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リアクション
そして、『白騎士』を中心とする隊は、早くも前回風紀委員たちがこじあけた扉の手前まで来ていた。扉の前の光線兵器は既に破壊されているが、感知器が生きているか死んでいるかは彼らには判らない。と言うわけで、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)、フリューリング・アッヒェンバッハ(ふりゅーりんぐ・あっひぇんばっは)そしてヴォルフガング・シュミットのパートナー、エルダが盾を構えて前に出た。
「林教官に提出された報告書では、この壊れたドアの向こうで、風紀委員と量産型機晶姫が交戦したはずです。この先は警戒を強めた方がいいでしょう」
エルダが注意を促すが、
「邪魔しないで下さいよ、前が見えないじゃないですかっ!」
一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)がぴょんぴょん飛び跳ねて、盾の向こうを覗こうとする。
「お嬢ちゃんが盾になったら、この盾の実用試験が出来ないのでな。これでも食べて、大人しくしていてくれないか」
セオボルトがほい、と芋ケンピの入った紙袋をアリーセに渡す。
「むぅ、それって技術科が開発した盾なのに、なんで秘術科が試験するんですかっ」
貰った芋ケンピをぼりぼり食べながら、アリーセが難癖をつける。
「秘術科は、『戦いにおける魔法の運用』を研究する科であるからな。当然、魔法に対する防御も研究課題のうちだ。ちゃんと楊教官に話は通してある」
だが、セオボルトはしれっとして答える。
「う……教官の許可を得てるなら、いいですが……」
アリーセは引き下がったが、前は見たいらしくしきりに盾の左右からひょいひょい前を覗き込んでいる。
「こら、アリーセ。ちょっと落ち着け!」
アリーセのパートナー、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が、アリーセの首根っこを掴んで後ろに下げる。
(フィーも、あんな風に他の生徒と接することが出来るようになればいいのに……)
その様子を見て、フリューリングのパートナー、ヴァルキリーのクローネ・シュテルンビルト(くろーね・しゅてるんびると)は心の中でため息をついた。だが、フリューリングは会話には加わらず、硬い表情で盾を構えて前を見据えているだけだ。
「見目麗しい女性はいないものでしょうか……ねえイリーナ」
ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)があたりをきょろきょろと見回しながら、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)に声をかけた。
「銀色に輝く戦乙女なら、これから幾らでも出会えるさ。熱烈歓迎つきでな」
いつ敵が現れるか判らないのに、何を能天気なことを、と言いたげにイリーナは切り返す。一方、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)はヴォルフガング・シュミットに話しかけた。
「我々は今回、量産型機晶姫のサンプル確保に専念したいと思っています。確保したサンプルはヴォルフガング卿に寄贈しましょう。楊教官の所へお持ちください」
「聞くところによると、楊教官の目的の一つはサンプルの入手だそうだから、サンプルを確保すること自体はいいと思う。……だが、手柄を譲られるのは、面白くない」
弓を背負ったヴォルフガングは意外にも、面白くなさそうな表情をした。
「君たちが確保したものなら、君たち自身が楊教官の元へ持って行けば良い。『白騎士』の協力者だと言えば、私自身が持って行かなくても、我々の手柄になる」
「正々堂々と、というわけですか。了解しました」
レオンハルトは軽く苦笑して答えた。
「ところで、ヴォルフィはここに眠る技術を手に入れて、何かやりたいことがあるのか?」
イリーナがヴォルフガングに訊ねる。
「具体的に何がしたいと言うものはまだない。と言うより、欲しいのは技術そのものではなく、楊教官に技術を提供することによって得られるものだ」
ヴォルフガングはかぶりを振った。
「私は、風紀委員や査問委員が教導団を牛耳っている今の状態を好ましくないと思っている。しかし、楊教官に認められ、便宜を図ってもらえるようになれば、彼らも我々を認めざるを得なくなるだろう」
その時、
「……何か聞こえないか?」
レーゼマンが掲げていた盾をずらし、前方を見た。
「早速来たようですね」
ルースがうなずく。しばらくすると、他の生徒たちの耳にも、カンカンカン……という金属的な足音が聞こえて来た。廊下の先に、銀色の姿が現れる。
「そら、早速お出ましだぞ」
イリーナがルースを小突く。
「あれもまあ……一応女性ですかね」
マネキンと大差ないような量産型機晶姫の姿に、やや落胆しつつルースは応えた。
「私とフィーは、盾を使って防御に努めます」
そう言ったクローネをフリューリングは振り返り、アサルトカービンを軽く掲げて見せた。
