リアクション
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、空京で行われた謝恩懇親会に出席をした、ヴァイシャリー、百合園の要人達の護衛に志願して担当していた。 ○ ○ ○ パラ実生で空京の謝恩会に出席する者は少なかった。 酒も飲めない堅苦しい場よりも、若葉分校の祝賀会で騒いだり、たまり場で騒ぐことを選んだ者が多かったのだ。 そんな気ままに過ごしているようなパラ実生であっても、進路で悩んでいる者も少なくはなかった。 「あーん? 卒業してから何すりゃ良いのかわかんねー?」 キマクの居酒屋風の飯屋で、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は相席になった、知りもしないパラ実生の話し相手になってあげていた。 「大荒野に投げ出されるカンジがする……はぁ……」 「まあ……。どーせ、ウチなんて大してガッコー来てたわけじゃねーんだし、そこまで深く考えねーでも良いと思うが……」 もぐもぐ、カツカレー定食を食べながら、悠司は暇だし真面目に答えるのもいいかーと、考えてみる。 「ま、楽しくやれりゃいいんじゃねーの? どーせ、ダチが困ってりゃ楽しくもねーんだろーしな。『汝為したいように為すが良い』ってーのは、まっとうな人間にとっちゃそこまで悪くねーんじゃないかね」 「それは、このまんまでいいってことか?」 「まー、そうだな。俺は別に善人じゃねーからそこは当てはまらねーけど、俺みたいなそーいう小悪党はどっかで痛い目見るから心配すんなって」 「俺だって、世間から見たら、子悪党だって。バイクの改造とか、暴走とか好きだしなー」 少年の言葉に、悠司は軽く笑みを漏らす。 「そんなの、パラミタじゃ可愛いもんよ。……でもま、そーだな。お前さんも自分のことをそんなまっとうだなんて思えねーってんなら、お前さんがこいつはまっすぐだって奴を見つけてくれば良い。 そいつについてきゃ、自分もいつかはまっとうになれるって寸法さ」 「ゆーとーせは都市にごろごろいるけどさ、ソリが合わねぇんだよな。俺らのこと、バカにしやがるし。お前は、まっすぐな友人、いるのか? そいつといて、楽しいのかよ」 「そりゃ……」 答えようとして、悠司はふーと息をついた。 「あーあ、何か似合わねーこと言ってんな、俺。めんどくせー」 悠司は次第に会話がめんどくさくて仕方なくなってきた。 いつものことである。 「そう言うな。聞かせてくれ〜、兄貴!」 なんだか懐かれつつあるようだ。 「ま、いーや、ここの払いおごりな」 「話が面白ければ、おごりやっせ、兄貴!」 悠司の言葉に、少年はそう答えた。 「いや、面白い話じゃねーだろ……。まっすぐな奴はなー、付き合ってみると、それなりに面白いもんだ。めんどくせーところもあるけどな」 「そっか。やっぱ可愛い女の子がいいよな。真面目でも可愛らしさで許せる。いや、キャリアウーマン的な、美女も捨てがたい。養ってもらうのさ! あとは、真面目なバイク野郎ストーカーして、一緒にバイクショップ開くのもあり?」 「そーゆーのでも、最初はいいんじゃねー」 悠司は最後のカツを口に放り込みながら、言った。 何にしても、少年に元気が戻ってきたようだった。 ○ ○ ○ 「なななは、きび団子が好きなんだ?」 ヒラニプラ駅にて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、友人の金元 ななな(かねもと・ななな)と、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に、列車を待てっていた。 3人は列車に乗って、空京のスイーツフェアに行く予定だった。 「うん、M76星雲の名物なんだよ。饅頭とかどら焼きとか、最中も好き! ルカルカはチョコ好きだよね、すっごく好きだよね、遊びに行くときはいつも沢山もってるよね、チョコバー!」 