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レターズ・オブ・バレンタイン

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レターズ・オブ・バレンタイン
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38)

空京の町にて。
一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)は、
同じ葦原明倫館の仁科 耀助(にしな・ようすけ)とともに、遊びにやってきていた。

「バレンタインに悲哀ちゃんと過ごせるなんて幸せだぜ!」
「こちらこそ……このような華やかな場所に連れてきてくださってありがとうございます」
「もう、硬いなあ。まあ、そこがいいとこなんだけどな」
耀助は、悲哀の手を取って、
屋台へと走っていった。
「お兄さん、たい焼き2つ!」
「あいよ」
「ほら、ほかほかの焼きたてだぜ」
「わあ……ありがとうございます」
「へへ、悲哀ちゃん、あんまり買い食いとかしたことなさそうなタイプだろ。
だから、オレと一緒に『は・じ・め・ての経験☆』なーんてできたらいいななんちゃって!」
「耀助さんったら」
悲哀は、くすくすと笑う。

「あつっ」
「あ、大丈夫ですか?」
たい焼きのあんこの熱さに驚いた耀助を、悲哀が気づかう。
「あんまし大丈夫じゃない。……キスしてくれたら治るかも」
「えっ」
「冗談だよ!」
顔を紅潮させた悲哀に、
耀助はぺろりと舌を出した。

「こうやってさ、空京の町を歩いてみるのもいいもんだろ?」
「ええ、そうですね。
イルミネーションが、とっても綺麗ですね」
「うん、世界がオレ達を祝福してくれてるみたいだよな」
耀助の、冗談とも本気ともつかない言葉に、
悲哀は、微笑を浮かべ、しばし考えた。
(耀助さんは、誰にでもこうだけれど……。
ほんの少しだけでも、期待してしまってもよいのでしょうか?)

そんな風に考えながら。
今のこの、大切な時間を、ゆっくりとゆったりと。
悲哀は耀助とともに、楽しんだのだった。

そして。
「これ、読んでいただけますか」
「オレに? ありがとう!」
別れ際、悲哀は耀助に、大切にしたためた手紙を渡した。
木瓜の花が描かれた和紙に、毛筆の縦書きの物だ。
「大切に読むよ! また、遊んでくれよな!」
そう言って、耀助は、大きく手を振って去っていった。
その姿を、悲哀は笑みを浮かべて見送ったのだった。