「あ、フィーは余裕があれば、盾ごしに攻撃もするそうです」
クローネは慌てて付け加えた。
「後ろの守りは任せるでありますっ!」
イリーナのパートナー、ゆる族のトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が、身長と同じくらいの大きさの盾ごと光学迷彩を被り、後方の警戒につく。
ヴォルフガングがうなずき、弓を構える。それが合図になった。レーゼマンとフリューリングが機晶姫に向かって発砲する。先頭の機晶姫に数発、銃弾を叩き込んだが、機晶姫の動きは止まらない。腕や肩から現れた銃身から、光の弾丸がほとばしる。
「前回とは、装備が違うのだよ!」
レーゼマンが盾でそれを受け、銃で反撃する。盾は機晶姫の攻撃に対して充分な効果があるようで、鉄板に水玉を落とした時のようなジッ、と言う音と共に、盾に当たった光の弾丸が消滅して行く。盾が傷つくこともないようだ。
「おお、これは使えますな!」
盾を持っていなければ手を叩きそうな様子で、セオボルトが喜ぶ。その後ろから、セオボルトのパートナー、ドラゴニュートのイクレス・バイルシュミット(いくれす・ばいるしゅみっと)が火術で出現させた火球を蹴り込んだ。しかし、機晶姫は火には強いらしく、怯む様子もない。
「機晶姫なら、火よりも雷が効くはずだ!」
ヴォルフガングが、弓で轟雷閃を放った。矢をのどもとに受けた機晶姫の体が一瞬放電に包まれ、動きが止まる。
「ソフィア、クレッセント、討って出る、続け!」
レオンハルトはクリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)のパートナーである機晶姫クレッセント・マークゼクス(くれっせんと・まーくぜくす)と、ルースのパートナーの機晶姫ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)に声をかけた。
「援護します!」
クリスフォーリルがアサルトカービンを構え、後列の機晶姫を狙い撃つ。レーゼマンのパートナー、機晶姫のイライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)も、広角攻撃で敵の動きを牽制する。
「ふれー、ふれー、レ・オ・ン!」
なぜかチアガールのコスチュームを着たシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)が、片手に盾を、片手に黄色いポンポンを持って声援を送る中、レオンハルト、クレッセント、ソフィアは前方に出た。
「ほーら、こっちだ!」
光学迷彩を使って隠れていたイリーナが、最前列にいる別の機晶姫の腹を撃つ。撃たれた機晶姫は、イリーナに向かって攻撃して来た。イリーナは慌てて光学迷彩を使ったが、光学迷彩に攻撃を防ぐ力はない。攻撃が当たるものと思ったイリーナは、床に転がって丸くなり、頭と腹をかばった。だが、光の弾丸が当たる前に、フリューリングがイリーナの前に立ち、攻撃を防いでくれた。
「ありがとう、助かった」
「……どういたしまして」
礼を言うイリーナに、フリューリングはぼそりと答えた。
その間に、レオンハルトが機晶姫の肩に片手剣形の光条兵器を叩き込み、内部の関節だけを斬った。機晶姫の片腕がだらりと下がる。だが、麻痺状態から回復した機晶姫は、反対側の手の銃をレオンハルトに向けた。
「ごめんなさい……でも、私には守りたいものがあるんです」
ソフィアが、その腕にしがみついた。
「同胞と戦うのは気が引けるのですが、やむをえません」
クレッセントは、機晶姫の無傷な方の肩にカルスノウトを振り下ろした。機晶姫はばたばたと暴れ始める。肩の関節を攻撃されて腕の制御は効かないが、身体を捻れば腕を振り回すことは出来るのだ。しがみついていたソフィアが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「……生け捕りにしたかったが、やむを得ないな」
レオンハルトは、目にも止まらぬ速さで光条兵器を繰り出した。何度か斬りつけて、やっと機晶姫が動かなくなる。レオンハルトとクレッセントは、動かなくなった機晶姫を引きずって、盾の後ろへ下がった。
「ちょっと、見せてもらえますか? ……機晶石は、どこにあるのかしら……」
やおら機晶姫の身体を分解しようとし始めたアリーセを、ソフィアが止めた。
「やめてくださいッ! 」
「……ごめんなさい。ちょっと無神経でしたね」
アリーセは素直に謝ると、ヴォルフガングを見た。
「差し支えなければ、私とグスタフはこの機晶姫と共に下がります」
「判った」
ヴォルフガングは頷いた。
「念のため、護衛として着いて行きましょう」
クリスフォーリルが申し出た。アリーセと、機晶姫を背負ったグスタフと共に、来た道を引き返して行く。
「よし、これで、残りは叩き壊して構いませんね?」
ルースが盾ごしに広角射撃を始める。機晶姫を次々と破壊していくパートナーを、ソフィアが沈痛な表情で見ていた。
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