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リアクション
14)
幼なじみにして、主従関係である、
三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)と
沢渡 真言(さわたり・まこと)は、
懐かしい知り合い、「冬の女王」を、
水上の町アイールに誘ったのだった。
「女王ー。今日は来てくれてありがとう!」
のぞみが、明るい笑顔で言う。
今日は、冬らしく、黒のジャケットに、赤のタータンチェックのミニスカート姿だ。
「のぞみ、ひさしぶりぞよ!
わらわも、皆に会えて、こんな綺麗な街を観光できてうれしいぞよ!」
「冬の女王」は、
冬の空のような、ブルーグレーのコートに、
雪のような、真っ白なロングスカートを身に着けていた。
「女王、私服も素敵ですね」
真言が、にっこりと笑みを浮かべる。
「どうもありがとう。
真言も、なんだか、大人っぽくなった気がするぞよ」
「そうですか? ありがとうございます」
「あれから、もう、3年半くらいたってるもんねー」
のぞみが、感慨深げに言った。
ふと、のぞみの陰から、白いワンピースに、レース編みボレロ姿の、女の子が顔をのぞかせる。
のぞみのパートナー、ルーチェ・ヴェリタ(るーちぇ・う゛ぇりた)だった。
「はじめまして、「冬の女王」様!
ルーチェは、のぞみと真言の子どものルーチェ・ヴェリタなのですわ。
どうぞ、お見知りおきを」
ルーチェが、ぺこりと頭を下げる。
「2人の子ども? どういうことぞよ?
いつの間にそんな関係に?」
「えっとその……」
どう説明したらいいか、のぞみが苦笑する。
「私達が生まれて初めて見た相手……ということなんですよ」
真言が、説明する。
ギフトであるルーチェが卵からかえったときに、初めて見たのが、
のぞみと真言の2人だったのだ。
また、もう一人、
真言のパートナーのギフトのことを、ルーチェは弟だと思っている。
「なるほど、そういうことだったのかぞよ。
わらわはてっきり、2人の間に生まれた子どもかと思ってびっくりしたぞよ」
「女王……そんなことあるわけないじゃないですか」
「冗談ぞよ」
苦笑する真言に、「冬の女王」がぺろりと舌を出して見せる。
「かわいい子と一緒なのは大歓迎ぞよ!
さあ、さっそく遊びに行くぞよ!
のぞみと真言はどこに行きたいぞよ?」
「冬の女王」が、ルーチェの頭をなで、のぞみと真言に呼びかける。
「あたしたちも、アイールは初めてなの。
どこか観光名所を回ってみようか?」
「じゃあ、この近くにある、アイールハーブ園はどうでしょう。
ニルヴァーナのハーブや、綺麗なお花、
ハーブティーなどもあるそうですよ」
「じゃあ、そこに行ってみるぞよ!」
「決まりだね!」
真言の提案に、「冬の女王」とのぞみもうなずく。
植物園をゆっくりと回り、
「冬の女王」と真言とのぞみは、昔話をする。
「ルクオールも、夏は、こんなふうに、きれいな草花が生い茂っていたぞよ」
「そうですね。「冬の女王」が魔法を解いてくれた時、
ルクオールの町はとってもきれいでしたね」
「ルクオールの町は高山植物みたいなのも咲いてるのかな。
このアイールも、いろんなお花がとっても綺麗だよね!」
ルーチェは、昔話をする3人の話を、興味深く聞いている。
まるで、新しい知識を貪欲に身につけようとしているように。
「では、次はどこに行くぞよ?
わらわは、あの、大きな建物に行ってみたいぞよ!」
「大きな建物というと、550m級巨大浮船渠【キート・ヴァーンナ】ですか?」
「クジラ型ギフトのメンテナンス施設でしょ?
あれ、すっごいよね。行ってみようよ!」
「ルーチェも行きたいのですわ」
「じゃあ、決まりですね」
こうして、4人は、550m級巨大浮船渠【キート・ヴァーンナ】に立ち寄った。
「すごく大きくて立派だったねー!」
「あんな大がかりな物を作れるなんて、人間もなかなかやるぞよ!」
「次はどこに行きましょうか?」
「そういえば、この土地の守り神の神社があると聞いたぞよ」
「アイール神社、ですね」
真言が、ガイドブックを手に、答える。
(あ、そうか)
ふと、のぞみは、「冬の女王」の気持ちに気づいた気がした。
ルクオールの町を守っていた「冬の女王」は、
このアイールの守護をしている守り神のことも気になったのかもしれない。
そのことには、真言も気づいたようで、のぞみとそっと目くばせした。
「じゃあ、行ってみましょうか」
「うん、行こう、行こう!」
「楽しみですわ!」
4人は、アイール神社にお参りして、名物の楓饅頭(かえでまんじゅう)を食べたのだった。
「女王、のぞみ、ルーチェ。そろそろ、喉が渇きませんか?」
「ああ、たしかにそろそろ休憩したいぞよ」
「真言、もしかして、お店を調べてくれてたの?」
「ええ。おいしいケーキ屋さんを調べておいたんです。
チョコケーキなどいかがでしょう?」
「さすが、真言!」ぞよ!」なのですわ!」
3人の声が重なった。
一行は、こうして、おいしいケーキとお茶を堪能することになった。
ふだんは、執事である真言がサーブしてくれているが、
今日は、お店の店員さんが、もてなしてくれている。
(真言も、ゆっくりできたみたいでよかったなあ)
のぞみは、そう思ったのだった。
楽しい時間は、あっというまに過ぎていく。
ルーチェが、一日中、大切に持っていた手紙を、
「冬の女王」に差し出した。
「これをわらわにくれるのか、ぞよ?」
「ええ、ルーチェはお手紙を届ける係、なのですわ!」
生成り和紙に淡い雪模様の入ったのは真言のもの。
白いシンプルな便箋を、くるくると丸め、金色のリボンで結んであるのはのぞみのものだ。
「どうもありがとう。
……こんなに楽しい一日だけじゃなくて、
こんなかわいい子達のお手紙をもらえて。
わらわは幸せ者ぞよ」
「冬の女王」は、冬の透き通る空のような、微笑を浮かべた。
「こちらこそ、いつもお世話になっております」
「これからもよろしくね、女王!」
真言とのぞみも、それぞれ、暖かな笑顔を浮かべる。
今日の日の思い出の最後に。
お店の人にカメラを渡し、皆で記念撮影をすることにした。
真言の胸には、忠誠のロザリオが。
のぞみの指には、誓いの指輪が。
それぞれ輝いている。
「2人とも、幸せそうでよかったぞよ」
「冬の女王」が、小さな声でつぶやいた。
真言とのぞみが、顔を見合わせる。
「はい、とっても」
「あたし達、とっても幸せです」
そんな2人を見て、ルーチェも笑顔で言った。
「ルーチェもなのですわ」
「いつまでも、忘れないでいてくれる。
冬の精霊にとって、なによりもうれしいことぞよ」
「冬の女王」が、シャッターが切られる直前につぶやいた。
4人の記念写真は、手紙とともに、大切な思い出の品になったのだった。