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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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10.大罪…ではなく甘味を求めて

 からっと晴れた気持ちの良い日。
 「唯斗あの店にするのですわー! ケーキバイキングですわー!」
 眠そうな顔をした青年の頭の上で、モモンガが一匹、手足をばたつかせていた。
「ん? ああ、けどよ、あの店開店まだだぜ。待つか?」
「待てませんわ! 他探しますわよ、他。さあ、とろっとろ歩いてないで、早く見つけろですわ!」
「はいはい、騒がしいやつだなー」
 ふうとため息をついて、モモンガを頭に乗せている青年――紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、ほんの少しだけ足の回転を速めた。
 天気が良くて気温も少し暑いくらいで、まあちょうど良く、人通りも激しくなくて、のんびり散歩を楽しみたくもあるが。
 上に乗せてきたこのモモンガは散歩より食い気らしい。
「なー、ペロ子ー。
 おめぇ、結局モモンガのままだけどよー、大罪探しに行かなくて良いんかよー?」
 歩きながら、唯斗は頭の上に問いかける。
 このモモンガの名はブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)。通称ペロ子である。
「行きたいに決まってやがるですわー!! ベル子に反応があった辺りを探させているのですわ。……どこかでサボってそうですけど」
 ぺしんぺしんとペロ子は唯斗の額を叩いてきた。
「オメェ結構可愛いんだから勿体無いと思ってなー」
 モモンガの手を叩き返したりせず、撫でるように優しく止めさせる。
「な……そんな当たり前のこと言われてもなんとも思いませんわ!」
「そうか。でもほら、それに前、大罪捕まえんのに協力するって約束したし、俺としちゃ女の子との約束は極力守りたいしよー。
 オメェもずっとそのままは困るだろ?」
「困るに決まってますわー! いい加減にしろですわー!」
 ペロ子はさっきよりも激しく暴れ出した。
「おおう、暴れんなって」
 唯斗は今度はペロ子の頭の上に手を置いて、優しく撫でた。
「まぁ、オメェがモモンガのままでも俺が貰ってやっから安心しとけー。
 はっはっはー、キスすりゃ戻んだから問題ねぇぜー」
「じょ、冗談は一昨日いいやがれですわー。人間には戻りますわ! で、で、でもキ……そ、それは嫌ですわー。てゆーか、触るなですわー!」
 モモンガなので顔色も何もないが、照れてペロ子は体を振って、唯斗の手から逃れようとする。
「と、着いたな」
 お洒落なカフェの前で、唯斗は立ち止まった。
「可愛らしいお店ですわね」
「うむ、見かけもお洒落だが、ここのスイーツは非常に美味いと評判でな、是非一度食べたくてな!」
「楽しみですわー」
 手足を広げて、唯斗の頭から滑空しようとしたペロ子を唯斗はひょいっと抱き留めた。
「と、そんじゃオメェも人の姿に戻って行こうか」
「!」
 抵抗するより早く、ペロ子の唇を唯斗が奪う。
「き、きゃあああああ……なにするですかーーーーー」
 顔を押さえて蹲るペロ子……いや、人間の少女の姿に戻ったブリュンヒルデ。
「今更、照れんなって」
「今更って、今更って……私を傷物にしやがってですわ!」
 ブリュンヒルデは唯斗に飛び掛かり、目を潰そうとする。
「おおっと。俺がいつ、お前を傷つけた?」
 彼女の手を掴んで止め、唯斗はくすりと笑みを浮かべた。
「うう、うううう……っ」
「ホラ、行こうぜ?」
 そのまま手を引いて、唯斗はブリュンヒルデをカフェへと連れて行く。
「一緒に行くわけないですわ!」
 と言いながらも、スイーツの誘惑に負けて、ブリュンヒルデの足はカフェへと真っ直ぐ向かっていくのだった。