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人形師×魂×古代兵器の三重奏~白兎は紅に染まる~

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人形師×魂×古代兵器の三重奏~白兎は紅に染まる~
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リアクション

 
 19 合流。

 今日はなんだかツイてない、と紺侍は思う。
 バイトをしていただけなのに、よくわからない事件に巻き込まれてしまうし。
 様子を見に行ったらそのまま締め出されるし。
 仕方がないから逃げてみれば、元凶らしきペットショップ店員だからと絞め技関節技を喰らうし。
 それでもなんとか逃げ続ければ、わあい餌だと兎に追い回されるし。
 ――捜している人には会えないし。
「いい加減、疲れたなァ……」
 けれど、だからといって、足を止めてはいけなかった。
 兎はそこら中にいて、虎視眈々と獲物の隙を狙っているのだ。
 わかっていたつもりだったが、それはやはり『つもり』だった。
 天井付近に忍んでいた兎が、紺侍目掛けて飛び掛る。紺侍が、息吹にも似た呼吸音に気付いて顔を上げた時にはもう遅い。大きく開いた口が、凶悪な牙が、ぬらぬらと光る粘膜が、目の前に。
 反射的に腕で顔をかばった時、ひゅん、と空気を裂く音が聞こえた。次いで、どす、どちゃり、という鈍い音。
 なんだ、と疑問に思ったが、痛みに備えようと構えることが先だった。が、いつまでもその痛みはこない。
「……?」
 恐る恐る腕をどかすと、廊下に倒れた兎が見えた。心臓に、クナイが刺さっている。あの連続した鈍い音はこれだったのか、と妙に冷静な気持ちで兎を見てからゆっくりと振り返る。
 青い顔をした壮太が立っていた。
 壮太さん、と呼びかけようとした刹那、壮太が姿勢を低くした。そのままこちらへ駆けてくる。あ、っと思う間に壮太は紺侍の横を通り抜けた。再び振り返る。振り返った先で、壮太は兎を切り伏せていた。もう一羽、忍び寄ってきていたらしい。
 首を切り、心臓に刃を突き刺し、死体を蹴って端にどかし、素早くあたりを見回す。天井に向けてクナイを放り、落ちてきた兎の頭を潰す。
 流れるように一連の動作をこなすと、壮太は紺侍の手を掴み、引っ張って走った。
 何も言えなかった。
 壮太も何も言わなかった。

 治療スペース付近まで逃げると、ようやく壮太は息をつくことができた。そんな大した距離を走ったわけでもないのに、息が切れている。無理やり息を整えて、紺侍を見た。
 大きな怪我はしていないようだ。顔色もそう悪くない。不安そうな顔でこちらを見ていることに、ひどく申し訳ない気持ちになった。
「……大丈夫か」
「そりゃこっちのセリフっスよ。壮太さん、すっげェ顔色悪い」
「ああ、……」
 頷いてみせたけれど、気の利いた言葉などひとつも出てこなかった。間を繋ぐため、なんとなく視線を逸らす。自分の手が視界に入った。みっともないほど震えている。ぎち、と音を立てるほど強く握り締めても、震えは止まらない。
 怖かった。
 紺侍が、自分の知らないところで傷付くのがものすごく、怖かった。
 それが、自分で望んで戦うというのなら、いい。覚悟を背負って向かうなら構わない。
 けれど、こんな、巻き込まれるようにして危険な目に遭うなんて。
「……とりあえず、今のバイト続けるのは考えた方がいいかもな」
「っスねェ。ちょっと心折れてたし、いい機会かも」
「心折れてた?」
「知ってます? ペットショップって虫も扱ってるんスよ」
 紺侍は、あんな目に遭ったというのにいつも通りだった。いつもと変わらない顔で、いつもと変わらない話を投げてくる。
 自分のことを気遣っているのだろうと思うと情けない気持ちになった。けれど、そんなことも思っていられない。ふっと笑って「知ってる」と言った。
「おまえ、そんなナイフ持ってた?」
 ふと目に入ったナイフを見ながら問う。紺侍は「ああ」と頷いて、「借りたんスよ」と答えた。
「借りた?」
「店出てすぐ、兎に襲われた時に通りすがりの人が。そういやあの人の名前も聞いてねェなァ……無事だといいけど」
「そっか。また会えたら、礼言わねえとな」
「っスね。なきゃ自衛すらままならなかったもん。いやァ兎マジ怖ェ」
「だなあ」
 話しているうちに、だんだんと落ち着いてきたようだ。普通に受け答えができる。
 隣で話す紺侍を見て、改めて、無事でよかったと思う。
 もしも、がすべて杞憂でよかった。