「うんうん! でも、チョコはチョコバーに限らないわけよ」 頷きながら、ルカルカはバババッとチョコレートを取り出していく。 種もみチョコに、チョコバーに、金団長にもらったチョコレートまで持参している。 「ケーキならオペラやザッハが好物だけど、最近チョコパイもマイブームかな。 一口パイの中にチョコクリームが入ってて、お口にポン♪ って」 「ほほー。なななも、チョコ饅頭とか、チョコぽぴぴぽぽぴぴぽぽふぽぽぴとか好きだよ」 「ん? チョコぽぴー?」 「違う、チョコぽぴぴぽぽぴぴぽぽふぽぽぴ〜。M76星雲のおやつだよ。宇宙語だから発音難しいかもね」 「チョコぽぴぴぽぽぴぃぃぴ……む、難しい」 挑戦してみたけれど、ルカルカには言えなかった。 なななとルカルカは顔を合わせて笑い合う。 「似たお菓子はあるかなー」 「実際食べて見れれば、作れないこともないかもな」 スイーツフェアのチラシを広げると、後方にいたダリルも覗き込んできた。 ダリルは料理が趣味であり、パティシエでもあった。 ルカルカは良く彼にお菓子をリクエストし、作ってもらっている。 作ったお菓子を餌にダリルは「報告書が出来るまでお預けだな」などと言って、活発なルカルカにデスクワークをさせるのが常だった。 「あ、これこれこういうの! 見かけはこんなカンジ」 なななが指差したのは、チョコレートのカステラのようなお菓子だった。 「よし、これは一緒に絶対食べてみよう。美味しかったら、ダリル、お願いね」 「了解」 ルカルカはチラシにチェックをした後。チョコレート切れを感じて。 自分の口に種もみチョコを放り込んだ。 「なななも食べてみる?」 そして、なななにも種もみチョコやチョコバーを差し出す。 「これはね、硬い……から適当なところで飲んじゃうの」 言ってボリボリと噛んで、ルカルカは種もみチョコを飲み込んだ。 「確かに、硬いねぇ」 なななは種もみチョコを口に入れた途端、噛み始めた。 「ポン菓子にすればサクサクした歯ざわりになるぞ」 そうダリルが言った途端。 「作って」 「作って!」 ルカルカとなななが同時に、にっこりダリルに微笑む。 「ははは……。ルカはともかく、金元には今度作って持っていくから待ってろ」 「やった! おヘソから芽が出て実が採れるようにお願いね、ダリるん♪」 「ルカはともかくとはなによー。ルカにも同じのお願いね!」 「ヘソからは……ちょっと無理だと思うぞ。まあ、ポン菓子には挑戦してみるつもりだがな」 ダリルのそんな答えに、笑いながらなななとルカルカはぶーぶーとブーイング。 「ところでさ、なななのその、ダリるんって呼び方、可愛らしいよね。なななからみたダリルはダリるんなんだ。ダリルも満更じゃなさそうだし」 「いや、やめろと言って、やめる相手でもないからな」 ダリルの言葉にくすりと笑って、ルカルカはなななに目を向ける。 「ね、ルカになったつもりで《ななな流・ルカになりきり自己紹介》したらどんなになる?」 「ん? なりきり自己紹介?」 「そう、やってみて!」 なななはうーんと考えた後、にぱっと笑って言う。 「チョコレート帝国のチョコ魔神。ルカりん1号とは私のことよぉ〜。貴方の心を奪ってあげるっ。 伸びろチョコ棒! チョコレート・スプリンクル・サンデー・スイーツ・アターックッ!」 くるくるっと回したチョコ棒をかぽっとルカルカの口に突き刺した。 「ほにほへ〜」 「チョコレートは正義♪ だね!」 そして、なななはピースを頭の上で作り、小首を傾げてポーズを決める。 「はははは、私ってそんなイメージ?」 ルカルカと、そしてダリルも笑い出した。 それは可愛らしくとも、おかしな自己紹介だった。 それから3人は、空京に出て、チョコケーキや、チョコドーナツ、スプリンクルたっぷりのチョコサンデーなどなど、スイーツを存分に楽しんだのだった。 |
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