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魂の研究者と幻惑の死神2~DRUG WARS~

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魂の研究者と幻惑の死神2~DRUG WARS~

リアクション

 第11章

「……はっ!」
「終わったぜぃ、ムッキー!」
 むきプリ君が正気に戻ると、解毒剤の空瓶を持った闘神と目が合った。床の上には、唯一の着衣をも脱いだ弟が幸せそうに寝息を立てている。場所は蒼空学園の体育倉庫。銭湯の脱衣所では許される格好をしていた闘神は、どこへ出ても許される格好になると外へ出ていく。やがて、フィアレフトとブリュケ、ピノを始めとした皆が倉庫に入ってきた。先頭にいたフィアレフトは、中を見てひゃっ、と声を上げる。
「ふ、服を着てください! それと、着せてくださいーーーーーー!」

「それじゃ、飲ませるよ」
 眠っているムッチーに、エースが『記憶の一部を消す薬』を飲ませていく。目を覚ました彼は、幸せに包まれているかもしれない。自分の行動を反省し、もうしませんと言う可能性もある。だが、ホレグスリが切れた後にも同じ状態でいるとは限らない。というか、むしろ自分が何をしていたか思い出して、愕然としてまたリア充爆発しろ状態になって治療薬を狙うかもしれない。だが、彼が病気に関する記憶を失えば、愕然とするだけでそんなことにはならない。もしくは――
 愛を覚えていて、彼の中にあった歪みだけが消えるかもしれないのだ。
「この豊かすぎる体格なら、普通の人より多少多めに飲ませても良さそうだ。こうすれば、成分も多めに抽出できそうだしね」
 そう言いながら、エースは計3本の薬をムッチーの口に流し込んだ。むきプリ君に成分を取ってもらうと、続いて、ホレグスリの解毒剤も飲ませる。1、2分程待ってから起こすと、彼はぼーっとした目を皆に向けた。覚醒するまでに更に30秒程を費やし、筋肉2人を見て思いっ切り後退りする。
「に、兄さん! 闘神さん!」
「……ムッチー、何でここに居るか分かるか?」
 男3人であれやこれやした事は覚えているらしい。明らかにびびっている彼に、ブリュケはそこの確認はせずに別の質問をした。どこまでを覚えていて何を忘れたのか、その答えで分かる筈だ。
「何でだと? それは、ホレグスリを飲ませたワタシに兄さんと闘神さんが……む?」
 そこでムッチーは眉根を寄せた。
「何故、兄さん達はそんな事をしたのだ? ワタシを巻き込む理由が……妙だな、思い出せん」
「思い出せない……」
「じゃあ、自分が何をしようとしていたのかも覚えてないんだね。あんたは、『世界を救いに』来たんだ」
 フィアレフトが呟く隣で、ブリュケはなるべく敵意が伝わらないように気をつけながらそう言った。『魔王』の行為を、他人がやった事のように語って反応を伺う――これはラスが言い出した方法で、入れ知恵した当人はムッチーをぼこってやりたい、という顔で様子を見ていた。薬配布の最中に何かがあったらしい。ファーシーの横にいるアクアの表情を見ればまあ大方の想像はつくが。
「世界を救いに? 世界で、何があったのだ?」
「むきプリ社長が微生物を入れたサプリメントを売ったんだ。それで……」
 ブリュケは、本来「ムッチーが」と入れるべき箇所を「むきプリ社長が」に置き換えて説明した。それが一番、矛盾点が出ないと判断したのだ。ちなみに、むきプリ君を社長と呼ぶのは、ブリュケが小学生の頃には彼の製薬会社が軌道に乗っていたからだ。
 そして、多少の矛盾はあったかもしれないがブリュケはとりあえず話し終えた。
「そうか……それで、ワタシは兄に薬を飲ませられたんだな。闘神さんからの愛だけでは足りなかった兄が、止めに来たワタシからの愛も求めて……闘神さんも兄を救う為に……」
 ムッチーは、『むきプリ君の行為』を素晴らしいと絶賛したりはしなかった。同意する展開になったらまたややこしい事になったのだが――
 彼はむきプリ君を見上げ、きらきらとした瞳で確認する。
「兄さんは、今は反省してるのだな? 治療薬の製造の妨害も、もうしないのだな?」
「……そ、そうだな! 反省している!」
 むきプリ君の声が多少上ずったのは、まあ仕方ないと言えよう。兄の答えに、ムッチーは心から安心したようだった。
「そうか……良かった」
 立ち上がったムッチーは、次にピノの方へと向き直り、マスクを取って頭を下げる。
「兄がたくさん迷惑を掛けたみたいだな。すまなかった!」
「え、あ、え、うん。そうだね……」
 ムッチーの素顔に驚いたピノは、びっくりしながらも彼の謝罪を受け入れた。というか、受け入れるしかなかった。次に、ムッチーはブリュケ達にも頭を下げる。
「家族が被害に遭ったという事で、あなた方にはどれだけお詫びをしたらいいか……。ほら、兄さんも謝るのだ!」
「あ、ああ! おt……いや、すまなかった! もう何も心配する事はないぞ!」
「そうみたいだな……」
「そうみたいですね……」
 ブリュケとフィアレフトも、やはりムッチーの素顔に驚きつつそれ以上責める事はしなかった。というか、責められなかった。
「……では、ワタシは未来に帰るとしよう。もうやる事も無いだろうからな!」
「それなんだけど……」
 そこで、エースが口を開いた。
「未来人が未来に戻る方法は無いんじゃないか。タイムマシンを使っても、新しく出来た時間軸へ行くだけでさ。だから、現在から新たな未来へ進めばいいんじゃないかな」
「! な、何だと、戻れないのか!?」
 ムッチーはその辺りの知識を持っていなかったらしい。それとも、その辺りの事も忘れてしまったのか。驚愕する彼に、ノーンが言う。
「こっちの世界でしばらく過ごして、これからどうするか考えるっていうのはどうかな? わたしも、何かお手伝いできるかもしれないし」
「む、そ、そうだな……」
「未来には戻れないのか……」
 分かりやすく肩を落とす彼を見ながら、隼人は考える。『魔王』をぼこぼこにしたら、『もう悪いことはしません』という反省文を書かせて未来に帰そうと思っていたのだが。
「この時代で悪いことをするなよ? ちゃんと真面目に暮らすんだぜ」
「分かった。ワタシが兄を更生させよう!」
 何だかとんちんかんな結果になってしまったような気がしないでもないが、隼人は一応、彼に『悪いことはしない』という誓約書を書かせた。
 その後、むきプリ君と体格が良く似た、だが顔は兄よりだいぶ残念な『魔王』は、兄からの提案もあり、ノーンと一緒に子供ムッチーの教育に勤しむようになった。子供ムッチー――というかムッチーの母親は子供に愛情を注ぐタイプではなく、それが彼の孤独を深める原因の一つでもあるようだった。