりを抑えようとすると、手にちくりと刺さってしまう。
 そうたくんが痛がったり、困ったりする顔を、だいちくんはふつーの顔で見ていた。
 そして。
「ごめんごめん、びっくりさせちゃったね」
 そう言った後。
 ばさっ。
 さらにだいちくんは、いがぐりをそうたくんの腕の中に追加する。
「おかしのざいりょうたくさんだー。たからものたくさんー」
「だから、おれにこんなにもたせるなー」
「ごめん、ごめんね、そうたくん」
 言いながら、だいちくんはまだいがぐりを拾い続けている。
「だからな、おーまーえー。ったく、そんなにくりのおかしたべたいのかぁ」
「ふふ……」
 お菓子が目的じゃなくて。
 そうたくんいぢりが目的だったけど。
「いててて、あーもー、ほどほどにしろよ。そうか、パーカーをぬいで、そのうえにおけばいいんだ。ハックショーン!」
 最後までそうたくんはだいちくんの真意に気付かなかった……。
 それから一緒にいがぐりを持ってログハウスに行き、どさどさっとキッチンに投げ込んで大人達をびっくりさせた後。
 会場に運ばれていたお菓子を、ほのぼのと一緒に食べたのだった。