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こどもたちのハロウィン

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「はやくもってきなさぁい……」
 えりざべーとちゃんは、1人で芝生の上でしゃがみこんでいた。
 特別な力もなくて、今は校長という立場でもなくて。
 側には誰も居なくなって、さびしくて、無力さをひしひしと感じていた――。
「おかし、もってきましたぁ」
 はあはあ息を切らしながら、あすかちゃんが戻ってきた。
「あすか……」
 えりざべーとちゃんは、小さなあすかちゃんに、泣き出しそうな目を見せた。でもすぐに、強気の目に戻ると。
「よくやりました〜。となりにすわりなさぁい」
 そう言って、あすかちゃんを隣に座らせた。
「どうぞ」
 あすかちゃんは、頑張って大人みんなからお菓子を貰ってきた。
 そのお菓子を全部えりざべーとちゃんに渡して、にこにこえりざべーとちゃんを見上げる。
「……よくやったですぅ」
 えりざべーとちゃんは、小さくて可愛いあすかちゃんの頭を、意識せず自然に撫でていた。
「ふたりで、ひとりぶん? すくないのね」
 そこに、かんなちゃんもお菓子を持って戻ってきた。
 ようたくんと一緒に回った為、ちゃんと2人分貰ってきている。
「うるさいですぅ。うごかなくても、ぜんぶてにいれたわたしのかちですぅ〜!」
「ぜんぶあなたのものにしちゃったら、そのこのぶんがないじゃない。ほしいものがあるのなら、じぶんもうごいたほうがたくさんてにはいるのに。ねえ」
 かんなちゃんは、ようたくんの方を見る。
「はい! カンナがいっしょだから、いっぱいもらえました」
 ようたくんは嬉しそうな笑みを浮かべている。
 ようたくんのお蔭と、かんなちゃんは思ってはいたけれど、素直に口には出さないで、代わりに繋いでいる手にギュッと力を入れた。
 魔法が使えなくたって、特別な立場がなくたって、大切な人と一緒に頑張れば、1人で頑張った時より沢山の成果は得られるのだ。
「わたしもおかしもらってきたよー!」
 みわちゃんがお菓子を抱えて走ってきた。
「んーと、みんなおなじくらいがいいね」
 みわちゃんは、お菓子を持ってないあすかちゃんに自分のお菓子を分けてあげる。
「このおかしは、わたしのものですけれどぉ……。がんばったあすかにごほうびにあげますぅ」
 えりざべーとちゃんは、お菓子を全部渡しながらも、食べたそうな目であすかちゃんがお菓子を見ている事に気づいていた。
 本当はこれは、あすかちゃんのお菓子だということも。
「あすか、ありがとですぅ」
 小さな声でお礼をいって、えりざべーとちゃんは、お菓子を少しあすかちゃんに渡した。
「おてつだいをしたこは、ごほびももらえるの!」
 それから、料理を手伝っていたかなちゃんもこっちに駆けてきた。
「あのね、カナ、おてつだいしてたから、まだ、おそとにいるひとに、おかしもらいにまわってないの。だけど、ごほうびに、できたてのおかしたくさんもらったの!」
 鈴子お姉さんを手伝ったかなちゃんは、出来たての焼き菓子や、チップスが入ったバスケットを持っていた。
「いっしょにたべよ! こうかんもしよっ」
「ありがと〜。このおかしたべたいっ」
 みわちゃんは、マドレーヌを手に取って笑顔を浮かべた。
「チップスがたべたいわ。キャンディはあげる」
 かんなちゃんが、バスケットにキャンディーを入れて、チップスをもらう。
「あすか、もらいましょぉ〜」
う、……うん
 あすかちゃんは小さな声で返事をする。
 えりざべーとちゃんは、恥ずかしがっているあすかちゃんの手を引いて立ち上がって。
 一緒にバスケットの中から、お菓子を選ばせてもらった。
 そうして、小さな女の子達は、同じくらいずつ、お菓子を貰って嬉しそうに笑ってはしゃいだのだった。

