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【2024初夏】声を聞かせて

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9.族長の資格

 ツァンダ東の森に存在する集落にて。
 夕方。刀鍛冶一族の白狼の獣人である、ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)は、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)と共に、集会所に向かい歩いていた。
「緊張してるのか?」
 家を出てから一言もしゃべらないニーナに、ハイコドが問いかけた。
「それは……してないって言ったら嘘になるわね」
 ニーナは一族でほんの一部しか持っていない『魔眼持ち』であり、族長候補だった。
 今は、族長の資格を確認するための試験に向かっているところだった。
 世界では様々な事件が起きているが、この集落には今はあまり影響は出ていない。
 この機会に――ハイコドとニーナが婚約した今、ニーナは試験を受けることとなった。
「ほら、リラックス、リラックス」
 ハイコドはニーナを落ち着かせようと、頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「大丈夫、そこまで緊張していないわ。もし、族長に相応しくなかったとしても……私、満ち足りてるし」
 ハイコドを見て、ニーナはいつもの温和で優しそうな顔で微笑んだ。
「ん? まあ、大丈夫ならそれでいいんだ」
 ほっと息をついてハイコドはニーナを集会所まで送った。
「それじゃ、行ってくるわね。……ありがとう、ハコくん」
 射し込む木漏れ日を浴びながら、ニーナはハイコドに迷いのない笑みを見せた。
 ハイコドの励ましの効果があったのか、もう緊張は見られない。
「ああ、ここで待ってるからな」
「ええ」
 長老に呼ばれて中に入ったニーナを、ハイコドは木陰で待つことにした。
「さて、どれくらいかかるか……」
 空には雲一つない。
 今日は一日晴れのようだ。
 夜には多分、星が沢山見られるだろう――。

 ニーナの試験はそう時間がかからず終了した。
 彼女は試験に合格し、そのまま集会所はパーティ会場と化した。