リアクション
「んー、こう休みが続くと暇でいけないねー」 ○ ○ ○ 合同懇親会は、堅苦しいことは何もなく。 在校生と新入生の簡単な開会の挨拶のあとは、皆自由に過ごせるような会だった。 最初の席は決まっていたけれど、そこでの自己紹介を終えた後は、飲み物を持って自由に席を移動して、気になる人々と挨拶を交わし、会話を楽しんでいく。 「ドリンクなくなった人いますか? 遠慮なく言ってくださいね!」 こういう席に慣れていない子達ばかりである。 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、運営を手伝ってジュースを配って回っていた。 「あ、百合園の新入生ね。あたしは七瀬歩っていいます。よろしくね」 そう微笑むと、緊張した面持ちだった新入生達が笑みを浮かべて、よろしくお願いしますと頭を下げてくる。 そのテーブルには百合園の新入生が集まっているようだった。 「皆、百合園生? 畏まらなくて大丈夫だよ。皆は部活動とか決めた〜?」 挨拶をして回っていた七瀬 巡(ななせ・めぐる)も、そのテーブルへと近づいてきた。 「わたくしは音楽関係の部活に興味があります」 「私は、運動部、かな」 「パラミタに来たからには、戦うお嬢様にならなきゃダメだと思うの」 会話をしていくうちに、新入生達の緊張はほぐれて、自然な笑みを浮かべるようになっていく。 彼女達の自己紹介や、入学の理由を聞いた後で、巡も自己紹介をする。 「ボクは七瀬巡。いつか皆を守れる騎士になるのが夢なんだー! えーと……あと趣味って言えば野球かなぁ。こー見えてもピッチャーだからね! ちっちゃいからってバカにしてたら三振とっちゃうよー!」 「ふふっ、巡ちゃんは野球やってるんだ? 私も小さい頃、野球チームに入ってたよ」 「百合園ってスポーツも盛んらしいですよね」 外見11歳のアリスである巡とは、気軽に話が出来るらしく、新入生達が彼女を囲むように集まっていく。 「うん、百合園はスポーツ強いって歩ねーちゃんに聞いたけど、あんまり見たことないなぁ。 契約者と一般人じゃ試合にならないのも問題なのかなー」 「そうですね、地球と合同で試合が行われることってあまりないですし……」 「……うーん、出来れば皆で遊べたらいいのになー」 「でも、地球でも中学生くらいからは、男女で力の差が出てきて別の活動になりますし。そんな風に大会を分けて行うとかいう方法もあるのでは? 人種によって、多少の向き不向きもありますしね。その差がパラミタでは激しすぎるようですが……」 「そうだね、そういう提案もパラミタで沢山していって、皆で楽しく遊べるようになっていくといいねー。あと、Pキャンセラーとか、契約者の能力を一時的に封じる道具もあるし、そういった道具を使うといいのかもー?」 巡はそう答えて、新入生達とスポーツや、パラミタでの生活のことなどを語り合っていく。 「あの子……」 見守っていた歩は輪に入ろうとしない少女がいることに気付く。 ジュースの乗ったトレーを手にその場からはなれると、お菓子を摘まんでいるその少女へと近づいた。 「ジュース、如何ですか?」 そう問いかけると、少女は「えっと、あの……」と、戸惑いを見せた後で、オレンジジュースを選んだ。 引っ込み思案な子のようだ。 「あなたも百合園女学院の新入生ね。七瀬歩です、よろしくね。よかったら、配るの手伝ってもらえないかな?」 余計なお世話なのかもしれないれど……。 人に話しかけるには、ちょっとしたきっかけが大事だと思うから。 「ずっとじゃなくて、ちょっとだけ、ね?」 歩がそうお願いをすると、少女は「はい」と返事をして、歩の手からトレーを受け取った。 「ボクも手伝うよー。沢山の人達のところを回ろー!」 巡は空になったグラスを回収して、歩へと渡す。 「それじゃ、新しいの貰ってくるから、あっちの席からお願いね」 歩はグラスを持って、スタッフの元へと戻っていく。 「友達沢山出来るといいねー!」 巡が少女に笑いかけると、少女は緊張で赤くなりながら微笑んで、こくんと首を縦に振った。 そうして、なかなか皆の中に入り込めない子達を誘いながら、歩と巡は合同懇親会を楽しんでいく。 「皆にとってこの会が楽しい思い出になりますように……」 時折、会場を見回し、皆を気遣いながら、歩はそっと願っていた。 合同懇親会では、積極的に話しかけて回る若者もいれば、パートナーや知り合い達と楽しく過ごしている者もいた。 会場に来てみたものの……自由過ぎて、どう過ごしていいのか分からなくなり、壁際の席に移って。 一人で過ごしている若者も、いた。 これから高校生になる少女にとって。 こういう場で、独りでいることは……泣きたいくらい、とっても悲しいことだった。 俯いて、ジュースを飲みながら、時折窓の外に目を向けていた少女に。 「素敵なお嬢さん、花をどうぞ」 一輪のピンクローズが差し出された。 受け取って顔を上げた彼女の前には、王子様のような、端正な顔立ちの青年の微笑みがあった。 瞬時に、少女の顔は真っ赤に染まる。 「空京大学のエース・ラグランツです。薔薇がよく似合うね」 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の言葉に、顔を赤く染めたまま「そ、そうでしょうか」とどもりながら、少女は言葉を発した。 「あなたはどんな花が好き?」 エースの問いに、えっと、その……と、少女はまともに答えることが出来ない。 エースは優しく微笑みかけながら、少女に語りかける。 「自宅で色々な花を育てているんだ。花は季節を教えてくれるから大好きだよ。今度見に来るかい?」 「は、はい……っ」 頑張って返事をしたら、思いのほか大きな声が出てしまって、ますます少女は赤くなる。 「友達、作ってから……一緒に、伺いたいです。れ、連絡先教えてもらえますか?」 「うん、喜んで」 エースはアドレスと電話番号を書いた紙を少女に渡した。 少女もまた、名前を名乗って、ゲームセンターで作った名詞をエースに渡して。 「パラミタのお花の事以外も、良かったら色々教えてください。よろしくお願いしますっ」 ぺこりと大げさなほど大きく頭を下げた。 「勿論、俺でよければ何でも聞いて」 それから、エースは近くのテーブルに置いてあった、ティーセットを手に取った。 「カモミールティーも作って持ってきたんだ。1杯どう?」 少女と、近くのテーブルの若者達に声をかける。 「いただきます」 「僕もいいですか?」 「うん、マドレーヌもどうぞ」 エースは集まって来た若者達と少女に、カモミールティーを淹れ、マドレーヌもつけて配っていく。 「わ、私も実はお菓子を持ってきていて……っ」 少女ががさごそと鞄を探って、中から、クッキーを取り出して、皆に配った。 「あの、実はこれ、カモミールの花が入ったクッキーなんです。あとは、ノースポールとか、クリサンセマム・ムルチコーレとかも、家族が好きで、実家でよく育ててるんです」 少女は活き活きと語りだした。 「そっか、カモミールはいいよね。心まで癒してくれる。ノースポールや、クリサンセマム・ムルチコーレも、君のように可愛い花だよね」 そんなエースの言葉に、少女は照れながらお礼を言って。 彼に心から感謝をしながら。 共に、集まった皆と楽しい時間を過ごしていく。 |
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