○    ○    ○


「みーみちゃんどこ? どこなの?」
 木や物陰に隠れながら、3歳のあるちゃん(牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ))は、友達のみるみちゃん(ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん))を探していた。
(おそとこわい、こわい)
 お外には子供が沢山いて、皆楽しそうに遊んでいるけれど。
 臆病で人見知り、泣き虫のあるちゃんは、皆の中に入れない。入りたくない。
 とにかく怖くて怖くて。
 ふと、不意に。明日世界は滅びるのではないかと、考えてしまって。一人で泣き出したりしながら。
 お友達のみるみちゃんだけを、必死に探し回っていた。
「みーみちゃんのこえ!」
 みるみちゃんの元気な声が、あるちゃんの耳に入った。
 転びそうになりながらあるちゃんは駆けて、みるみちゃんの側に――行こうとしたけれど、みるみちゃんの側には、大人がいた。
(いっしょにいるのだれ? こわい……)
 木の陰に隠れて、あるちゃんはその人を観察する。
 大きな光の翼をもった大人だった。
「はね? みーみちゃんといっしょ」
 はっと、あるちゃんは気付いた。
「ようかいひとくいおばけだ! みーみちゃんとおなじてんしさんをたべて、はねがはえたんだ、こわい」
 がたがたあるちゃんは震えだす。
「みーみちゃんをたべるきだ! こわいこわいこわいっ」
 震えながらも、みるみちゃんを助けようと、あるちゃんは考える。
「ヘンタイふぁびお! もっとおかしくれないと、いたずらしちゃうよ〜! えいっ」
 あるちゃんが悩んでいる間に、みるみちゃんはその大人――ファビオに向かって突撃する。
「みーみちゃん! い、いしでやっつけて……こわい、はずれたらたべらちゃう。あててもおこらせてたべられちゃう。あの、はびお ってようかいこわい」
 あるちゃんは、みるみちゃんがファビオに突撃し、捕まえられたのを見て、ついに大声で泣き出してしまう。
「うあぁぁん、ようかいはびおがみーみちゃんたべちゃうよぉぉっ」
「ん?」
「あれ? あるちゃん!」
 みるみちゃんはファビオに抱き上げられた状態で、振り向き、あるちゃんを発見する。
「俺は変態でも妖怪でもないんだけどな」
 苦笑しながら、ファビオはあるちゃんの方へやってきて、みるみちゃんを下ろした。
「うあぁぁん、みーみちゃん、みーみちゃん」
「だいじょーぶだよ。いたずらはしっぱいしちゃったけどね!」
「ひくっ、ひくっ」
 あるちゃんはみるみちゃんの後ろに。光の羽の後ろに隠れてぎゅむっとしがみつく。
「みーみちゃんたすけて、おばけがいるよぅ」
「おばけじゃないんだよ、あのひとはへんたいなの!」
「いや、お化けに変身してるのは、子供達の方で……」
 ファビオはあまり子供の世話になれていないようで、困りながらあるちゃんにお菓子をあげようと近づいた。
「いません! あゆちゃんはいません! ぱぱんとままんもるすです! おにーちゃんはがっこうです! あゆちゃんはいません!」
「あるちゃんをこわがらせるへんたいめー!」
 みるみちゃんは、近づいてきたファビオに、拳をぽかぽか叩き付けた。
「お菓子あげるから、悪戯はおしまいにしようね」
 ファビオはキャンディを取り出したが。
「うあぁぁぁん、みーみちゃんがだまされて、たべられちゃうぅ」
 あるちゃんはまた、わあわあ泣き出してしまった。
「なかしたー、なかしたー、なかしたー」
 指差して、みるみちゃんはファビオを睨む。
「ご、ごめん。お菓子ここにおいておくから。その子のことは、みるみちゃんに任せるよ」
 ファビオは困り果てた表情で、キャディを石の上に置くと、子供達のところに戻っていった。
「あるちゃん、もうだいじょうぶだよ。へんたいはにげてったからね」
 みるみちゃんは、キャンディを拾うとあるちゃんに1個あげて、微笑みかけた。
「んで、あるちゃん。おにーちゃんいたんだ」
 みるみちゃんの問いに、あるちゃんは涙をぬぐいながら、こくんと頷いた。
「みるみもおにーちゃんほしいな〜」
 みるみちゃんはあるちゃんの手をひっぱって、一緒に大きな石の上に座った。
 まだ怖い気持ちは残っているけれど、みるみちゃんと手を繋いでいるから。あるちゃんは少しずつ落ち着いていく。
「あめなめおわったら、つぎのおとなにおかしもらいにいくよー。あるちゃんもいっしょにいこうね!」
「ようかい、こわい……」
「だいじょーぶ! みるみつぉいもん!」
「みーみちゃん、つぉい?」
「そうだよ、あるちゃんのこと、まもってあげるからねっ」
 みるみちゃんがそういって、あるちゃんに笑みを向けると。
 あるちゃんはまたぎゅっとみるみちゃんの手を掴んで頷いた。
 それから、一緒にキャンディーを舐めはじめる。
 あるちゃんは途中で噛んでしまったので、みるみちゃんより早く食べ終えて。
「みーみちゃんみゆくは? あまくておいしいの」
 もっと欲しそうな目でみるみちゃんを見た。
「のみものは、パーティのときにはあるよ、きっと! それまでにおかし、たくさんあつめておこー!」
「うん」
 そして、みるみちゃんと手を繋いだまま、あるちゃんは立ち上がる。
 今日のみるみちゃんは、あるちゃんにとって、輝いてる勇ましい天使さんだった。